23 お弁当の日
ついにやってきた、お弁当の日のお昼。
直接誘える度胸がなかった五十鈴さんは、お昼に誘いたい人へ手紙を送って伝えることにした。そんな五十鈴さんからの招待状に、五十鈴さんを含めて五人の女子が中庭に集まった。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
集まったものの、五人は沈黙していた。
それもそのはず五人はほぼ初対面、集まるのもこれが初めてだからだ。集めた張本人である五十鈴さんは、かつてない緊張に襲われ表情を強張らせている。
「さて…どう整理したもんかな」
先に口を開いたのはやはり西木野さんだった。
「順々に処理しようか………先に紹介するよ、五十鈴さん」
「……?」
「この子は朝香希。私の幼稚園からの幼馴染」
まず西木野さんが連れて来た友達を紹介した。
ふわふわ髪のおっとりした瞳、彼女を動物に例えるなら羊がピッタリ合うようなほんわかした少女だ。
「こんにちは~五十鈴さん」
「こ、こんにちは……」
怖いお嬢様との噂が流れている五十鈴さんを前にしても、朝香さんは怯えることなく呑気な声で挨拶をする。
「この通り緊張感のない気の抜けた子だから、五十鈴さんも警戒せず気軽に話かけていいからね」
「う、うん……」
「友達の友達は友達ってことで、一つよろしく」
大雑把に連れてきた友達の紹介を済ませる西木野さん。
「それで………まさか、五十鈴さんが二人もクラスメイトを誘うなんて予想外だったんだけど」
次に西木野さんが注目するのは五十鈴さんが誘った二人、星野夢月さんと木蔭明菜ちゃんだ。
「星野さん、いつの間に五十鈴さんと知り合ったの?」
「えっと…いろいろあって」
まず西木野さんが声をかけたのは、通学路で五十鈴さんとぶつかった星野さんだ。初対面でなさそうな二人を見て、五十鈴さんは首を傾げる。
「知り合い……?」
「ああ、私と星野さんは同じ小学校なんだ。クラスが同じになったのは一回だけだったけど、個性的で印象に残ってるよ」
「……?」
「なんかいっつも変な物を手に持っててね。今だってなんで羽根帚を持ってるのか分かんないし」
西木野さんは不可解な目で星野さんを見る。星野さんの手には、食事には使われない掃除道具が握られていた。
「深い意味はないよ、占いのラッキーアイテムなだけ」
「占いの道具だったんだ…でもずっと持ち歩く必要あったの?当時はそれで周囲から変な目で見られてたでしょ」
「それでも…持ってないとダメなんだ…」
そう呟く星野さんの疲れた表情からは、ただ事ではない心労が伝わってくる。
「な、なるほど…」
たかが占いと軽く見ていた西木野さんだが、迂闊に踏み込むべきではないと判断して引き下がった。
「それとえっと………あ、木蔭さんね」
西木野さんは次の人へ目を向ける。側にいる木蔭ちゃんを見つけるのに数秒かかっていた。
「どうも…」
影の薄い木蔭ちゃんはおずおずとお辞儀をする。
木蔭ちゃんは五十鈴さんレベルで他者との交流経験が少ない女の子なので、まだこの状況に慣れず緊張していた。
「登校初日は話しかけなくてごめんね」
「いいの…私、影が薄いから」
「五十鈴さんから聞いたよ。いつも教室を綺麗にしてくれてありがと~」
「う、うん…」
「これからは私も掃除仲間だから、よろしくね」
西木野さんは晴れやかな笑顔を浮かべ木蔭ちゃんの緊張をほぐしていく。
「……」
その様子を無言で眺める五十鈴さん。
西木野さんのコミュ力を頼もしく思う反面、羨ましく思っていた。
「五十鈴さん、今回もがんばったね」
「?」
「こうしてお昼を一緒にできたのは、五十鈴さんが勇気を出してくれたおかげだよ」
「……うん」
西木野さんに褒められ、五十鈴さんが照れ気味に頷く。
「…もしかして五十鈴さんって、すごく穏やかな人?」
「噂で流れてる、高圧的なお嬢様でないことは確かだよ」
「私とも気が合いそ~う」
そのやりとりを見ていた星野さん、木蔭ちゃん、朝香さんはコソコソと話し合っていた。
噂の五十鈴さんと本来の五十鈴さんには相反するものがある。少しでも本人と関わってしまえば、噂が誤解であることにはすぐ気付ける。
「そういえば五十鈴さん、お弁当なんだね」
「うん……自分で、作ったの……」
「おお、五十鈴さんも手作りか。ならおかず交換しようよ」
「……!」
西木野さんの提案に、五十鈴さんは全力で頷く。おかず交換は五十鈴さんにとって願ってもない提案だ。
「美味しい!朝から手が込んでるね~」
西木野さんは美味しそうにミートボールを頬張る。
自分の作った料理を西木野さんに褒めてもらい、五十鈴さんの緊張した顔がほぐれ笑みがこぼれる。
(普通に可愛い!)
(普通に可愛い…)
(普通に可愛い~)
初めて五十鈴さんの笑顔を目撃した三人は同じ感想を抱いていた。今までの五十鈴さんのイメージとはまるで違う、無邪気で愛嬌のあるお姫様がそこにはいた。
「私のおかずもどうぞ!」
「私のも…」
「私のも~」
「!?」
そして三人がとる行動も同じものだった。
五十鈴さんにとって初のお弁当の日。
成果は上々、文句なくノートにチェックをつけられるランチとなった。
※
(…五十鈴さん、いい感じにやってるみたいだな)
教室から中庭にいる五十鈴さんグループを眺める園田くん。遠目からでも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「園田くん、なんか意外だよね」
「え?」
園田くんに話しかけてくる短髪のボーイッシュな少女。
五十鈴さんが居ないので、園田くんは城井くんと幼馴染二人を含める四人でお昼ご飯を食べていた。
「いつも謙虚な園田くんが、あの五十鈴さんと友達になるなんて」
「…たまたまだよ」
「へぇ~…私たちも五十鈴さんに紹介してよ」
園田くんの幼馴染の少女は、楽しそうに中庭で食事をする五十鈴さんを見下ろす。
「五十鈴さんとは良い運動ができそう」
22 お弁当を作る。×




