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4 五十鈴さんの初登校




 初登校日から一週間が経った。

 まだ五十鈴さんは登校していない。


 正直、入学初日から数日休んでしまうのはかなりの遅れだ。もうクラス内ではグループが固まりつつあり、その輪に後から入るのは難しい。


 今日は来れるだろうか…僕は隣の空いている席を見る。


「園田くん、隣の子はいつ来るの?」


「ん?」


 左前の席にいるクラスメイト、城井真(しろいまこと)くんが話しかけてきた。城井くんは小柄で大人しそうな男子で、噂話が大好き。未だに登校していない五十鈴さんが気になるようだ。 


「五十鈴さんだっけ。どんな人?」


「うーん…物静かな人だよ」


「もしかして美人?」


「…いや、ちょっと可愛いくらいだよ」


 五十鈴さんが美人であることは間違いない。

 だが僕が高評価しているだけで、世間の目がどう評価するのかは不明だ。人の見る目はそれぞれだからね。


「やっぱりこの学校って美人率高い」


「そうなの?」


「だってこの学校、芸能人まで在籍してるから」


 城井くんが聞いた噂話によると、この学校には数多くの天才が在籍してるらしい。中等部でありながら芸能活動をしている生徒もいるくらいだ。


「このクラスでは向日葵さんが運動部の体験入学で天才性を発揮してるね。他にもIQ190の天才、探偵の息子、伝説の子役、ヤクザの跡取り、ネット界を騒がせる芸術家……この華岡学校には様々な天才が集まってるんだ」


 城井くんは生き生きと噂話を述べてくる。

 やっぱ変わった人が多いな…この学校。僕と違って物語の主人公になれそうな個性的な生徒がわんさかいるってことだ。


「魔法少女とか、異世界帰りの勇者なんかが生徒に混じっている噂も…」


「流石にそれはないでしょ…」


 噂なんて大半は根も葉もないものだしな…


「そんな一握りの天才に比べれば、五十鈴さんは大人しいものだよ」


 五十鈴さんの可愛さでは、その辺の一般人として埋もれてしまうのかな。それはそれで本人の望む普通の学校生活が過ごしやすいと思うんだけど…


 ざわ…ざわ…


 ………


 何やら廊下が騒がしい。


「なんだろう?」


「さぁ…」


 そのざわめきは、ゆっくりとこの教室に近づいていた。


「な、なにあの子…可愛すぎない?」

「これはファンクラブ設立確定だろ」

「でもなんか目つきが怖い……でもそこがいい」


 …まさか。


 そのざわめきの中心、五十鈴さんがこの教室に到達した。


「……」


 僕は五十鈴さんの魅力を過小評価し過ぎていたようだ。


 今まで見てきた五十鈴さんの魅力はほんの一部だった。

 学生服を身に纏い外出のために整えられた外見は、控えめだった高貴さが輝き絶世の美少女へと昇華されていた。病室での五十鈴さんは儚げな病弱少女だったが、今の彼女は威厳さえ感じさせる完璧なお嬢様に見える。


「……」


 周りの騒ぎは気にも留めない様子で、五十鈴さんは無表情のままキョロキョロと教室内を見回していた。


 そして僕と目が合う。


「!」


 五十鈴さんは早歩きで僕の元に駆け寄り、僕の腕を掴んで廊下に連れ出そうとする。


「え、ちょっと五十鈴さん!?」


「……!」


 どうやら僕に話したいことがあるようだ。

 周りから注目されているこの状況じゃ落ち着いて話せないか…僕は大人しく五十鈴さんの弱々しい誘導に従った。


「園田の知り合い?」

「そういや前もプリント届けてたな…」

「まさか彼女!?許されない…」


 僕にも飛び火した!?





