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49 出雲さん




 出雲八恵(いずもやえ)さん。

 身長は中学生女子とは思えない175センチ。きりっとした顔立ちに凛とした佇まい、毛羽立ちも乱れもない長くて美しい黒髪も特徴的だ。彼女を一言で形容するなら“武士”という単語が的確だろう。


「…」


 遠巻きから五十鈴さんを観察する出雲さん。

 ここで遭遇したのは偶然だった。


(五十鈴さん…いつ見ても可愛い)


 出雲さんは可愛いものに目がない。


 学校で初めて五十鈴さんを目撃した時は、雷が落ちたような衝撃を受けた。

 高貴なオーラの中には愛嬌があり、高圧的な雰囲気の中には弱々しい面もある。そんな美しくも儚いミステリアスな魅力に魅入られてしまった。


(例のグループで買い物か…)


 五十鈴さんは西木野さんたちと一緒にショッピングを楽しんでいた。


(………)


 出雲さんはあの輪に入るつもりはない。

 自分なんかが五十鈴さんと仲良くなれるはずがないと考えていた。


 身長が高く表情も強張っているので、近寄りがたい容姿をしている。家庭の事情で習い事に時間を割き、今まで他人と深く関わる暇がなかった。

 過去に同級生と接しようとして怖がらせてしまった経験があり、仲良くなれても習い事のせいで疎遠になってしまう。だから出雲さんは同い年との人付き合いが苦手なのだ。


(服屋に向かっている…五十鈴さんの服を買うつもりか)


 五十鈴さんがどんな服を買うのか出雲さんの興味は尽きない。このまま距離を置きつつ五十鈴さんグループを見守ることにした。

 

「こんにちは出雲さん」


「!?」


 その時、背後から声をかけられる。

 出雲さんは勢いよく振り向く。


 そこには同じクラスの木蔭ちゃんがいた。

 いつの間にか五十鈴さんたちから離れ、出雲さんの背後に回り込んでいたようだ。常に気を張り詰め隙のない出雲さん、背後を取られここまで接近されたのは初めての経験だった。


「やっほー出雲さん」


「!?」


 木蔭ちゃんに気を取られていると、今度は西木野さんたちが接近していた。出雲さんは挟み撃ちにされてしまった。


「奇遇だね、せっかくだから一緒に買い物しない?」


「え、いや…私は」


 偶然を装う西木野さんの誘いに、出雲さんは戸惑う。


「一緒に、どう……?」


 便乗して五十鈴さんも出雲さんを誘った。


「………」


 このお誘いを拒否すれば、五十鈴さんの気分を害し今日という日を台無しにしかねない。出雲さんはそれだけは絶対に避けなければならなかった。


「…よろしく」


 もはや退路はない。

 出雲さんは観念して了承した。





 五十鈴さん一行は新たに出雲さんを仲間に加え、有名ブランドの洋服屋に入る。


「五十鈴さんに似合う服か…」


「ぶっちゃけ、何着ても百点は堅いよね」


「問題はどれだけ加点を稼げるかだね…」


 西木野さん、星野さん、木蔭ちゃんは話し合いを始める。

 金髪碧眼の完璧美少女である五十鈴さんは、元が良いので大抵の服は似合うだろう。だからこそ無難な服で済ませたくはない。


 目指すは百点ではなく満点。


 だが西木野さんたちは衣服に関してのセンスは素人、そっち方面での才能は持ち合わせていない。あらゆる人々から注目される五十鈴さんのファッションを決めるのは責任重大だ。


「…」


 出雲さんは何か言いたげにそわそわしている。


「…出雲さんはなんかある?五十鈴さんに似合いそうなコーディネート」


 その様子を見かねて西木野さんが尋ねた。


「む…私なら…」


 待ってましたと言わんばかりに出雲さんは動き出す。

 可愛いものへの拘りなら一家言持ちの出雲さん。五十鈴さんにどんな服が似合うのか今まで何度も妄想している、その妄想を現実のものにする時がきた。





 何度も試着を繰り返し、選び抜かれた組み合わせがこれだ。


 黒のギンガムチェックシャツ、ベージュのロングフレアスカート、ネイビーのサマーニットのベレー帽。


 中学生離れした五十鈴さんのスタイルとノルウェー系ハーフの特徴を最大限に生かしたカジュアルファッション。制服姿では幼さを残していた五十鈴さんだが、この服を纏うと大人の魅力とカリスマ性を漂わせていた。

 胸にかけた顔を隠すための安物サングラスもいい味を出している。


「似合ってる……?」


 自分の姿に自信がない五十鈴さんは友達に感想を求める。


「かわいいかわいい」

「満点を超えた何かになってるよ」

「モデルさんみたい…」

「一片の悔いなし」


 西木野さんたちは率直な感想を述べた。

 自分に自信がなくても、友達の言うことならば信用できる。


「……ふう」


 五十鈴さんは安堵と疲れが混じった息を吐く。

 慣れないショッピングで散々服を着替えさせられたので、お疲れ気味のようだ。


「服も決まったし喫茶店で休憩しようか」


 その様子を見逃さなかった西木野さんはそう提案した。


「いいね、行こう行こう!」


 星野さんが先行し、五十鈴さんと木蔭ちゃんが後を追う。


「…」


 出雲さんは動かない。

 ついて行くべきか悩んでいるようだ。


「親衛隊なんでしょ?もっと近くで守ってやればいいじゃない」


 そんな出雲さんの背中をポンと叩く西木野さん。

 だが出雲さんは悩んでいた。


「…私は堅物だ。無駄に身長も高い…そんな私が馴染めるだろうか」


「華岡はそんな色物の集まりでしょ。むしろ出雲さんの特徴は弱いよ」


 そう言って西木野さんは屈託なく笑う。


「………」


 出雲さんは過去の失敗が影響で、自分から他人と関わることに抵抗があった。

 五十鈴さんグループとは関わらないと決めつけていたが、それは人付き合いを諦めているだけに過ぎない。本心では五十鈴さんと仲良くなりたい、遠くからではなくそばで見守りたい。


「…これが私の道か」


 出雲さんは過去を振り払い、新たな道を進む覚悟を決めた。


「お供しよう。そして五十鈴さんの役に立てるよう尽力することを誓う」


「やっぱりお堅いなぁ」


 西木野さんは苦笑する。

43 ショッピングに出かける。×

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