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30 体力測定




 身体測定の次は体力測定が始まる。

 それは、五十鈴さんにとって最大の難関だった。



 15 体力測定は平均以上を目指す。



 五十鈴さんは人並みの能力を望んでいた。


 まだずっと幼かった頃。

 入院中の五十鈴さんはベットから起き上がることもままならなかった。体が動かない、意識もはっきりしない、ずっと腕に繋がれた細い管の鎖に縛られていた。生きている心地がしない絶望の中で、大切な時間を浪費していた。


 そんな日々も終わった。

 

 体が動くようになった。

 学校に通えるようになった。

 一般人と対等に体力を測れるようになった。


 それがどれだけ嬉しいことか。


「一緒に回ろう!五十鈴さん」


「……」


 感激に浸っていた五十鈴さんに元気な声をかける向日ちゃん。


「五十鈴さんとはいい勝負が出来そうだ~」


「いや…それは無茶でしょ、向日ちゃん」


 五十鈴さんの代わりに西木野さんが答えてくれた。


「向日ちゃんは運動部の先輩ですら敵わない超人なんだから」


「大丈夫!私が気になるのは五十鈴さんの素質、将来的なものだから。今の結果なんて気にしないで楽しもう!」


 運動において完璧超人の向日葵ちゃん。


 しかし運動は楽しむことが第一。

 勝つために必死になったり、負けたことで落ち込んだりもしない、過程を楽しむタイプのスポーツマン。なので部活動には所属せず、遊び気分で顔を出して運動を楽しんでいるだけ。


「年に一回のイベントなんだから、楽しまないと損だよ~」


「……」


 平均値を目指すことに拘っていた五十鈴さん。

 向日ちゃんの楽しそうな姿を見て、五十鈴さんは大事なことを思い出した。目標達成に必死になって、楽しむことを忘れてはいけない。


「……うん、がんばる!」


 五十鈴さんは気を取り直して奮起し、向日ちゃんの後に続いた。





――――――――――

 中学女子平均


 握力       23kg

 上体起こし    25回

 長座体前屈    45cm

 反復横跳び    48回

 立ち幅跳び    165cm

 ハンドボール投げ 15m

 50メートル走   9秒

――――――――――


 これが華岡学校、中学生女子の平均値だ。

 そして五十鈴さんの目指すべき目的値。


「……」


 体力測定を終えた五十鈴さんは、教室で結果を見直した。


――――――――――

 五十鈴 蘭子


 握力       11kg

 上体起こし    8回

 長座体前屈    60cm

 反復横跳び    16回

 立ち幅跳び    184cm

 ハンドボール投げ 5m

 50メートル走   13.5秒

――――――――――


 結果はボロボロだった。

 五十鈴さんが退院してから約二カ月。入院中もリハビリで体を作ってきたが、全ての平均値を超えることは叶わなかった。


「五十鈴さん、これが私の結果だよ」


 向日ちゃんが五十鈴さんに結果を見せてくる。


――――――――――

 向日 葵


 握力       51kg

 上体起こし    41回

 長座体前屈    58cm

 反復横跳び    61回

 立ち幅跳び    249cm

 ハンドボール投げ 27m

 50メートル走   7.1秒

――――――――――


 全ての数値が平均値を大きく超えていた。

 もはや高等部の男子以上。


 しかも楽しむこと第一でろくに鍛えてもいない向日ちゃん。ただ遊んでいるだけでこの数値は、まさに天賦の才だろう。


「すごい……」


 五十鈴さんは同年代女子とは思えない数字を見て驚愕する。


「数字なんてそれほど重要じゃないよ。それより注目すべきは五十鈴さんの動き方、計測中の五十鈴さんだよ!」


「……?」


 向日ちゃんは結果ではなく、測定中の過程に注目した。


「長座体前屈と立ち幅跳び、この二つは私以上。柔軟性のある長い手足、体の軸も安定してる。私が見立てた通り素質はあるよ!」


「……」


「でもその才能に体がついてこないタイプだね。五十鈴さんの素質なら、私みたいに日常生活を過ごしているだけで体力も筋力もつくはずなのに…」


 五十鈴さんは身長、体格、ボディーバランスに恵まれていた。

 そこが完璧美少女である魅力の一つだが、運動面でも才能が光る。努力しなくても、もっと高い数値を出せてもおかしくないと向日ちゃんは分析した。


「もしかして五十鈴さん…寝たきりだった期間とかある?」


「……!」


 向日ちゃんに図星を突かれ、動揺する五十鈴さん。

 五十鈴さんは入院生活が長いことをなるべく隠したかった。知られれば同情される、対等の友達と見られなくなる、望んでいた普通から遠のいてしまう、そう思っていたからだ。


「こら」


 その時、園田くんが向日ちゃんの頭にチョップをかます。


「いて」


「勝手に人を分析するな、この戦闘民族が」


 園田くんが向日ちゃんを叱った。

 男子たちも体力測定から戻ってきたようだ。


「……」


 園田くんの助けが入り、五十鈴さんは安堵する。


 ともあれ身体測定も体力測定も達成ならず。

 少なからず落胆はあるが、五十鈴さんはそう簡単に達成できるとは思っていなかった。背を伸ばす努力、体力を鍛える努力、体が動くかぎり五十鈴さんの挑戦は続く。





 体力測定の日は土曜日なので、午前中で学校が終わる。


「お腹空いたよ~」


 園田くんの席にやってきた向日ちゃんがぼやく。運動したこともあって、みんな空腹のままだ。


「庭人くん、一緒に何か食べてかない?」


「ん?そうだな…」


 園田くんは隣の五十鈴さんを見る。

 五十鈴さんはそわそわしていた。


「…またみんなで、ご飯なんてどうです?」


「……!」


 園田くんのお誘いに五十鈴さんが頷く。

 みんなでご飯は既に達成されたやりたいことだが、楽しい集まりは何時でもウェルカムな五十鈴さん。


「運動してお腹空いてますし、またあそこに行きますか」


「うん……!」


 あそことは、前に西木野さんたちと行った“まんかい亭”のことだ。


「あそこ?」


 向日ちゃんが園田くんの机に張り付いたまま首を傾げる。


「300円でお腹一杯に肉が食べれる店だ」


「何それすごい!」


 激安でお腹いっぱいに肉が食べられる、向日ちゃんにとってこれほど魅力的な話があるだろうか。


「またあそこ行くんだ、じゃあ私も一緒していい?」


 前の席にいた西木野さんが振り返る。

 五十鈴さんは迷わず頷いた。


「私も行く~」

「じゃあ…私も…」

「私も!どこに行くか知らないけど」


 さらにタイミングよく近くに集まっていた朝香さん、木蔭ちゃん、星野さんも参加。


「…!」


 一気に女子勢力が拡大し慌てる園田くん。


「城井くんと涼月くんもどうかな?」


 園田くんは前の席の窓際にいた二人に声をかけ男子勢力の増員を目論む。


「ごめん、課外活動がある」


「………(家の用事がある)」


 が、駄目。

 

 園田くん一人に女子六人。

 状況は園田くんが圧倒的劣勢。


「ハーレムじゃん、喜べよ園田~」


 西木野さんが肘で園田くんを突っついてくる。


「現実で起きてもつらいのですが…」


 ただでさえ五十鈴さんの隣という特級席を独占しているにもかかわらず、女子六人を引き連れての食事。周囲(主に男子)からの敵意が増大すること必至である。

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