 人気のない廊下まで五十鈴さんに引っ張られた。


「だ、大丈夫ですか…?」


 僕は恐る恐る五十鈴さんの様子を窺う。


「……無理」


 震えながら真っ青な顔で呟く五十鈴さん。

 初めての登校であれだけ注目されればこうなるか。


「どうして見られるの……?初日から休むって……そんなに悪いことなの?」


「いや、そのことで注目されてるわけじゃないですよ」


「じゃあ……なんで……?」


「………綺麗な金髪が目立つんだと思います」


 五十鈴さんが可愛いから……なんて面と向かって言えなかった。


「でも第一印象は悪くないですよ」


「そうなの……?」


「ノルウェー系も良い個性ですし」


 美人なのは悪いことじゃないからね。


「気を取り直して、教室での立ち振る舞いをおさらいしましょう」


「う、うん」


 とにもかくにもだ、まず五十鈴さんが教室ですることは決まっている。それは友達を作ることだ。


「まず五十鈴さんの席ですが、一番左後ろの隅っこですね。右隣は僕です」


「……ほっ」


 今日初めて、五十鈴さんが笑顔を見せた。


「よかった……」


「いや、隣ってだけでも友達になるきっかけになります。左隣は誰も居ませんし、右は僕が潰してしまったんです」


「ううん、園田くんの隣がいい……」


「………」


 くっ……無邪気な好意が効く。


 誤解するなよ僕。

 今の五十鈴さんは知り合いがいないから僕を頼っているんだ。友達100人作った頃には僕なんて忘れ去られる存在。


「そ、それより!まず五十鈴さんが話しかけるべき相手は、僕の正面にいる西木野さんです」


「西木野さん……?」


「はい。優しい人なので、きっと五十鈴さんとも気が合うと思いますよ」





 まず僕が先に教室に戻って席に着く。

 二人で教室に入ると誤解されるかもしれないし。


「来たぞ…園田だ」

「どうしてあんな平凡な男が」

「いや、五十鈴さんの下僕って可能性も…」


 既に変な噂が教室内を飛び交っているが、無視だ無視。


「…園田くん、あれでちょっと可愛いは過小評価が過ぎるよ」


「確かに、園田くんの彼女ではなさそうね」


 前の席に座る城井くんと西木野さんが茶化してきた。


「僕もここまでとは予想外でした…」


 五十鈴さんの美貌は予想以上の反響だった。可愛さだけを評価すれば、芸能活動をしている生徒にも負けてないんじゃないか?


 …って、それどころじゃない。

 五十鈴さんを迎える準備をしないと。


「西木野さん…」


「ん?」


「五十鈴さんは初登校ですし、同じ女子として何とかフォローしてもらえませんか?」


「んー…ちょっと緊張するな。なんか近寄りがたい空気出してたし」


「中は普通の良い子なんです」


「へぇ~…中を知り尽くした関係なんだ」


「違います!」


「冗談だよ、任せんしゃい」


 西木野さんは意地悪な笑みを見せながらも、僕のお願いに親指を立てて答えてくれた。やっぱりこの人、すごく良い人だ。

 後は五十鈴さんの対応次第か…


「……」


 五十鈴さんが教室に戻ってきた。

 その表情は緊張のせいか、ポーカーフェイスのまま固まっていた。五十鈴さんの無表情って見た目の高貴さもあって、なんか近寄りがたいプレッシャーを放ってるんだよな。


 周囲から注目される中、五十鈴さんは勇気を振り絞って自分の席である僕の隣に着席した。


「初めまして、五十鈴さん」


 そこですかさず西木野さんが挨拶をかけた。


「………」

「………」

「………」


 五十鈴さんと、教室中が沈黙する。

 みんな彼女の第一声を待ち望んでいるのだろう。


「………………」


 五十鈴さんが口を開く。

 もう少しだ、がんばれ!




「………Hyggelig å møte deg」




 !?


 今、なんて言った…?

 英語じゃない…もしかしてノルウェー語!?


 ちょっと五十鈴さん!初クラスの第一声がノルウェー語なのは悪手だよ!そりゃノルウェー系は良い個性って言ったけど!


「外国語?日本語が通じないのか?」

「これは会話を諦めた方がいいな」

「眺めるだけでも至福…」


 ほら、日本語が通じないと誤解されてる。

 この誤解が学校中に広まったら、外側からのアプローチが期待できなくなるぞ。


「あー…えっと、よろしくね」


 西木野さんも会話を諦めちゃったよ!


 これは………計画を練り直さなければならない。

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