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47 夏休みの宿題




 明日から夏休みが始まる。


「それでは夏休みの宿題を配ります。ちゃんとやって来るように」


 先生から大量の宿題を渡された。

 葵じゃないけど、こればかりは僕も気が滅入る。


「けっこう多いですね、宿題」


「……」


 隣の五十鈴さんは楽し気に宿題を眺めていた。

 長期休暇に出る大量の宿題、これも学生ならではのイベントだ。それにしたって大量の宿題を見て喜べるんだから五十鈴さんはすごい。


「……ねぇ、園田くん」


「はい?」


「明日学校で、一緒にやろう……」


「何をです?」


「宿題……!」


「…明日から夏休みですよ?」


「うん……夏休み初日、みんなで宿題会」


「…」


 まさかの提案だった。

 五十鈴さんにとって記念すべき初の夏休み初日、学校に来て夏休みの宿題をやろうと言っているのだ。


「へぇ…いい案じゃん」


 前の席にいる西木野さんが振り向く。

 話を聞いていたようだ。


「私と希も、夏休みに入ってすぐ宿題を済ませてるんだ。希は一人だと絶対に宿題やりきれないし」


「なるほど…」


 西木野さんの気持ちはよく分かる。

 葵も小学生の頃から、宿題が終わらないと夏休み終盤になって僕や涼月くんに泣きついて来る。そんな宿題会を夏休み終盤ではなく、夏休み序盤にやってしまえれば焦らなくて済む。


「じゃあ明日から夏休みですけど…学校に集まってやります?」


「うん……!」


 五十鈴さんは嬉しそうに頷いた。





 夏休み一日目。

 僕らは学校の教室を借りて宿題会をすることになった。


「むぐー…まさか夏休み初日、勉強しに学校へ来ることになるとは」


 机に突っ伏しながら葵が不満を漏らしている。

 誘った時は嫌そうな顔をしてたけど、厄介な宿題をみんなで取り組めるのは葵にとって利点しかない。ダメ押しに、参加しなかったらもう宿題は協力しないと脅してやった。


「休みの日に学校で勉強なんて、変な感じだね」


「うん…ちょっとわくわくする」


 星野さんと木蔭さんはこの集まりを普通に楽しんでいた。


「ゆーちゃん、この問題は~?」


「ちょっとは自分で解きなさいよ…」


 西木野さんは朝香さんの面倒を見ている。

 小学生の頃からずっとあんな調子だったのかな…西木野さんの面倒見の良さは、朝香さんの影響が大きいのだろう。


「僕ら、真面目だよね」


「………(宿題が終わればなんでもいい)」


 僕から誘った城井くんと涼月くんも参加して真面目に勉強している。何だかんだ、このメンバーで集まるのが定番になってきたな。


「……」


 五十鈴さんは時々勉強の手を止め、教室に集まった面々を見て小さな笑みを浮かべている。


 満喫してるな…夏休みを。


「こんにちは~」


 すると、杉咲先生が教室を覗きに来た。


「宿題は順調に進んでる?」


「はい……!」


 五十鈴さんは親し気に杉咲先生を歓迎した。

 初対面では人見知りな五十鈴さんだけど、もう杉咲先生には心を開いている。五十鈴さんは慣れるとけっこう人懐っこくなるタイプのようだ。


「ねぇ、園田」


 西木野さんが僕に近づいて小声で話しかけてくる。


「二人は杉咲先生といつ知り合ったの?美術の授業とかまだだし…」


「五十鈴さんが学校生活で苦戦してる時に偶然出会って、それからいろいろ親切にしてもらってるんです」


「へぇー先生の中にも味方がいたんだ」


 杉咲先生は学校内で五十鈴さんが頼れる唯一の大人だ。芸術室を貸してくれたり、この空き教室の使用許可を取ってくれたり、非常に助かっている。


「それじゃあ、頑張ってる皆さんにジュースを支給しましょ~」


「おお~」


 杉咲先生の応援にみんなが盛り上がる。

 愉快な宿題会だ。





 夏休み三日目。


 今日も僕らは学校に集まり宿題と戦う。

 たまに葵が気分転換に運動を提案したり、この学校の無駄に広い校舎を散歩したり、適度に休憩を挟みながら順調に宿題を進めていった。


 その甲斐もあって、ついに全員が宿題を終わらせることが出来た。


「終わった~!」


 歓喜の声を上げる葵。


「やったよ庭人く~ん!」


「ひっつくな、暑い」


「すごいよ!もう宿題が終わっちゃうなんて…!」


 まあ…喜ぶのも無理はないか。

 夏休みの宿題はずっと葵を苦しめ続けてきたもの、それを夏休み三日目で処理できたんだ。残り一ヵ月以上の夏休みはまさに自由、宿題を気にせず好きなことに使える。


 他のみんなも気の抜けた様子だ。

 僕も内心ではかなり嬉しい。


「宿題が終わったからって油断しない!」


 浮かれている僕らを一喝する西木野さん。


「宿題ってのは休みの間でも勉強を忘れないためにあるんだから、ちゃんと予習しておくように。休み明けにテストがあることも忘れないで」


「は~い」

「は~い」

「は~い」


 西木野さんのありがたいお言葉に、みんなは小学生みたいな掛け声で返す。

 ほんと保護者みたいな人だな。


「宿題が終わって良かったですね」


 僕は五十鈴さんの様子を伺う。


「……」


 五十鈴さんは喜んでいなかった。

 名残惜しそうに終わった宿題を眺めている。この集まりも今日で終わり…それが寂しいのだろう。


「五十鈴さん」


「……?」


「この集まりが終わっても、夏休みはこれからです」


「……!」


「やりたいことノート、がんばりましょう」


「うん……!」


 五十鈴さんは意気込む。

 きっとやりたいことノートには、夏にしか出来ないミッションがいくつもあるはず。僕もなるべく協力できるよう夏休みの予定は慎重に決めないと。


 夏休みの本番はこれからだ。

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