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32 家でゲーム




 みんなでお昼ご飯を食べた後、すぐ解散となった。

 まんかい亭で食事すると腹九分目という絶妙な満足感になる。体力測定で疲れたし、帰ってすぐ横になりたいんだよね。


「美味しかったですね」


「うん……」


 僕と五十鈴さんは二人で帰路につく。


 それにしても…僕の家でゲームか。


 星野さんは西木野さん組も誘ったけど、それぞれ用事があって来れなかったらしい。だから明日は五十鈴さん、星野さん、木蔭さんの三人が僕の家に来ることになった。


「…」


 緊張してきた。


 異性を家に招待するなんて滅多にないからな。葵なら子供の頃からよく遊びに来てたけど、あれは例外。


「その…五十鈴さん」


「……?」


「大丈夫ですか?いきなり僕の家なんて」


 念のため五十鈴さんに確認を取る。

 僕もそうだけど、五十鈴さんもかなり緊張しているはずだ。友達の家に遊びに行くって、初めてだとかなり抵抗がある。五十鈴さんはあらゆる面で経験不足だし、もうちょっと友達としての期間を得てからでもいいと思うんだけど…


「……!」


 五十鈴さんは鞄からやりたいことノートを取り出し、ページを開いて僕に見せてくれた。


――――――――――――――――――――

41 友達の家に遊びに行く。

42 友達を家に招待する。

43 ショッピングに出かける。

44 プリクラを撮る。

45 ボウリングでストライク。

46 カラオケで歌う。

47 バトミントンで対決。

48 食べ放題に行く。

49 映画館に行く。

50 お泊まり会を開く。

――――――――――――――――――――――


 おお、友達とやりたいことが詰まったページだ。


「これ……」


 五十鈴さんは一行目の項目を指差す。


「なるほど…」


 望むところってことか。

 しかし今回のメインは、みんなでゲームをすることだ。


「因みに五十鈴さん、テレビゲームって分かります?」


「うん……テレビとかで見たことある……楽しみ……」


 入院中でもゲームはやったことないんだな。


 となると…気を引き締めないといけない。

 楽しい時間を過ごせないと五十鈴さんはノートにチェックを付けない。記念すべき初の家ゲーム、是非とも五十鈴さんを満足させチェックを付けてもらいたい。


 がんばろう。





 次の日の日曜。

 五十鈴さん、星野さん、木蔭さんが家にやってきた。


「……」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します…」


 みんな私服だから、新鮮な光景だ。


 季節はまだ肌寒い春。

 星野さんは緑のパーカーにショートパンツ、ファッションセンスは葵に近い。手に持っている貯金箱は今日のラッキーアイテムかな?

 木蔭さんは茶色のカーディガンとロングスカート、自分の個性をよく理解した落ち着いた雰囲気だ。


 そして五十鈴さんは………いつもの学生服だった。

 私服を持ってないのかな?


「どうぞ入ってください」


 三人を家の中に招き入れる。


 僕の家は五階建てマンションの三階。

 部屋はリビングが一つ、僕と妹の部屋が一つずつ、両親が寝室に使う和室が一つ、大きなテレビが置いてある来客用の部屋が一つ。合わせて五つの部屋で分けられている。


 五十鈴さんたちは来客用の部屋に案内した。


「綺麗な新築マンションだね~」


 星野さんは呑気に部屋を見回す。


「……」


「…」


 対して五十鈴さんと木蔭さんはかなり緊張していた。人の家にお邪魔するのは初めてって感じだ。


「失礼しま~す」


 すると、部屋の扉が開く。

 妹が片足を気遣いながらお茶菓子を持ってやって来た。


「お兄ちゃん、お茶菓子だよ~」


「まだ完治してないんだから無理するなよ…」


 僕は慌てて妹からお茶菓子を受け取る。

 交通事故で足を怪我した妹。もうほとんど治っているらしいが、包帯はまだ取れていない。


「君が園田くんの妹さん?」


 星野さんが妹からお茶を受け取りつつ、気さくに話しかけた。


「はい、妹の園田楓(そのだかえで)です。兄がお世話になっております」


 ぺこりとお辞儀をする妹。

 コイツのコミュ力は西木野さんや葵以上だろう。相手が初対面の年上であろうが、恐れを知らず距離を縮めてくる。


「……(お辞儀する五十鈴さん)」

「兄妹揃って礼儀正しいね」

(私より背が高い…)


