35 五十鈴さんの失踪
『五十鈴さんが行方不明になったんだけど…』
少し寝て気分が良くなったのに、西木野さんからのメッセージを見て一気に気分が悪くなってきた。
「な…」
五十鈴さんが行方不明…!?
大変じゃないか!
『園田はなんか知らない?』
西木野さんからのメッセージが続く。
学校を休んでる僕に聞かれても…
…いや、五十鈴さんの事情を深く知ってるのは僕だけか。落ち着いて、まずは状況確認だ。
『もうちょっと詳しくお願いします』
僕は西木野さんにメッセージを送り返した。
『五十鈴さん、朝は普通に登校してたんだよ』
『学校にはちゃんと来てたんですね』
『でも朝礼が終わって、一時間目が始まる前にはいなくなってた。連絡しても返事こないし…』
『…先生には報告しました?』
『まだしてない。五十鈴さん繊細だから事を大きくしてもいいのかどうか』
『それで正解だと思います』
恐らく五十鈴さんは自分の意思で学校を抜け出したんだ。
行方不明と聞けば五十鈴さんの身の危険が心配だが、もし五十鈴さんに危険が迫れば例の五十鈴さん親衛隊が動くはず。城井くんいわく親衛隊が存在する限り、五十鈴さんの身に危険が迫ることはないと断言するくらいだ。
問題は、なんで五十鈴さんが早退したのかだ。
やりたいことのサボるはもう達成されてるし……僕の知らない、別のやりたいことがあったのか?
いや…僕の風邪がうつってて、急に体調を崩したのかも。
『五十鈴さんの様子で、何か変わったことってありました?』
『いつも通り普通だったよ。星野さんたちと雑談してて、無表情だけど楽しそうだった』
『うーん…』
わからない…
やっぱり謎が多いよ五十鈴さん。
『あ、でも朝礼が始まる前。五十鈴さんやけにそわそわしてたな』
『え?』
『園田の席をチラチラ見て、いつもの無表情が少し曇って見えたよ』
…僕が欠席したことを気にしたのか。
でも、それが五十鈴さん失踪とどう繋がる?
『これは私の推測なんだけどさ』
『はい?』
『五十鈴さんっていつも園田のそばにいるよね』
『まあ…そうかもですが』
『五十鈴さんは、園田のいない学校が怖いんじゃないかな?』
………
西木野さんからのメッセージを見て、僕は登校初日の五十鈴さんを思い返した。
学校という未知の世界に飛び込んだあの日は、藁にもすがりたい状況だっただろう。隣の席に僕がいると知って、安堵の笑みを浮かべた五十鈴さん。
あの頃の五十鈴さんなら、あり得ると思えた。
『五十鈴さんって見た目よりずっと繊細でさ、学校中が注目する美少女じゃない。気疲れも人一倍感じてると思う。そんな五十鈴さんの心を支えていたのが、園田の存在なんだよ』
『でも、今の五十鈴さんは独りぼっちじゃないですよ。西木野さんや星野さんもいますし』
『今の……ね』
『?』
『残念ながら私らじゃ、園田の代わりにはなれなかったみたい』
『…』
五十鈴さんにとって僕ってそこまで重要なのか?
前に五十鈴さんを泣かせた出来事を反省して、僕は自分を過小評価することを控えた。だが西木野さんの言っていることは、いくら何でも僕を過大評価しすぎてる。
『学校に通う勇気の無い子が、誰かに依存して心の支えにするのは珍しいことじゃないよ』
『依存…ですか』
『小学生時代の五十鈴さんを知ってる園田なら、何か思い当たることがあるんじゃない?』
五十鈴さんの事情を知らないはずの西木野さんなのに、全てを見透かされているように推論を立てる。
『五十鈴さんの過去に何があったのか、園田が五十鈴さんに何をしたのか、私は知らない。五十鈴さんを支えてあげられるのは、園田しかいないんだ』
『でも…どうすれば』
『ごめん、もうすぐ授業が始まる』
ここで西木野さんとのやり取りは途切れた。
僕はどうすればいいんだ…
…と、とにかく五十鈴さんと話をしないと。
西木野さんの推測が当たっているなら、五十鈴さんは不安に駆られているはずだ。何処にいるか分からないけど、まず五十鈴さんの家に行ってみよう。
※
自転車で五十鈴さんの家にやって来た。
一応にゃいんで五十鈴さんにメッセージは送っているが、返事どころか既読も付かない。やはり直接会って話さないとダメだ。
僕は迷わずインターホンを鳴らす。
ピンポーン
…
『はいはーい』
インターホンから五十鈴さんのお母さんの声が聞こえる。
「園田です」
『あら、園田くん?学校はどうしたの?』
「風邪で休みました」
『………ああ、なるほどね』
五十鈴さんのお母さんは全てを悟ったように呟く。
『蘭子ならまだ帰ってないよ』
「!?」
五十鈴さんは家に帰っていない。
いや…そもそも、この口振り。やっぱり五十鈴さんのお母さんは事情を知っている?
「あの、五十鈴さんが学校を欠席したらしいのですが」
『そのことね………園田くんならいいか』
「え?」
『蘭子が入院してた病院から電話があったの。蘭子が病院の中庭に来てますって』
そっちか!
確かに学校を抜け出しておいて、真っ直ぐ家に帰るのは気まずいよね。五十鈴さんにとって病院の中庭は非常時の避難場所なのだろう。
『学校に欠席の連絡はしてある。後は蘭子が帰ってきてくれればいいんだけど…』
五十鈴さんのお母さんの言い方が、なんか挑発的だ。
…僕の返事は決まっている。
「僕が迎えに行きます」
『それでこそ男だ!蘭子が見込んだだけはある』
「え?それって…」
僕が言葉を続けようとしたら、インターホンの通話が切れた。
もたもたするなってことか…
「…よし」
まず西木野さんに心配ないとメッセージを送ってから、五十鈴さんのいる病院に向かおう。
「おっと…」
足がふらつく…頭がクラクラする…
確実に風邪は悪化しているだろけど、そんなことはどうでもいい。寝れば治る病よりも、寝ても解決しない五十鈴さんの方が優先だ。




