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52 泳ぎの練習②




 僕らはストレッチを終えプールの中に入った。

 プールの水温はそこまで低くないし、室内は暑すぎず寒すぎずほどよい。直射日光も差してないから屋外プールよりも過ごしやすい。まだまだ病弱な五十鈴さんには丁度良い環境なのかもな。


「……」


 五十鈴さんは初体験のプールに戸惑っている。


「まずは水に顔を付けるとこからやってみようか」


 さっそく葵が指導を始める。

 水に顔を付けるなんて初歩の初歩だけど、五十鈴さんは泳ぐ以前に水に慣れるとこからスタートだ。


「……」


 プールに顔を付ける五十鈴さん。


「じゃあ次は潜ってみよう」


「……」


「プールサイドに手を付いてバタ足の練習」


「……」


「体を浮かせてみよう」


「……」


「…うん、問題ないね」


 五十鈴さんは問題なく葵の指示通り動く。


「泳げないって聞いたけど水が怖いわけじゃないんだね。適応するのも早いし、なんだか教えがいがないなぁ」


 葵も拍子抜けといった様子だ。

 やっぱり五十鈴さんは経験不足なだけであって、運動神経は人並み以上だ。スムーズにプールという環境に適応している。


「じゃあ今度はバタ足で泳いでみようか。庭人くん」


「うん?」


「五十鈴さんの手を引いてあげて」


「…」


 また葵は考えなしに…

 普通なら動揺する指示だが、今の僕は二人乗りを経験して耐性が付いている。手を繋ぐくらいで動揺したりしないぞ。


「いいよ。じゃあ五十鈴さん」


「うん……」


 僕は五十鈴さんの手を取る。

 綺麗な手だな。


「それじゃー進んでみよう」


「……」


 五十鈴さんがバタ足を始める。

 真っ直ぐ前に進んでるしフォームも安定してる。これだけ泳げればプールで遊ぶくらい支障はないだろう。それに泳げなくても浮き輪があれば…


「……!」


 そう思った突如、五十鈴さんがバランスを崩した。


「庭人くん、五十鈴さん足つってるかも!」


「!?」


 異変に気付いた葵が即座に指示を飛ばす。

 僕は慌てて五十鈴さんの体を支えた。ストレッチで準備運動はしてたけど、慣れない運動の負担が予想よりも大きかったんだ。


「五十鈴さん!」


「……!」


 痛みで上手く身動きが取れず、かなり焦っているようだ。五十鈴さんは慌てて僕に抱きついてきた。


 …非常時だと煩悩って湧かないんだな。


「大丈夫ですか?」


「う、うん……」


 なんとか落ち着きを取り戻す五十鈴さん。


「ごめんごめん、無理させちゃったね。もっと早く休憩を挟むべきだったよ~」


 葵も加勢して五十鈴さんの体を支え、プールサイドに移動した。


「あ、ありがとう……」


 五十鈴さんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 取りあえず足が回復するまで休憩だな。





 あれから休憩を挟みつつ、五十鈴さんの練習は続いた。

 五十鈴さんの上達は葵でも目を見張るものがあり、クロールや背負泳ぎまでも習得。最後は50メートルの記録を測ったり、三人でレースなんかもやった。


「ふぅ…いい運動したな」


 僕らはプールを出て休憩室でぐったりしている。

 今年の夏初めてのプール、何だかんだ思いっきり堪能した。このプールが終わった後の疲労感が心地よい…このまま寝てしまいそうだ。


「……」


 五十鈴さんもお疲れの様子だ。

 プールを出たら、今度は船をこいでいる。


「ほらほら、これで目を覚まして!帰るまでが練習だよ」


 葵が僕らの前に冷たいコーヒー牛乳を置く。


「私の奢りだよ」


「やけに気前がいいな」


「二人には宿題の時にお世話になったからね~」


 葵は上機嫌でコーヒー牛乳を一気飲みする。

 五十鈴さんは勉強、葵はスポーツ。意図してたわけじゃないけど、お互いの欠点を補い合うwin-winな仲になれたな。


「……!」


 五十鈴さんは立ち上がって葵と僕に頭を下げる。


「今日は、ありがとうございました……」


「いいんだよ~私も楽しかったから」


「僕も楽しかったですよ」


 トラブルは多々あったけど泳げるようになって良かった。これで安心して五十鈴さんを見送ることが出来る。


「そうだ庭人くん」


「ん?」


「にゃいんで湖島園に行く誘いが来てたの、まだ返事してないよね」


「…」


 そう…今日のプールは練習。

 本番はみんなと行く湖島園のプールにある。


 成り行きで宿題一掃の時に集まったメンバーでにゃいんグループが作られたんだけど、そのグループで西木野さんから湖島園に行かないかとの通知があった。


 僕はまだ返事を出していない。


「行くでしょ?」


「いや…城井くんと涼月くんが用事で来れないらしいから、僕も遠慮しようかと」


 男子は僕を入れて三人だけ。

 だが涼月くんは家族と遠出、城井くんは部活で来れないらしい。対して女子は全員参加、つまり僕が行けばまた黒一点となってしまう。


 五十鈴さんを含める女子六人と一緒にプールって、どんなリア充だよ。いくら何でもそのシチュエーションは平凡代表の僕には手に余る。


「園田くん……行かないの?」


 五十鈴さんは不安げに呟きながら、上目遣いで僕を見る。


「えっと…」


「きっと楽しいよ……行こう……?」


「………行きます」


「良かった……」


 安堵の笑みを浮かべる五十鈴さん。

 そんな足をつって溺れそうになった時と同じ目を向けられたら、断れるわけがない………まあ五十鈴さんに頼られるのは本望なんだけど。


 それに遊びに行くこと自体は楽しみではある。


 何かと話題になっている湖島園へ行くのは初めてだし、五十鈴さんの可愛い方の水着姿を拝まないと後悔の残る夏休みになる。


 だが…周囲からヘイトを集めるだろうから覚悟が必要だ。

 それと同じクラスの人と遭遇することは避けたい。ただでさえ五十鈴さんの隣を独占して嫌われてるのに、これ以上嫌われたくない。


 こればかりは祈るしかないな…

26 泳げるようになる。×

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