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51 泳ぎの練習①




 約束の練習日。

 僕と葵は自転車で五十鈴さん家に到着した。


「……」


 家の前では私服姿の五十鈴さんが僕らを迎えてくれる。

 あの服が西木野さんたちとのショッピングで購入した服か。良いセンスをしている…もし点数を付けるなら百万点くらいかな。


「今日は……お願いします……!」


 五十鈴さんはぺこりと僕らに頭を下げる。


「任せて!私の指導と五十鈴さんの素質が合わされば最強だから!」


 葵は自信満々に胸を叩く。

 こいつは運動のことになると熱くなる悪癖があるから、五十鈴さんに無茶させないよう見張っておかないとな。


「それじゃあ行こうか。五十鈴さんの自転車は?」


「……?」


 葵の言葉にキョトンとした様子の五十鈴さん。


「私……自転車、持ってない」


 ………


 そりゃそうか。

 五十鈴さんはまだ退院して日が浅い、持っているどころか乗れるはずもない。

 

 …あれ?これ、まずいんじゃないか?


「じゃあ庭人くんの自転車で二人乗りだね」


 葵がとんでもない事をさらっと言い放つ。


「なんでだよ!」


「私のマウンテンバイクだから荷台ないし」


「じゃあ自転車を交換して…」


「私の愛車は私にしか乗りこなせないよ~」


「…」


 そうか…昨日感じた胸騒ぎはこれだ。

 市民プールまで自転車で行く。五十鈴さんは自転車に乗れない。二人乗りになる。葵は小さい頃からマウンテンバイク派。僕と五十鈴さんで二人乗りするしかない。


 ここまでを昨日の内に想定しておくべきだった。

 

「園田くんは……二人乗り反対……?」


 五十鈴さんは不安げに僕を見つめてくる。

 二人乗りすること自体に異論はないのか…


「そ、そうですね。二人乗りは危ないですし」


「庭人くん、よく楓ちゃんと二人乗りしてたから慣れてるでしょ」


「いや…そうだけど」


「歩くと三十分以上はかかるし、泳ぎ練習のために体力は温存したほうがいいよ。五十鈴さんには私のヘルメット貸すから大丈夫大丈夫!」


 葵は自分のヘルメットを外し、五十鈴さんに被せる。

 こいつは天然だからこの事態を軽く見ているのだろう。五十鈴さんと葵の天然コンビか………厄介だ。女子のブレーキ役である西木野さんも誘うべきだったんだ。


 ここで僕が強引に拒絶したら五十鈴さんを傷つけてしまうかも…


「じゃあ…乗りますか?」


「うん……」


 五十鈴さんは僕の自転車の荷台に腰を下ろす。

 美少女と二人乗りか…こんなロマンチックな展開を平凡な僕が体験できるとは。


 ぎゅ…


「!?」


 五十鈴さんは僕の後ろから手を回し、ぎゅっと密着してくる。


 ………


 心を無にしろ、僕。

 雑念を捨てよ…


「それじゃーしゅっぱーつ!」


 呑気な掛け声を上げる葵。

 序盤からこんな調子で大丈夫か?





 花束市民プール。

 ここは僕が生まれる前からある歴史の長い屋内プールだ。


 とは言っても建物自体は綺麗なものだ。

 プールも広々としており、サウナや温水プールなんかも付いている。施設内にはスポーツジムにマッサージ、簡単な食事がとれる食堂も完備。少し前まではそれなりに人を集めていた。


 この近辺に“湖島園”という大型の屋外プールが出来るまではね。


 おかげでここはガラガラだ。

 小学生の頃からここを利用してた僕からすると少し寂しい気持ちになる。そのうち潰れてしまうのだろうか…


 でも今日に限っては好都合。

 人がいないからプールを贅沢に使えるし、変なギャラリーもいない。五十鈴さんが泳ぎの練習を打ち込むに絶好の環境だ。


「…」


 僕は水着に着替え、プール内のベンチに座って五十鈴さんと葵が来るのを待っている。女子の準備は時間がかかるからな。


 ……よし、二人乗りで受けた精神ダメージが回復してきたぞ。


「おーい庭人くん」


 僕の名前を呼ぶ葵の声。


 来たな…きっとショッピングの時、五十鈴さんに似合う水着も買っているはず。五十鈴さんの水着姿を見ても動じないよう、気をしっかり持たないとな。

 覚悟を決めて顔を上げる。


「……」


 五十鈴さんの着ている水着は、学校指定のスクール水着だった。


「あれ?五十鈴さん、水着は買わなかったんですか?」


「買ったけど……あれは遊ぶ用。これが練習用……」


「…なるほど」


 確かに競技や練習に適しているのは、遊ぶためのお洒落な水着よりもスクール水着だよね。


 可愛い水着が見れなくて残念……とは思わない。

 何故なら五十鈴さんのスクール水着姿が素晴らしいからだ。


 学校指定の水着はシンプルなものだが、そのシンプルさが五十鈴さんの綺麗な肌を際立たせていた。服で隠されていたバランスの良いスタイルが露になり、今までとは全く違う魅力を放っている。


 中学で既にこのレベルなら、高校に上がる頃にはどうなってしまうのだろうか。


「じゃあまずは葵流ストレッチから始めよ~」


「………」


「…どしたの庭人くん?」


「え?あ、いや何でもない!」


 葵の言葉で我に返る。


 つい見惚れてしまった。

 心の準備をしてても五十鈴さんの魅力に抗えない。


「葵流ストレッチ……?」


 五十鈴さんは聞いたことのない単語を繰り返す。


「学校の授業でやってるストレッチは関節を痛めて運動力が低下させちゃうんだよ。だから運動前は動的ストレットを中心とした葵流ストレッチが最適!」


「おお……」


 豆知識を聞いて五十鈴さんは感心している。

 葵のスポーツに関する知識は大人顔負けだ、取りあえず僕も葵の言う通りに動くとしよう。

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