42 テスト勉強
季節が入れ替わり、ついに前期のテスト期間に入った。
曲がりなりにも私立の進学校である華岡学校。生徒の夢を実現させることに協力的な学校だが、中等部は勉学に手を抜かない。それなりに対策しないと赤点を取ってしまうだろう。
「園田くん、五十鈴さん」
放課後。
僕と五十鈴さんが帰る支度をしていると、木蔭さんがやってきた。
「その…一緒にテスト勉強しない?」
「勉強ですか?」
「園田くんと五十鈴さんって休んでる日とかあるでしょ?テストに出そうな範囲、全部教えるよ」
内気な木蔭さんからの提案は予想外だった。
それに勉強会は、僕と五十鈴さんにとって願ってもないことだ。
五十鈴さんには“やりたいことノート”という、入院中に書き記した目標がある。一ページ目はコンプリートしてるから、今は二ページ目に挑戦中だ。
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11 委員会に入る。
12 勉強会を開く。
13 みんなでテストの見直しをしたい。
14 何かの賞をとる。
15 体力測定は平均以上を目指す。
16 身長は目指せ160以上。
17 運動会で一位になる。
18 マラソン大会で完走する。
19 学園祭の実行委員をやる。
20 学園祭で全ての模擬店を回る。
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一般人から見れば、わざわざノートに書いてまとめる必要のない願いに思えるだろう。だが中学まで病院に隔離されていた五十鈴さんにとっては、夢のような願いだ。
今回のテスト期間だと12と13の達成を狙える。
「是非ともお願いしたいです」
「勉強会……やる……!」
僕と五十鈴さんは同時に答えた。
「良かった…」
木蔭さんは安堵の息を吐く。
「じゃあ学校の図書館で勉強しよう…」
図書館か…まだ利用したことなかったな。
「いいですね、じゃあ行きましょうか」
「うん……」
僕と五十鈴さんは鞄を持って木蔭さんの後について行こうとする。
「私も行くー!」
すると、葵が横から割って入ってきた。
「勉強しに行くんだぞ?」
「分かってるよ」
「…どういう風の吹き回しだ?」
お察しの通り、スポーツ少女である葵は勉強が好きじゃない。一緒に華岡を受験した時も、散々苦労したからな…
「この学校、赤点取ったら夏休みも勉強することになるんだもん」
不満げに呟く葵。
「勉強は避けて通れないからな…ちゃんとテスト勉強しろよ」
「庭人くんの教え方次第だね」
「………自力でがんばれ」
「置いてかないでよ!なんでもするから勉強教えてー!」
葵がやかましくひっついてくる。
面倒だが仕方ない。
「すみません、葵も連れてっていいですか?」
「うん……もちろん大丈夫だよ」
迷わず頷く五十鈴さん。
五十鈴さんも木蔭さんも頼まれたら断れないタイプの人だから、聞くだけ野暮なんだけどね。
「…」
だが木蔭さんは、何やら思案顔だ。
(…園田くんと向日ちゃん、仲いいなぁ…五十鈴さんはこの二人を見てどう感じてるんだろう。これはよくある美少女VS幼馴染の恋愛対決。園田くんはどっちを選ぶんだ…!)
「…木蔭さん?」
「へぇ?あ、だだ大丈夫だよ…!」
我に返ったように答える木蔭さん。
たまに木蔭さんって上の空になる時があるから不思議だ。
※
華岡学校の図書館は、学校の設備とは思えないほど立派だ。
そもそも図書室ではなく図書館であることにも驚きだ。
中等部の校舎と違って後で増築した建物を使っているから、綺麗な内装をしている。広々とした館内にはおびただしい数の本が収納されていた。お目当ての本を探すのに難儀しそうだが、驚くことに本を探すためのタブレットまで設置されている。
「すごい広さですね」
「最先端……」
僕と五十鈴さんは図書館内を見回して感心する。
学外の図書館よりも立派だぞ。
「ここには大抵の本が揃ってるよ。もし読みたい本がなかったら、ここの紙に書いてリクエストすれば入荷してくれるよ…」
木蔭さんが図書館の利用方法を教えてくれた。
やっぱりすごいな…華岡学校は。生徒の夢を実現させると豪語するだけはある、夢を叶えるための協力は厭わないか。
「あっちの席が空いてるね…あそこに座ろう」
僕ら四人は空いているテーブルを囲い席に着く。
「それじゃあ、社会からやっていこうか…」
教科書を取り出した木蔭さんはわざとらしくメガネを指で上げる。
「よろしくお願いします」
「お願いします……」
「よろしくお願いします!」
今回は僕と五十鈴さんの遅れを取り戻すことが目的だから、木蔭さんからテスト範囲を習うことになる。
葵は元から教わる気満々だからな。
※
勉強を始めて数十分。
「疲れたよー庭人くん」
「集中切れるの早いだろ…」
もう葵が勉強に飽き始めていた。
「スポーツみたいに集中しろよ」
「運動は別腹だもん…」
「少しは木蔭さんや五十鈴さんを見習え」
葵に比べ、五十鈴さんと木蔭さんはちゃんと勉強に集中している。
これが文化系と体育会系の差か。
「……園田くん、木蔭ちゃん。この問題……これで合ってるかな?」
五十鈴さんがノートを開いて見せてくる。
「えっと…」
「んっと…」
僕と木蔭さんがノートを覗く。
…………その時、背後から敵意を感じた。
「…」
やっぱり感じるな…痛い視線が。
テスト期間ということもあって図書館内はそこそこの人で溢れている。その人たちが校内で有名な美少女である五十鈴さんに注目しないはずがない。そして一緒に勉強している僕らに嫉妬の目を向けるのは当然だろう。
「…園田くんは、この視線を毎日浴びてるんだね」
周囲からの敵意を感じているのは木蔭さんも同じのようだ。
一人の時なら影が薄いせいで誰の目にも留まらない木蔭さん。だが今回は五十鈴さんに勉強を教える立場として、変に目立っているのだろう。
「大丈夫ですか?」
小声で木蔭さんに尋ねる。
「うん…ちょっと新鮮かも。こんなに注目されるの、初めてだから」
「なるほど…」
「五十鈴さんの光を浴びて、私の影が濃くなったのかな」
「面白い比喩表現ですね」
僕と木蔭さんは小さく笑い合う。
「……」
そんな僕の様子を五十鈴さんが見つめてくる。
そうだ、回答のチェックだった。
「えっと…正解だと思います。ですよね、木蔭さん」
「…」
「…木蔭さん?」
「…」
(もしかして今の園田くんとのやり取りで五十鈴さんに嫉妬された…?まさか私も恋の第三勢力として参戦中…!?)
また木蔭さんが上の空になっている。
なんていうか、安定しない勉強会だな…
「あ、う、うん…正解だよ」
かなり遅れて木蔭さんが答えてくれた。
「よかった……」
五十鈴さんは嬉しそうにノートを戻し、勉強を再開させる。
普段だったら五十鈴さんも周囲の視線に緊張してしまうだろうけど、今は上手く勉強に集中できているみたいだ。
楽しんでるんだな…学校生活を。
僕も五十鈴さんの前で赤点を取るわけにはいかない、がんばろう。




