48 ショッピング
時は少し遡り、夏休み二日目。
「そういえば五十鈴さんって園田くん家で遊んだとき制服だったよね。もしかして私服持ってないの?」
星野さんが宿題の手を休めつつ雑談を口にする。
「え、そうなの?」
園田くん家へ遊びに行かなかった西木野さんが驚く。
「……うん。外着は……華岡の制服しか持ってない」
五十鈴さんは不安げに事実であることを認める。
私服を持っていない発言にはびっくりさせられるが、誰もそれを言及しようとは考えなかった。
「へぇ…それだと不便でしょう。宿題が終わったら、一緒に買い物なんてどうかな?」
「……!」
星野さんの提案に五十鈴さんは胸を高鳴らせる。みんなでショッピングは、やりたいことノートに書かれたミッションに含まれているからだ。
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41 友達の家に遊びに行く。×
42 友達を家に招待する。
43 ショッピングに出かける。
44 プリクラを撮る。
45 ボウリングでストライク。
46 カラオケで歌う。
47 バトミントンで対決。
48 食べ放題に行く。
49 映画館に行く。
50 お泊り会を開く。
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40番台のやりたいことは友達がいないと達成できないものがほとんど。そのチャンスを今の五十鈴さんが自発的に起こすことは困難。
この機を逃す手はない。
「行く……!」
「おお…やる気だね」
五十鈴さんの勢いに押される星野さん。
こうして夏休みの宿題を終えた次の日、みんなでショッピングに行く約束をした。
※
華宮ショッピングモール。
華岡学校のある“華ヶ丘市”周辺に住む住人が買い物に行くとなったら、まずはここだ。
食料や生活用品など、思いつくものなら確実に揃っている。中にはゲームセンターやボウリングなどの娯楽施設もあるので学生の遊び場としても不自由しない。多彩な飲食店に子供が遊べる公園も配備されているので、家族連れで休日を過ごすにも人気。広い地域から無料の送迎バスが出ているので、気軽に足を運べるのも利点だ。
「暇な時はどうしよう?」
「取りあえず華宮に行こう!」
そんな会話が華ヶ丘市では日常的に交わされている。
この地域の名物スポットだ。
「……」
送迎バスを降りて巨大なショッピングモールを見上げる制服姿の五十鈴さん。
「………………」
五十鈴さんは緊張していた。
親抜きで初めてのショッピング。
それがどれだけ緊張したか、皆さんは覚えているだろうか?五十鈴さんが感じる緊張は、それを百倍強めたくらいだろう。
更に人気のあるショッピングモールなら、人も多い。
「え、なにあの美少女…!」
「どこかの芸能人?」
「今日何かのイベントでもあるのか?」
華宮ショッピングモールに降臨した超絶美少女の五十鈴さんに、道行く人々が注目しないはずがない。交通整備をしてくれる警官が必要なレベルで人の足を止めていた。
「……」
周囲の視線と噂話で神経ダメージを受ける五十鈴さん。
「おいっす、五十鈴さん」
「おはよ~」
「おはよ…」
そんな五十鈴さんの前に三人の女子が現れた。
西木野さん、星野さん、木蔭ちゃんだ。
「……!」
五十鈴さんは異国の地で知り合いに会えたような安心感を覚える。
「向日ちゃんは部活の助っ人、希は家の用事で来れないからこれで全員だね」
西木野さんが集まった面々に伝える。
来れなかったのは向日ちゃんと朝香さんだけ。男子三人は女子の買い物ということで今回は不参加。
「……」
園田くんがいないのは五十鈴さんにとって深刻だが、今回は事前にいないことを知っているので心の準備は万全。
西木野さんたちがいれば大丈夫だ。
「…それはそうと星野さん、それが今日のラッキーアイテム?」
取りあえず西木野さんは星野さんの持ち物にツッコミを入れる。星野さんの手にはハンガーが握られていた。
「うん、今日の運勢は絶好調なんだ。占いでは“新しい友達が増えるでしょう”ってね」
「新しい友達ねぇ」
占いに左右される星野さんが少し心配になる西木野さん。
「まあいいや…じゃあ早速、五十鈴さんに似合う服を探しに行こうか」
※
ちょっと前までコンビニではしゃいでいた五十鈴さんは、広大な華宮ショッピングモールの店内を見回す。
「……!」
見たことのない雑貨や生活用品などが目白押し、規模はコンビニとは比べ物にならない。まずどこで何をすればいいのか五十鈴さんはキョロキョロしっぱなしだ。
「五十鈴さん、こっちにマップがあるよ」
星野さんは館内マップを指さす。
ショッピングモールは本館、別館と三つに分けられている。日用品が揃った雑貨屋、多彩な服屋、ゲームセンター、ホームセンター、フードコートなどなど…一日費やしても全ての階を探索することは不可能だろう。
「はしゃいでるなぁ………ん?」
楽しそうな二人を眺めていた西木野さんが、何かに気付いて険しい表情に変わる。
「どうしたの…?」
その様子を見た木蔭ちゃんが小声で西木野さんに尋ねた。
「…離れたところで出雲さんがこっちを見てる」
「出雲さんって…ウチのクラスの…?」
「そうそう。背が高くて、五十鈴親衛隊に入ってる人ね」
同じクラスの出雲八恵さん。
この女子生徒も何かと目立つ容姿をしているので、面識がなくても木蔭ちゃんの記憶に残っている。
(ただの偶然?それとも親衛隊の命令で監視してたり…?)
ここで出雲さんと遭遇したことを考察する西木野さん。
親衛隊はファンクラブの一種だが、五十鈴さんを守るための組織でもある。その活動がどのように行われているのか西木野さんは知らない。まさか五十鈴さんの動向を把握し、休日まで犠牲にして活動しているのだろうか?
(もっと普通に、クラスメイトとして仲良くなれないものかね)
西木野さんはこの距離感にもやもやしていた。
「…木蔭ちゃん、ちょっといい?」
「?」
西木野さんは木蔭ちゃんに耳打ちする。




