45 焦るクラスメイト(女子)
「それでは始めるのだ…第一回五十鈴さんと仲良くなろう対策会議」
男子たちが話し合っていた日とは別日。
今度は女子たちが空いた教室を使って、五十鈴さんと仲良くなるための対策会議を開いていた。
「五十鈴さんと関わりたい…これは本能だと思うのだ」
幹事を務めるのは小柄で可愛らしい野田さんだ。
もちろん野田さんや他の女子生徒も個性派揃いだが、今回の議題は五十鈴さんについてだ。個性のアピールはまたの機会。
「猫を撫でたい、子犬を抱きしめたい、動物の赤ちゃんは可愛い。これに疑問を挟む余地なんてないように、五十鈴さんには何か…本能に訴えかける魅力があるのだ」
「わかる…」
野田さんの意見に同意する東堂さん。
「そんな愛嬌を感じるのに……五十鈴さんって雰囲気が冷たいし、高圧的なオーラがあるのだ」
「わかる…」
「親衛隊やボディーガードも怖いし、接し方を間違えたら痛い目を見そうなのだ」
女子が五十鈴さんに話しかけられない大きな要因は、そのお嬢様オーラにある。良くない噂も相まって、どうしても怖いイメージがまとわりついてしまう。
「でも折角クラスメイトになれたんだから、仲良くしたい!」
やや小太りの少女、久留宮さんが意気揚々と手を掲げた。
その意見に女子の全員が頷く。
「一番の近道は…西木野さんに紹介してもらうことだよね」
久留宮さんの案は、男子たちと同じ“五十鈴さんグループ”の誰かを利用することだ。西木野さんは既にクラスの女子全員と親しい間柄にあるので、頼ることは容易いだろう。
しかし誰も賛同しなかった。
「でも…“西木野さんに紹介されたその他大勢のクラスメイト”とか、大して五十鈴さんの印象に残らないと思うのだ」
「わかる…」
野田さんの意見に同意する東堂さん。
五十鈴さんと知り合うのなら自分にとってベストな形にしたい。西木野さんに頼ることは妥協でしかなかった。
「こうなったら大胆に行くしかないっしょー」
「猫もそう思う!後ろから抱きついてみたい!」
頭を悩ませる女子の中で一際お気楽な提案をする二人。
いかにもギャル感の強い相沢さんと、猫を擬人化させたような風貌の猫宮さんが同時に手を上げた。
しかし他の女子が猛反発。
「だからダメだって!」
「専属のボディーガードとかに消されちゃうよ!」
「失礼なことしたら学校中を敵に回しかねない!」
「連帯責任で同じクラスの私らも攻められるかも…」
「わかる…」
女子のつたないお嬢様像。
それも悪役お嬢様を連想してしまっているので、余計にコミュニケーション手段を狭めてしまっていた。
「親衛隊の規則、過度なスキンシップは同性でもセクハラと見なし………斬り捨てる」
このクラスで唯一“五十鈴親衛隊”に所属する女子、出雲さんが真顔で二人を睨む。
「しょぼん」
「しょぼん」
落ち込む相沢さんと猫宮さん。
親衛隊の存在も非常に厄介である。
「出雲さんって、五十鈴さんの親衛隊に入ってるよね。今までずっと傍観してたけど、近づいて仲良くなろうとはしないの?」
「私は影で五十鈴殿を守護れればそれで良い」
「そ、そっか…」
出雲さんは五十鈴さんと距離を縮めるつもりはないようだ。
「やっぱり西木野さんの言う通り、学校行事にこそチャンスがあると思うのだ」
意見が錯綜としている中、野田さんが話をまとめようとする。
「運動会、文化祭、修学旅行…この辺りでさりげなく距離を縮めるしかないのだ。作為的に近づこうとすれば親衛隊に目を付けられるけど、偶然のきっかけなら文句ないはず。今は焦らず偶然の機会を伺うことが最善なのだ」
五十鈴さんのクラスメイトであること、その利点を最大限に生かすべきだと野田さんは言う。今は焦らず、じっくりと慎重に五十鈴さんとの距離を縮めていくしかない。
「わかる…」
最後に東堂さんの同意で、女子たちの意見がまとまった。
※
「………」
その会話を廊下から盗み聞きしている城井くん。
「おい」
すると、怒気の籠った声が城井くんの背中を突き刺す。
声の主は西木野さんだ。
「う…」
「野郎の話し合いでは見逃したけど、乙女の会話の盗み聞きは許さん」
「…返す言葉もない」
大人しくお縄につく城井くん。
城井くんは自分の行いが褒められた行為でないことを自覚している。正論で攻められては、なすすべもない。
「まったく…男子も女子も、揃って何やってんだかね」
西木野さんは教室を覗いて呆れたように呟く。
「…女子の会議に加勢しなくていいの?」
「しようとしたんだけど、私に頼るのはズルだからってハブられた」
「ズルなのかな…」
「やっぱ変わり者が多いよ、ここの生徒は。凝り性っていうか…妥協を許さないって感じ」
何かしらの才能を持つ子供だけで構成された華岡学校。
生徒たちは天才が故に完璧を目指し、目標を掲げたのならベストを尽くす。だからこそ五十鈴さんに対しても全力で交流に挑む。
五十鈴さんと仲良くなる道のりは前途多難だ。
「さて…盗み聞きしてたこと、バラされたくない?」
「…」
「ジュース奢りで手を打とう」
「…是非もない」