 三人は妹を見て感心していた。


「それにしてもお兄ちゃん、入学して数日で女子三人連れ込むなんてやるね」


 初対面での挨拶が終わるや否や、妹が黒い笑みを浮かべながら肘で僕の脇を小突く。


「一生に三度あるモテ期の第一波がついに来たんだね」


「そんなんじゃないよ」


「それにしてもあの美少女さん…どこかで見たことあるような」


 五十鈴さんを凝視する妹。


「………あ、思い出した!病院にいた儚い美少女だ!」


 …しまった。

 妹は入院中、何度か五十鈴さんを目撃しているんだった。


「お兄ちゃん、すかしたこと言っておきながらちゃんと唾つけむぐ!」


「そこまでだ…妹よ」


 妹の口を塞ぐ。

 コイツに好き勝手話されたらまずい。五十鈴さんはまだ入院生活が長いことを秘密にしたいんだ。


「病院…?」


「儚い…?」


 木蔭さんと星野さんが不審に思っている。

 さっさと話題を切り替えよう。


「それよりゲーム!ゲームやりましょう!こっちの棚から選んでください」


 僕は慌ててゲーム棚に目を向ける。

 どのゲームをやるかはまだ決めていない。五十鈴さんと木蔭さんもゲーム初心者だから、難易度の低いゲームを選びたいところだ。


「あ、園田くん。これとかどうかな」


 星野さんが棚からゲームを引き出す。


「どれです?」


「クービィのエアライド」


「…そのゲームはいろいろ危険なので止めましょう」


 ゲームの中には友達と育んだ友情をあっさり崩壊させる危険なゲームも含まれている。特に対戦系は避けたいな。

 でもレースゲームだったら悪くないかも。


「じゃあ定番のレースゲーム、マリモカートにしようか」


「それがいいですね」


 マリモカートは誰もが知る有名なレースゲームだ。


「あ……それなら……」


「テレビで見たことある…」


 五十鈴さんと木蔭さんも見たことくらいはある知名度の広さ。

 これなら他のレースゲームよりも平和的だし初心者にも優しい。レース妨害手段はいくらでもあるけど、その辺りはある程度コントロールできる。


「初心者もいることだし、50ccにしてドライブ気分で遊んでいこう」


 そう言って星野さんはゲームの電源を入れた。





 ゲームを始めてしばらく経つ。


「……!」


「…!」


 五十鈴さんと木蔭さんはコントローラと一緒に体を傾けていた。


 どうやらレースゲームは気に入ってくれたようだ。

 僕と星野さんは世界でレートを奪い合う玄人とは違い、大した技を持たないまったり勢。もう四人の実力は大して変わらないレベルにまで並んでいる。


 これは、いい感じに楽しめてるんじゃないか?


「…他が勝ってばかりだね」


「ん……勝ちたい……」


 木蔭さんと五十鈴さんがボソッと呟く。

 今のところ上位を独占しているのはCPUだ。二人はゲームに慣れてきて、積極的に1位を目指すようになってきた。


「じゃあ誰か一人が1位を取れるよう協力してみようか」


 星野さんがそう提案する。


 四人vsCPU


 この遊び方は初めてだな。

 だが最新ゲームのCPUってかなり手強い。レベルを変えて弱くすることも出来るが、それでは二人も納得しないだろう。


「じゃあ…がんばりますか、五十鈴さん」

「うん……」

「ふふ、楽しくなりそうだね」

「む…」


 こうして四人での共闘レースが始まる。

 妨害アイテムは仲間内でぶつけないよう、全体妨害アイテムはタイミングを見計らって使用。そして1位になれそうな人は遠慮せずゴールを狙う。


 時の運で戦況が左右されるこのゲーム。

 誰が先陣を切れるかは分からない。


「…五十鈴さん、1位いけそうですね」


 僕らはCPUに妨害されボロボロだが、五十鈴さんが1位の背中を追っている。


「なら五十鈴さんを全力でサポートしよう!」


 星野さんの指示に僕と木蔭さんが頷く。

 三人掛で五十鈴さんを全力サポートだ。


「……」


 五十鈴さんの表情は真剣そのもの。

 これはただ勝利を目指すだけの集中力ではない、やりたいこと達成に向ける特有の強い熱意を感じる。


 そして五十鈴さんは、ギリギリで1位をもぎ取った。


「おお、五十鈴さんが1位です!」


 僕は感極まって声を張り上げてしまった。

 遊び慣れたゲームなのに、遊び方や一緒に遊ぶ友達が違うだけでこんなに盛り上がるとは…


「私たちの勝ちだね!」


「うん…!」


 星野さんと木蔭さんもハイタッチで勝利を喜んでいる。


「やったね、五十鈴さ…」


 星野さんが五十鈴さんの勝利を称えようとしたが、五十鈴さんの様子を見て息を呑む。


「ふふ……」


 五十鈴さんは良い笑顔で勝利を喜んでいた。


「…」

「…」


 その笑顔に魅入られる星野さんと木蔭さん。

 普段はずっと緊張して表情を強張らせる五十鈴さんだから、二人は初めて見るだろう…老若男女あらゆる人類を魅了する、五十鈴さんの笑顔を。


「今日の運勢、そりゃ1位にもなるわ」

「身に余る報酬…」


 二人は勝利以外の達成感に浸っていた。


「お兄ちゃーん、私も混ざる―!」


 その様子を見ていた妹が間に入ってくる。


「はいはい…じゃあ今度は四人全員で上位独占を目指しますか」


 こうして僕らは日が暮れるまで普通にゲームを楽しんだ。最後に五十鈴さんがやりたいことノートにチェックを付ける姿を、僕は見逃さなかった。

41 友達の家に遊びに行く。×

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