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36 退院祝いの贈り物




 なんとか病院に辿り着いた。

 五十鈴さんの自宅と病院は、僕の家からそれほど離れていない。とはいってもこの往復は今の僕には厳しい…


「あら、いつぞやの少年」


 病院の受付を通ると、見覚えのあるナースさんとすれ違う。前に五十鈴さんと学校をサボった時に優しくしてくれた人だ。


「あの、五十鈴さんはいますか?」


「中庭にいるけど…大丈夫?顔色悪いよ」


「大丈夫です」


 僕は受付を抜けて、中庭に足を踏み込む。


 …見つけた、五十鈴さん。

 前に学校をサボって一緒に勉強をした、あのベンチに座って俯いていた。


「……」


 五十鈴さんから発せられる落ち込んでるオーラは、遠くからでも見て取れる。

 早く声をかけないと。


 ………


 勢いでここまで来たけど、なんて声をかけよう。

 こんな時にかけるべき言葉が思いつかないのが、平凡な僕の悪いところ。物語の主人公だったら気の利いたセリフで五十鈴さんを元気にさせられるんだろうけど。


 …思いつかないなら仕方ない。

 いつも通り、普通に話しかけよう。


「おはようございます、五十鈴さん」


「……!?」


 僕が声をかけると、五十鈴さんは勢いよく顔を上げ僕を見る。


「園田くん……風邪は……?」


「微熱なので大したことないです」


「どうして……ここに……?」


「えっと…説明すると長くなるので簡潔に言うと、五十鈴さんが心配だったからです」


「……」

 

 五十鈴さんは再び俯く。

 どうして僕がここに来たのか、もう予想はついているのだろう。


「西木野さん、心配していましたよ」


「うん……ごめんなさい」


 これ以上ないくらい五十鈴さんは気落ちしていた。

 慎重に言葉を選ばないとな…


「五十鈴さんは悪いことなんてしてませんよ」


「……」


「…まだ、学校が怖いですか?」


「うん……自分でも、びっくり……」


 五十鈴さんはたどたどしく言葉を続ける。


「園田くんが欠席って聞いた時……いつもの日常が全然違うものに見えたの……いつもの学校が、別世界みたいで……怖くなって……逃げちゃった……」


「…」


 西木野さんの言う通りだった。


 今の五十鈴さんは友達に囲まれ、学校にはもう通い慣れたとばかり思っていた。だが五十鈴さんはまだ、すがりついた藁を手放せない…それほど学校という環境に強い恐怖心を抱いていたんだ。


 どうすれば五十鈴さんを勇気づけられるか……僕なりに、考えてきた。


「唐突ですが五十鈴さん。クマのぬいぐるみが好きですよね」


「……?」


「これ、五十鈴さんの退院祝いに用意したのですが…渡すタイミングが難しくて」


 僕は退院祝いに用意したプレゼントの包みを五十鈴さんに差し出した。平凡な僕にはこれくらいしか思い浮かばなかった。


「……」


 五十鈴さんはプレゼントを受け取る。


「開けていい……?」


「どうぞ。大した物じゃないので期待しないでくださいよ」


 五十鈴さんは袋を開け、中身を取り出す。


 それは紙飛行機に乗った熊のぬいぐるみだ。

 なんてことのない小さなキーホルダーだけど、五十鈴さんにピッタリで買わずにはいられなかった。


「……」


 五十鈴さんは無表情だけど、喜んでくれてるかな?


「僕がそばにいなくても、五十鈴さんは独りぼっちじゃないです」


「……!」


「それに僕だけじゃなく西木野さんたちもいます。きっと僕のいない学校は、いつもと違う楽しい出来事が待ってますよ…」


「いつもと違う……?」


「だから…明日は…」


「……園田くん?」


 あれ…意識がぼんやりする…

 まだ話が途中なのに…


「園田くん!」


 風邪に強いとはいえ…無茶しすぎたか…





 僕は気を失ったらしい。

 その後のことは、あまり覚えていなかった。


「タクシーを呼んでおいたから、大人しく自宅療養するのよ。蘭子ちゃんも今日は帰りな」


 覚えていたのは、かすかに聞こえる声。


「……」


 それと、誰かが僕の手を握っていてくれたことだ。


 ………


 この調子じゃ…明日も学校には行けそうにない。

 五十鈴さん大丈夫かな。

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