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19 木蔭ちゃん




 私、木蔭明菜(こかげあきな)は小学生の頃に気付いた。


 どうやら私には気配がないらしい。




 よくテレビとかで、気配を消して相手の背後に忍び寄る…そんな演出がある。どうやら私は常時気配を消している状態になっているみたい。


 両親はよく私を見失い、デパートとかで頻繁に迷子になった。学校の朝礼では先生に名前を呼ばれない時もある。クラスメイトに声をかけても高確率でスルーされるから、よく心が折れそうになった。


 友達と呼べる関係も作れたことがない。




 悩ましい体質だけど利点もある。


 それは厄介な事件に巻き込まれないこと。

 イジメが起こっても、クラスに不良がいても、何か事件が起こっても、私はターゲットにされることも巻き込まれることもない。いつも静かで、平穏で、平凡で、退屈な毎日。


 これはこれで満足するべきだと、諦め半分で自分の体質を受け入れることにした。




 そして始まった私の新たな中学校生活。

 勇気を出して受けたら受かった、名門華岡学校。多くの天才が在籍するこの学校でなら、今の自分が変えられるかもと思った。


 しかし結果は真逆、個性の強い生徒に囲まれ私の影はかつてないほどに薄くなっていった。自己紹介の時、先生に呼ばれず飛ばされたし………別に今に始まったことじゃないからいいけど。




 何よりうちのクラスには、あの五十鈴さんがいる。五十鈴さんの存在感が強すぎて私の影は風前の灯火。




 中学からは心機一転と思っていたけど…

 結局、これが私なんだと諦めるしかなかった。





 私は影で人の役に立つことが好き。


 人知れず教室を綺麗にしたり、落とし物を見つけてこっそり返したり、学校行事の裏方でサポートに回ったり。私じゃ表舞台には立てないけれど、私の助力で主役が引き立つ姿を見られるのは嬉しい。


 将来、私はいい黒衣さんになれるかも。


 朝とかはこうして教室の掃除をしてる。

 いつもなら少し散らかってるんだけど、最近になって朝の教室が綺麗になっていた。


 何故なら放課後、あの五十鈴さんが掃除をしてくれているからだ。


 外見からして五十鈴さんは自分の手を汚す掃除とは無縁のお嬢様だと思っていたけど………どんな魂胆で掃除してくれてるのかな。他にも西木野さんと、園田くんが協力して教室を掃除してくれてる。


 その姿を見て、私は少しだけ羨ましい気持ちになっていた。


 ………こんな気持ちじゃ黒衣さんにはなれないな。


 教室の掃除はあの三人に任せて、朝の掃除は止めようかな。

 私じゃ黒板の上まで手が届かないし。因みに私の身長はクラスで一番低い…これも存在感の無さに繋がっているのかも。


「おはよう……」


 背後から挨拶の声。


 もう誰か教室に入って来たみたいだ。

 珍しい、普段なら30分くらい後にクラスメイトが集まり始めるのに。でも私の存在には気付かないだろうし、早く掃除を終わらせよう。


 ………


 …背後から視線を感じる。


「?」


 振り返ったら、五十鈴さんがいた。


「……」


 近くで見るのは初めてだけど、やっぱり綺麗。

 お人形さんみたいだ。


「……おはよう」


 五十鈴さんは私の目を見ながら挨拶を口にする。

 教室には私と五十鈴さんしかいない。


 ………もしかしなくても、私に言ってる?


「お、おはよう…ございます」


 華岡学校で初めて声をかけられた。

 しかもあの五十鈴さんに。


 な、なんで…


 もしかして最初の挨拶も私に向けて言ってた?

 どうしよう、無視してしまった。


「……」


 五十鈴さんの手には黒板消しが握られている。


「掃除、手伝う……いつもありがとう」


「………」


 五十鈴さんはずっと私の存在に気付いてた…?

 どうしよう、なんかわからないけど泣きそう。


「……う」


 でも五十鈴さん、黒板の上までギリギリ手が届かない。

 

「おはようございます、五十鈴さん」


 すると教室に園田くんが入って来た。


 園田庭人くん。

 風の噂によると、五十鈴さんの忠実な下僕で人の心が読めるとか…どこまで事実か知らないけど。


「木蔭さんも、おはようございます」


「あ、えっと…おはようございます」


 園田くんは私にも挨拶してくれる。


「…今度は一人で行けましたね、五十鈴さん」


「うん……」


「黒板の上は僕がやりますよ」


 そんなやり取りをしながら、二人は掃除を手伝ってくれた。


 …噂で聞いた関係とは違う。

 五十鈴さんと園田くん。二人はご主人とか下僕とかそんな上下関係じゃない、何か不思議な信頼感がある。


「そうだ木蔭さん」


「あ、はい」


「僕ら放課後も教室を掃除してるんですよ。これからはみんなで一緒に掃除しません?」


 園田くんが私に向けて、そう提案してきた。

 五十鈴さんも頷いている。


「………いいんですか?」


「はい、西木野さんも入れて四人でやればもっと早く終わりますよ」


「…」


 こんな私がそのメンバーに入って良いのかな…

 …例え良くなくても、引き下がりたくない。


「あの…よろしく…!」


 なんとか声を絞り出せた。

 心臓が信じられないくらい高鳴ってる。


「よろしく……」


 そう言って五十鈴さんが手を差し伸ばしてきた。

 もしかして、握手?


「………」


 どうしよう、久しぶりにいろいろ起きて頭が混乱してる。

 でも…それでも。


 私は差し出された五十鈴さんの手に応じた。


 今はとにかく、したいことをする。

 後のことは落ち着いてから考えよう。

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