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44 焦るクラスメイト(男子)




 五十鈴さんのクラスメイトであること。


 それはこの学校内では、声を大にして自慢できる選ばれし者のステータスだ。


「え、五十鈴さんのクラスメイトなの!?羨ましい…」

「くそー早く学年上がってクラス替えしてー!」

「五十鈴さんと同じクラスとか…一生の運を使い果たしたな」


 華岡学校中等部1-1組が五十鈴さんの領域であることは学校中の常識となった。

 その領域に足を踏み込める生徒は同年代の中でも一握りだけ。才能とは関係なく、あらゆる偶然が重なって生まれる産物。まさに幸運と奇跡なくしては得られないVIP席だ。


 五十鈴さんと同じ領域で学生生活を送れたのなら、五十鈴さんの物語の登場人物として記憶に残る。それは名作映画に出演するレベルの名誉なことだ。


 しかし…


「おはよー五十鈴さん」

「おはよ~」

「今日は体育あるね」

「体育…やだな」

「えー体育楽しいじゃん」


 五十鈴さんを取り巻く女子。

 西木野さん、朝香さん、星野さん、木蔭ちゃん、向日ちゃん。


「五十鈴さんに無茶させるなよ、葵」

「………(女子が気の毒)」

「個性派揃いで楽しそう」


 五十鈴さんを取り巻く男子。

 園田くん、涼月くん、城井くん。


 そう…クラスではもうこのメンバーが“五十鈴さんグループ”としてまとまりつつあったのだ。


(…やべぇ)

(ヤバイって…)

(マジやばくね?)


 グループに入れなかったクラスメイトは密かに焦っていた。


 このままでは物語の登場人物になれない。

 五十鈴さんの記憶にも残らない。

 ただのモブとして終わってしまう。





「それでは始めようか…第一回五十鈴さんと仲良くなろう対策会議」


 放課後の教室に集まる男共。

 音頭をとっているのはこういったまとめ役が得意そうな爽やかイケメン、池永くんだ。


「今まで、五十鈴さんにはそれなりにアプローチをしてきた。さりげなく挨拶してみたり、プリントを渡したり、給食の時に近付いたり………だが、冷たい目で睨まれるだけだった」


 まず池永くんが現状を報告する。

 実はクラスメイトの何人かは、五十鈴さんに対してコミュニケーションに挑んだことがある。だが五十鈴さんの内気な性格と、緊張すると人相が悪くなる性質のせいで冷たい対応に見られてしまう。


 それにタイミングも悪かった。


 クラスメイトは、その場に園田くんがいないタイミングで試みてしまったのだ。園田くんのいない五十鈴さんは、通訳のいない外国人とさして変わらない。


「これまで成果なし。俺たちは五十鈴さんとのコミュニケーションを諦め半分でいた……だが、五十鈴さんとのコミュニケーション方法はある」


 勢いよく立ち上がる池永くん。


「噂好きの城井くん、なんか不良っぽい涼月くん、特徴のない園田くん……彼らは五十鈴さんと仲良くしているのだから!」


 “日本語を話せない怖いお嬢様”と思い込んでいるクラスメイト。そんな五十鈴さんだが、仲良くなる術はある。それは園田くん一派が証明してくれていた。


「問題は…どんな手段で五十鈴さんと関わるか…だな…」


「中二病の木条くん」


 格好いいポーズを取りながらアニメ声で意見を述べる木条くん。園田くんに心を読む能力があると適当なことを言った男子だ。


「勘違いしないでもらいたい…」


「え?」


「これは中二病ではなく演技だ…声優志望なもので、日常的に演技の練習を…」


「あ、ちょっと待って」


 木条くんがノリノリで自己紹介をしようとしたところ、池永くんが声を挟んで静止させた。


「今回は俺らの個性をアピールする場じゃないから。五十鈴さんについて話し合う回だから」


「…」


 この場には華岡学校に選ばれた個性的なクラスメイトが揃っている。だが一人一人に注目していては、いつまで経っても話が進展しない。


「だから超野くん…服を脱いで筋肉ポーズとってても、誰も突っ込まないよ」


 池永くんは正面にいる中学生離れした体格の超野くんに冷たい言葉をかける。


「………サイドチェストー!」


「じゃあ話を戻そうか」


 無視して話を進める池永くん。


「木条くんの言う通り、問題は五十鈴さんと関わる手段なんだけど……みんなも分かっているんじゃないか?五十鈴さんに近付く最も有効な手段」


 集まった男子全員が俯き沈黙する。


「……園田殿を接点に近づく、それが得策でござるな」


 沈黙を破ったのは幕末感のある坂本くんだ。

 この男子も非常に個性的だが、誰も突っ込まない。


「そう…だが俺たちは、園田くんと対立してしまった。そのせいでこの手段が封じられている状況だ」


 池永くんは頭を抱える。

 五十鈴さんにとって最も親しい男子、それが園田くんであることは揺るがない事実だ。だからこそ全員が一方的に嫉妬し、敵視し、対立してしまったのだが…


「完全に悪手だったな」

「それな」

「今更仲良くとか…無理だろ」


 いつぞや紹介した鈴木三人組が同時に腕を組んで唸る。

 どうして園田くんのいないタイミングで五十鈴さんとのコミュニケーションを試みたのか。それは男子の誰しもが園田くんと顔を合わせづらいからだ。


「そもそもなんで敵意向けたんだろうね」


「むしゃくしゃしてやった、後悔はしている」


「謝れば済む話なんだけどね」


「それはちょっとな…」


「俺ら、素直になれないお年頃だからな…」


 これはクラス全員の男子がやってしまったミスだ。中学生とはいえ進学校である華岡学校に入学できた生徒は賢い。だが客観的に自分を分析できても、素直になれないお年頃であることには変わらない。


「なんとか確執を無くせればいいんだけどな」


「………」


 池永くんの言葉を誰も否定しない。

 いつの間にか話の論点が、五十鈴さんに接近することから園田くんと和解することに変わっていた。本音を言えばみんなで仲良くやっていきたい、そう思う良い生徒がほとんどだった。


「それに園田だって俺らを恨んでるだろ」

「普通なら仕返しにくるって」

「五十鈴さんを使ってマウントとってくるだろうな」


 鈴木三人組の意見を聞いて、池永くんは険しい表情に変わる。


「…可能性はあるし当然の権利だと思う」


 五十鈴さんの友達という立ち位置を得たのなら、自慢するのが一般的な男子だ。彼女自慢をしたい男の心理に近い。


「だからって西木野さんとかの女子組にすり寄るのは、下心透け透けでキモイし………涼月くんはなんか不良っぽくて怖いし、城井くんは聞いても大した情報くれないし」


 単独で五十鈴さんに近づいてもダメ。

 園田くんとの和解もダメ。

 他の五十鈴さんグループの誰かに頼るのもダメ。


「………もしかして俺ら、詰んだ?」


 男子たちはまともな解決案を出せず、話し合いは紛糾を重ねることになった。

 




「………」


 その会話を廊下から盗み聞きしている城井くん。


(園田くんの性格なら、大して根に持ってないはず。普通に話しかければ解決すると思うんだけどな)


 噂好きの城井くんは今日も面白い噂話を集めていた。


(五十鈴さんグループとそれ以外…今のクラスは極端にグループが分かれてる。この均衡がどんな形で終幕するか、見物)


 城井くんはその場を立ち去る。

 男子たちの話し合いは、城井くんが一言助言すれば解決する事だった。しかし城井くんは参加しない。あくまで傍観者の立場で学校の噂を集める、それが城井くんのスタンスなのだ。

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