46 何かの賞をとる①
芸術室でのこと。
もうすぐ夏休みに入る。しばらく五十鈴さんとも顔を合わせられなくなるから、やりたいことノートについて二人で作戦会議を開くことにした。
「次のやりたいことは…何かの賞をとるですか」
前のテスト期間で12と13を達成したから、順番通りにいくと次は“14 何かの賞をとる。”に着手することになる。
「コンテストとか、検定とか、皆勤賞とか……がんばった証が欲しい……」
やる気満々な様子で意図を伝える五十鈴さん。
具体的に欲しい賞がある訳じゃないんだ。
「皆勤賞はもう休んじゃったから無理ですね。他にもコンテストや検定試験などいろいろありますが、どんなのがいいです?」
「うーん……」
五十鈴さんは難しそうに唸っている。
ゼロから五十鈴さんの気に入る賞を探すとなると、達成の道のりは長そうだ。
「じゃあレタリング検定なんてどう?」
すると、芸術室の奥で事務作業をしている杉咲先生がそう提案してきた。杉咲先生はこの中等部校舎五階倉庫“芸術室”を僕と五十鈴さんに貸してくれる美術の先生だ。
「レタリングって…文字でしたよね」
「そうそう。美術の道に進むならとても重要な技能なの」
「美術でですか?」
美術と文字って関係あるのかな?
腑に落ちない僕の様子を見た杉咲先生が、見透かしたように微笑む。
「イラストレーターやデザイナーを目指す生徒ってたくさんいるんだけど、はっきり言って絵が描けるだけだと苦労することが多いのよ。でも文字の知識は幅広く必要とされているから、持ってて損はないの。だから私の教え子にはレタリング資格を必須にしてるのよ」
「へぇ…美術の世界も奥が深いんですね」
とはいえ、果たして五十鈴さんがこの提案を気に入るかどうか。
「やってみたいです……!」
五十鈴さんは勢いよく手を上げた。
先生に言われたから断りずらくて…という感じではなさそう。もしかして美術系の道に興味があるのかな?五十鈴さんの描いた絵といえば、初めて会った時に見たクマの落書きくらいだけど。
「園田くんもどう?」
「え、僕もですか?」
杉咲先生がついでにと僕にも薦めてくる。
僕なんて絵心もないし、美術の道なんて想像も出来ない…
…でも、今の僕には将来の夢がない。だったら手広く挑戦していこうかな。僕も一緒に受ければ五十鈴さんの勉強を手伝えるし。
「じゃあやってみます」
「オッケー。はい、これが参考書と画材ね」
杉咲先生は僕らの前に教材をどさっと置いた。
なんかテンポが速いな…
これが天才が集まる進学校の勢いなのか。
「がんばろう……園田くん」
「はい」
こうして僕らは密かにレタリング検定の勉強を始めた。




