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31 みんなでごはん②




 お食事処、まんかい亭。

 お昼時の店内は常連客で適度に賑わっていた。学校で体力測定があったにもかかわらず華岡学生の客が少ないのは、ここが隠れた名店だからだろう。


「いらっしゃいませー」


 園田くんと五十鈴さん一行が入店した。


 今回は七人と大勢で入店したので、二組に分かれて席に着く。

 どう分かれるかは成り行きで決まった。五十鈴さん、園田くん、星野さん、木蔭ちゃんで一組。余った西木野さん、朝香さん、向日ちゃんは少し遠くのテーブル席に座る。


「学生限定お肉おまかせ定食ですね、少々お待ちください」


「………」


 まんかい亭の亭主は、重い腰を上げ五十鈴さんに目を向ける。


(待っていたぞ……この時を!)


 どんな客でも満足させられる目利きの亭主。

 そのプライドと誇りに傷を付けた初めてのお客さま、五十鈴さん。亭主は五十鈴さんの来店を心待ちにしていた。


(今回はたくさんお友達を連れてきたようだが…本命はあの“プリンツェッサ”だ)


 亭主は五十鈴さんに変な呼称を付けターゲットにしている。


(プリンツェッサを満足させるため、必殺料理(スペシャリテ)を創ってきた…今度こそ美味いと言わせてやるぜ!)


 まるで料理アニメの主人公のよう。

 必ずやあの冷たい無表情を溶かしてやると、亭主は闘志を燃やしていた。


(…おっと、他のお友達の料理を考えないとな)


 亭主は我に返る。

 五十鈴さんに振舞う料理は既に決めている。なので亭主は五十鈴さんが連れてきた友達に適合する料理の分析を始めた。


 まず西木野さん組に目を向ける。


「あの少女は前も来たな、今度は肉と野菜でバランスの良い回鍋肉がいい。あのぽわぽわした少女は…香りを気にするタイプか、ならシーズニングスパイスを効かせたハンバーグでいく。あのいかにもなスポーツ少女は大盛り焼肉定食が最善」


 西木野さん、朝香さん、向日ちゃんに適合する肉料理を選ぶ亭主。そしてそのチョイスは見事に当たっている、空腹な三人の食欲を十二分に満たせるものだ。


 次に亭主は五十鈴さんのテーブルに目をやる。


(あの男…またプリンツェッサの側にいるな。どんな関係なんだ…?)


 いつも五十鈴さんの側にいる園田くん。

 平凡で個性がない園田くん故、どんな料理が適合するかはすぐ分かる。だが分かるのは適合料理だけで、それ以外の情報は不明だ。


(いかん…料理以外のことを考えるな)


 亭主は頭を振る。

 目を向けるべきは同席している新顔の二人、亭主は星野さんと木蔭ちゃんの分析を始めた。


 ………


 ……


 …


(んん…?)


 亭主は顎に手をやり考え込む。


(あの星のヘアピン少女。一見すると普通の女の子だが、複雑な運命に惑わされている気配……確実に適合する料理があるはずだが、ハッキリとした答えが見えない。加えてあのメガネ少女………………………何も見えない、なんだあの存在感の薄さは!?)


 五十鈴さんとはまるで違う未知の少女が現れ、亭主は混乱した。


(プリンツェッサの対策をしてきたのに、さらに難題の少女が二人も増えるとは………どうなっているんだ、今年の華岡生徒は…!?)


 今まで個性豊かな華岡学生の腹を満たしてきた亭主だが、今年の中等部一年は特に異質。目利きが出来るレベルの個性ではない。


(あれだけ修行したのに…俺はまだまだ未熟だ)


 再び自信を無くす亭主。

 亭主の修業はこれからも続く。





「そうだ園田くん」


「はい?」


 星野さんがトンカツを食べながら園田くんに話しかける。


「一緒にゲームするって話、明日の日曜とかどうかな?」


「…唐突ですね」


 園田くんはポークステーキを咀嚼しながら考える。

 前に園田くんと星野さんはゲームの話題で盛り上がった。いつか五十鈴さんを入れて四人でゲームをしてみたい…そうは話したが、あまりに急すぎた。


「やるとして、どこでやるんです?」


「私の家でもいいけど、園田くんの家はどう?」


「大丈夫ですけど…うっとおしい妹が邪魔しに来るかもしれません」


「いいじゃん賑やかで。じゃあ園田くんの家で決定ね」


「星野さん…けっこう大胆ですよね」


 園田くんは星野さんの勢いに押される。

 女子が男子の家に訪問するのだから、それなりに抵抗があっても不思議ではない。だが星野さんはその辺りの拘りは薄いようだ。


「木蔭ちゃんも一緒にどう?」


「…へ?」


 星野さんから唐突に話を振られ、木蔭ちゃんのロールキャベツを切り分ける手が止まる。


(知り合って間もない異性の家にお邪魔…進展が早すぎる…!)


 星野さんとは違い、異性に対してまだまだ心を開けない木蔭ちゃん。今まで読んだ小説の展開からしても、自宅訪問イベントはもっと後半に起きるものだ。


(でも…二度とないチャンスかもしれない…)


 しかしこのイベントを逃したら、次にいつ起こるか分からない。この機を逃していいものか木蔭ちゃんは悩んだ。


「………行く!」


 ここは勇気を出して飛び込むべきだと判断し、木蔭ちゃんは参加を表明した。


(来るんだ…)


 園田くんからしても木蔭ちゃんの参加は予想外だった。


「五十鈴さんは明日の予定空いてる?」


「う、うん……」


「じゃあ一緒に遊ぼう!」


 星野さんはさらっと五十鈴さんも仲間に加える。

 園田くんと五十鈴さんは親しい間柄なのだから、一緒に遊ぶくらい大したことない。そんな気軽さで誘ったのだろう。


「西木野さんたちにも後で聞いてみよう」


 星野さんは嬉しそうに、美味しそうに肉を口に運ぶ。因みに星野さんにとってトンカツは、三位くらいに美味だった。


「…」


 園田くんは横目で五十鈴さんの様子を見る。


「……」


「だ、大丈夫ですか?五十鈴さん」


「……」


 五十鈴さんは無表情だが、内心大慌てであることを園田くんは察している。

 事実、想定外のイベントに五十鈴さんの頭の中は大混乱。せっかく亭主が気合を入れて作った必殺料理、美味だがリアクションを取れる状態ではなかった。

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