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50 プールに向けて




 ショッピング中の五十鈴さん一行は、喫茶店で休憩を取ることにした。


「……」


 五十鈴さんは初めてのタピオカを味わう。

 可愛い服を手に入れ、新しい友達も出来た。これ以上楽しいショッピングがあるだろうか?五十鈴さんは文句なくノートにチェックを入れるだろう。


「次は水着でも買う?五十鈴さん持ってないでしょ」


 タピオカを咀嚼しながら西木野さんが尋ねる。


「水着……学校指定の水着なら……」


「あれはスクール水着でしょ。海とか市民プールで遊ぶなら、それ用の水着が必要よ」


「……」


 外用の水着は五十鈴さんにとって盲点だった。水着で遊びに行くならスクール水着でも構わないと思っていた。


「そういえばあそこのプール、今年からオープンだよね。湖島園だっけ?」


 喫茶店の窓から外を眺めながら星野さんが呟く。


「この華宮の近場に出来たんだっけ?」


「そうそう、テレビCMでよく流れてるやつ」


「今度みんなで行ってみようか」


「いいね!」


 西木野さんの提案に星野さんが賛同する。

 だが他の人の反応は複雑なものだった。


「プールかぁ…行ってみたいけど、どうしよう…」


 木蔭ちゃんは友達とプールに行った経験がなく、自分の貧相な体を他人に見せたくなかった。他にもいろいろ不安に思うことが多いようだ。


「行ってみたら楽しめるよ、飛び込んでみよう!」


「う、うん…」


 星野さんに押され、木蔭ちゃんは決心したように頷く。


「出雲さんも一緒に行こう」


 西木野さんは今回初めて五十鈴さんと関わった出雲さんを誘う。


「いや、私は…」


「あの五十鈴さんが水着でプールなんて、守ってくれる人がいないと不安だものね~」


「…」


 西木野さんがわざとらしく煽ると、出雲さんの目の色が変わる。


「…同行する」


 五十鈴さんが水着姿で衆目にさらされれば何が起きても不思議ではない。護衛に付かなければ親衛隊の名が泣くだろう。


「五十鈴さんも行ける?」


「う、うん……行きたい」


 五十鈴さんは即答で返す。

 このお誘い自体は非常に喜ばしいことだ。


 だが五十鈴さんは内心焦っていた。


 五十鈴さんのやりたいことノートには順序がある。友達とプールに行くことは、やりたいことノートに含まれている。だがその前にやらなければいけない項目があった。


 それがこれだ。


『26 泳げるようになる。』





 ショッピングの次の日。

 五十鈴さんは自室でやりたいことノート、五ページ目を開いた。


――――――――――――――――――――

51 大きなプールに行きたい。

52 海に行きたい。

53 花火で遊ぶ。

54 夏祭りを満喫する。

55 花絶景を見に行く(夏)

56 ~の秋を制覇。

57 落ち葉で焼き芋を焼く。

58 ハロウィンで仮装する。

59 まつたけを見つける。

60 花絶景を見に行く(秋)

――――――――――――――――――――


 季節は一つの世界を様々な色に塗り替えてくれる。

 夏は世界を真っ赤に染め、人々は涼を求め青に染まる。夏ならではの楽しい行事もよりどりみどり、青春時代の思い出を作るには最高の季節だ。


「……」


 昨日のショッピングでみんなと交わしたプールに行く約束。向こうからやりたいこと達成のチャンスがやってくるのだから願ったり叶ったりだ。

 しかし五十鈴さんの中ではタイミングが悪かった。


 何故なら五十鈴さんは泳げない。


 それも当然、五十鈴さんは病院の外で夏を過ごすのは初めてだからだ。プールや海にも行ったことがないし、小学校に通っていないので泳ぎ方も学んでいない。


 泳げない状態で友達と大きなプールへ遊びに行けば、きっと気まずい事になってしまうだろう。


 よって早急に泳ぎを習得する必要がある。とはいえ五十鈴さんは一人で市民プールに行き、泳ぎの練習をするような技量も度胸もない。


 やはり頼れるのは園田くんだ。

 五十鈴さんはスマホで園田くんに電話をかけた。


「……」


 この応答を待っている時間が一番緊張する五十鈴さん。


『も、もしもし…』


 数秒後、園田くんは電話に応じてくれた。


『どうかしました?五十鈴さん』


「あの……お願いがあって」


『お願い?』


「その……泳ぎ方を教えて欲しいの……」


『泳ぎ方ですか…』


「西木野さんたちとプールに行く約束をしたんだけど……私、プールに行ったことなくて……」


『わかりました、じゃあ一緒に練習しましょう。葵にも声をかけておきます』


「向日ちゃんも……?」


『あいつは僕よりも運動教えるの上手ですし、誘えば喜んで協力してくれますよ』


「う、うん……ありがとう……」


 やはり園田くんはどんな時でも頼りになる。

 プールで迷惑をかけないよう、五十鈴さんは練習日までにストレッチやジョギングで体作りに励むのだった。





 園田くんは五十鈴さんとの電話を切ると、すぐ向日ちゃんに電話をかけた。


「もしもし葵?」


『どしたの庭人くん』


「実は五十鈴さんに泳ぎ方を教えてあげて欲しいんだ」


『泳げないんだ…意外だね』


「他言するなよ」


『うん、引き受けた。五十鈴さんには宿題の時にお世話になったからね』


「助かる」


『じゃあ近場の市民プールで練習しようか。あそこなら五十鈴さんの家から近いし、人も少ないだろうから』


「そうだな、自転車でならすぐだし」


『今週は予定空いてるから、いつでも誘って!』


 園田くんは向日ちゃんと約束を交わし電話を切る。そしてにゃいんで五十鈴さんにその旨を伝え、練習日を確定させた。


「ふぅ…」


 まさかのイベントが発生し、園田くんは気を落ち着かせるように息を吐く。


(五十鈴さんの泳ぎの練習に付き合うか……五十鈴さんの水着姿を見ても、平常心を保てるようにしないとな)


 泳ぎの練習と銘打っているが、これは五十鈴さんとプールへ遊びに行くことと変わらない。それは世界中の男子が羨むイベントだ、園田くんも内心ではかなり浮かれている。

 だからこそ問題が起きないよう念入りに計画を立てる必要がある。


(五十鈴さんは運動センスあるし、葵の指導があればすぐ泳げるようになるだろう。あそこの市民プールは近くに大きな湖島園が出来たから人が来なくなった。同年代に見られる心配も恐らくはない…あったとしても葵と一緒なら大丈夫だろう)


 計画に支障はない。

 大きなトラブルは発生しないはずだ。


(…本当に大丈夫か?何か見落としているような…?)


 園田くんは胸騒ぎを感じていた。

 その原因は、練習当日に嫌というほど思い知らされることになるだろう。

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