41 衣替え
季節が変わり衣替えの時期がやってきた。
華岡学校の制服は可愛いと評判だ。
冬のブレザーは控えめにあしらわれた刺繍ワッペンが特徴的。女子は可愛らしく、男子は勇ましくデザインされている。
夏の制服はニットベストが主になるが、これが女子に大人気の可愛さ。着れば可愛らしいお嬢様に様変わり、通気性も良くオールシーズンで使える汎用性の高さも魅力の一つだ。
五十鈴さんも半袖のワイシャツと白のニットベストに袖を通す。冬服のブレザーは五十鈴さんにはやや重たかったので、夏服の軽やかな制服を身に着けると心地よい解放感を得られた。
着替え終えた五十鈴さんは鏡で夏服姿の自分を確認する。
「……」
気になってしまうのは、半袖で露となった二の腕だった。
病院生活が長いせいで肌は色白く、筋肉もほとんどついていない。そんな不健康を象徴するかのような頼りない腕をはだけさせるのが恥ずかしかった。
「行ってきます……」
怯えていても始まらない。
五十鈴さんは満を持して学校に向かった。
本日の天気は快晴、心地よい陽気が五十鈴さんを迎えてくれる。
ざわざわ…
そして五十鈴さんは今日も、道行く人々に注目されていた。
しかも、いつも以上に注目されている気がする。やはり二の腕は隠しておくべきだったか…そんな不安に駆られながら、五十鈴さんはとぼとぼと歩を進める。
自分の制服姿を卑下していた五十鈴さんだが、周囲の人々の評価は真逆だった。
五十鈴さんの夏服姿を一言で表すなら、完璧だった。
金色に輝く髪、鮮やかな碧眼、ハーフの整った顔立ち、白くて長い腕と足。そんな五十鈴さんと夏の制服は、これ以上ないと言わしめるくらい適合していた。
「夏服……いいな」
「冬服の落ち着いた雰囲気もいいが、夏服の清涼感もたまらん」
「拝むだけで暑さが吹っ飛ぶ…」
道行く人は、冬服ではお目にかかれない五十鈴さんの純白でしなやかな肢体に釘付けだ。不思議とやましい気持ちが沸いてこない、見る者に悟りを開かせるような神々しさすらあった。
本人は自覚していないが、五十鈴さんはどんな姿をしていても美しい。それはこの世の絶対だ。
※
学校の下駄箱に到着した五十鈴さん。
校門をくぐったら、今度は全校生徒に注目される。気の休まらないまま五十鈴さんは下駄で靴を履き替える。
「五十鈴さん」
「……?」
そんな五十鈴さんに声をかける誰か。
周囲を見回すが、近くには誰もいない。
「おはよう…」
「……!」
その声の主は五十鈴さんの隣にいた。
存在感の薄いインビジブル少女、木蔭明菜ちゃんだ。彼女の存在に気付ける人は、彼女と友達になっている五十鈴さんだけだろう。
「お、おはよう……」
「うん………はぁ…」
木蔭ちゃんは深い溜息を吐く。
「……どうしたの?」
五十鈴さんはその様子を見て心配する。
今の木蔭ちゃんはいつも以上にテンションが低く、そのせいか五十鈴さんですら見失うくらい影が薄かった。
「…夏服は好きじゃないんだ。私の体型が露になるから」
そう言って木蔭ちゃんは自分の胸に手を当てる。
本人は低身長で細身な体形にコンプレックスを抱いていた。五十鈴さんのスタイルが高校生級なら、木蔭ちゃんは小学生並だ。
二人の悩みは対照的だが、五十鈴さんには共感するものがあった。
「私も……見られるの苦手……」
「五十鈴さん、私と違って目立つからね…」
「……」
「…」
爽やかな夏服を着込んでいるのに、二人は意気消沈していた。
「おはよ~」
そんな二人に挨拶をかける星のヘアピンが特徴的な少女、星野夢月さん。
一見すると普通の少女に見えるのだが、手に持っているサボテンが異彩を放っている。それが今日の占いのラッキーアイテムなのだろう。
「おお。五十鈴さん夏バージョン、素晴らしいね」
「……」
「木蔭ちゃんも可愛いよ」
「…」
星野さんは二人とは違い、ポジティブに制服姿を褒めてくれる。
ネガティブ思考だった二人は我に返った。
周囲からの声に脅えている二人なのに、友達同士で褒めなくてどうする。励まし合えるからこそ友達なのだと。
「木蔭ちゃんも可愛い……!」
「五十鈴さんの方が可愛いよ…!」
お互いを賞賛し合う二人。
「星野さんも可愛い……」
「星野さんも可愛いよ…」
そして次は星野さんを賞賛する。
「え?ど、どうも」
星野さんはそんな二人のやり取りを見て不思議がっていた。
※
五十鈴さんたちは教室に到着した。
ここまでくれば五十鈴さんも安心、周囲からの視線も大幅カットだ。
「おはようございます」
五十鈴さんが自分の席に到着すると、隣の席の園田くんが迎えてくれる。
「おはよう……」
五十鈴さんは挨拶を返す。
だが、まだ席には着かない。
「……」
五十鈴さんはふと思った。
園田くんは自分の制服姿を見てどう評価してくれるのか。自分の制服姿が見やすいよう、立ったまま待機することにした。
「……」
「…どうかしました?」
「……」
しかし園田くん、あまり見てくれず感想もなし。
(五十鈴さんの夏服………美しすぎる。声に出して絶賛したいけど、男の僕が褒めると変なことになるよな…ジロジロ見るのも失礼だし控えないと。いつも通りでいよう)
この対応は園田くんなりの気遣いだった。
だがその気遣いは、思春期の乙女心には逆効果だった。
「……」
これには五十鈴さんもしょんぼり。
「園田くん…」
「園田…ないわ」
「それはないわ~」
その様子を眺めていた木蔭ちゃんと、前の席にいた西木野さんと朝香さんもがっかり。
「え、なにがですか!?」
女子から軽蔑の眼差しを向けられ戸惑う園田くん。
こうして五十鈴さんの日常は騒がしくも華やかに賑わっていった。五十鈴さんの学校生活、夏編のスタートだ。




