38 お見舞い
放課後、五十鈴さんは最後まで授業を受けることが出来た。
「……ふぅ」
帰りの会も終わり、五十鈴さんは安堵の息を吐く。
園田くんのために授業はいつも以上に集中し、ノートも綺麗にとってある。めげそうになる時もあったが、西木野さんたちのおかげでネガティブな思考はすぐ振り払われた。
この調子なら明日もがんばれる。
今日という日を乗り越え、五十鈴さんの自立心が少しだけ成長した。
「庭人くんが連日風邪で休むなんて、珍しいよね」
五十鈴さんが帰宅の準備をしていると、向日ちゃんが空いている園田くんの席に座りながら呟く。
「風邪を引いても次の日には元気になってるのに。ね、涼月くん」
「………(そうだな)」
そばにいた涼月くんが頷く。
「なんか無茶でもしたのかな~」
向日ちゃんの言葉に、密かに胸を痛める五十鈴さん。
自分が学校を抜け出さなければ、園田くんが無茶をすることはなかった。五十鈴さんはそれが何よりも後悔となって残っていた。
「大丈夫だと思うけど、様子を見に行こうか」
「………(仕方ない…)」
二人は園田くんのお見舞いに行こうとしていた。
「……!」
その会話は五十鈴さんにとって聞き捨てならないものだった。
本当は今すぐにでも園田くんのお見舞いに行きたい。
だが一人で友人の家に訪問するには勇気が足りない。今の五十鈴さんでは誰かの後について行くだけで精一杯だ。向日ちゃんたちが園田くんのお見舞いに行くのなら、一緒に付いて行く絶好のチャンス。
「あの……」
「ん?どしたの五十鈴さん」
「えっと……」
しかし五十鈴さん、自分から提案する勇気も足りない。
だがこの機を逃したくはなかった。
「……私も一緒に……行きたい」
頑張って声を振り絞る。
これが今の五十鈴さんの全力だ。
「いいよいいよ~」
苦悩する五十鈴さんに対して、向日ちゃんは気楽に返答した。
※
こうして園田くんのお見舞いに行くことになった五十鈴さん、向日ちゃん、涼月くん。三人はまずお見舞いの品を用意するため、コンビニに寄ることになった。
「園田家って両親が共働きでよく海外に行くから、家では兄妹二人の時が多いんだ」
向日ちゃんが冷凍食品の棚を見ながら五十鈴さんに話を振る。
「そうなの……?」
五十鈴さんが前に園田家を訪問した時も両親は不在だった。今は園田くんと楓ちゃんの二人きりなのだろう。
「庭人くんがダウンしたら楓ちゃん一人で家事とかしないといけないから大変なんだよ。それに楓ちゃん、事故の怪我が完治してないからね」
「大変……なんだね……」
普通を自称している園田くんだが、家庭の事情はかなり特殊なものだった。
「私の親と庭人くんの親って学生の頃からの親友らしくて、一時期は私の親が園田兄妹を世話してたんだ。私と園田兄妹は物心つく前からの幼馴染なんだよ」
「……」
園田くん、楓ちゃん、向日ちゃん。
この三人には幼馴染を超えた強い絆があるようだ。
「庭人くんから聞いたけど、五十鈴さんも庭人くんの幼馴染なんだよね?」
「あ……えっと……」
五十鈴さんは素直に肯定できなかった。
向日ちゃんたちに比べ、五十鈴さんと園田くんの知り合った期間は短い。とても三人の絆に匹敵する関係とは思えなかった。
「庭人くんの幼馴染は私たちの幼馴染!一緒に助け合っていこうね」
五十鈴さんの葛藤を知らず、向日ちゃんは陽気に言い放つ。
「……うん」
今度は迷わず頷く。
たとえ幼馴染として負けていようとも、そんなことは関係ない。五十鈴さんにとって園田くんは、入院中の自分に勇気をくれた大切な恩人だ。
園田くんの助けになりたいという気持ちは、誰にも負けない自信があった。
※
お見舞いの品を買い込み、園田くん宅に到着した三人。
「おお、葵ちゃんと隼人くん。それと五十鈴さんまで!」
玄関で園田くんの妹、楓ちゃんが三人を迎えてくれた。
「おっす楓ちゃん。足の調子はどう?」
「もう大丈夫だよ~」
楓ちゃんは元気をアピールするため足をぶんぶん振り回している。元気そうな楓ちゃんだが、バランスを崩してふらふらしていた。
「………(無茶をするな)」
「わわ」
そんな楓ちゃんを涼月くんが抱え止める。
「……?」
五十鈴さんは少し意外に思う。
楓ちゃんが危なっかしいのは分かるが、今までずっと消極的で大人しかった涼月くんにしては妙に行動的だ。
「…涼月くんはね、楓ちゃんに頭が上がらないんだよ」
向日ちゃんが小声で五十鈴さんに耳打ちする。
「涼月くん、楓ちゃんが事故に遭った現場に居合わせてたんだ」
「……!」
「詳しくは知らないんだけど、何故か涼月くんは変な罪悪感を持っててさ…」
「……」
楓ちゃんの身に起きた事故は、五十鈴さんと園田くんが出会うきっかけとなった出来事だ。その件については園田くんも五十鈴さんも複雑な思いを寄せている。
「お兄ちゃん、さっき寝たばかりだけど…起こします?」
楓ちゃんがお見舞いの品を受け取りつつ五十鈴さんに尋ねる。
「……寝てるなら……いい」
五十鈴さんは断った。
睡眠は風邪を治す一番の近道、その眠りを妨げたくはなかった。
「せっかく来たんだし、顔くらいは見に行ったら?」
そう提案する向日ちゃん。
「……」
少し迷った五十鈴さんは廊下で立ち止まり、恐る恐る園田くんの部屋の扉を開け隙間から中を覗き見た。
園田くんは寝ている。
「……」
寝ている姿を確認した五十鈴さんは、ゆっくりと扉を閉める。
「もういいの?」
「うん……次会う時は、学校で」
五十鈴さんはいつもの元気な園田くんが見たかった。
今日はなんとか学校生活を乗り越えられたが、やはり園田くんが欠席していると五十鈴さんの精神は安定しない。このまま園田くん不足が続くと、また学校から逃げ出しかねない。
園田くんがいくら自分を過小評価しようとも、今の五十鈴さんには園田くんの存在が必要不可欠だ。




