17 一年のクラスメイト
「教室で疎外感を感じる?」
「……うん」
芸術室での出来事。
五十鈴さんは不安げに僕に相談してきた。
「私……やっぱりクラスで浮いてる……?」
「…うーん」
答えずらいな…
五十鈴さんの誤った噂はどんどん悪い方向に広まっている。冷徹なお嬢様で言葉が通じず、無礼を働けば側近や親衛隊に消される。
そんな超人物、浮いて当然だ。
本人は自覚してないのだろうけど。
「それに……みんな、私を見てコソコソ話してる……」
「…」
自分は周りからどう思われているのか…
五十鈴さんの不安に思う気持ちには共感できる。僕にもそんな時期があったからね。しかも誰かと接する経験が少ない五十鈴さんだからこそ、人一倍過敏になっているのだろう。
「わかりました。僕の方で調べてみます」
五十鈴さんの不安を解消させるためにも、クラスメイトが今の五十鈴さんをどう思っているのか聞き込んでみよう。
※
五十鈴さんが教室にいない間に行動する。
まず噂好きの城井くんに聞いてみた。
「…クラスメイトが五十鈴さんを話題にしてるのは間違いないけど、詳しくは分からない」
城井くんは情報屋ではない、あくまで噂好き。面白い噂には詳しいがクラスメイトや身近な小言には詳しくないようだ。
「どんな話をしてるか分からない?」
「五十鈴さんの趣味は何か?とか、五十鈴さんの好物は何か?とか、そんな感じだと思う」
うーん…単純に五十鈴さんについて気になってるだけか?だったら五十鈴さんが疎外感を感じたのはなんでだろう。
聞いて回りたいけど、僕もそこまでコミュ力は高くない。ただでさえ五十鈴さんの隣に居座ってるだけで心証が悪いのに…
ここはコミュ力の高い西木野さんに頼ってみよう。
「西木野さん、ちょっといいですか?」
「ん~なに?」
「実はかくかくしかじかで………」
「ほうほう…五十鈴さんが不安がってると。んじゃ適当なグループに聞いてみるか、いくよ園田」
「う、うん」
僕は西木野さんの後について行く。
頼りになるな…
「おーい、鈴木三兄弟」
まず西木野さんが声をかけたのは、三人組の男子グループだった。
「だから!」
「兄弟じゃ!」
「ない!」
この三人は確か…鈴木一枝くん、鈴木二郎くん、鈴木三成くん。こんな兄弟みたいな名前だけど兄弟ではない、苗字が偶然重なっただけの鈴木三人組だ。
「む…園田か」
「どうも…」
鈴木三人組は僕を睨む。
やっぱり良く思われてないな…
「みんなして五十鈴さんの噂をしてるみたいじゃん、なに話してんの?」
そんな気まずい空気もお構いなしに西木野さんが話を振る。
「…どうやって五十鈴さんにアプローチをするか、話し合っている」
「アプローチ?」
「五十鈴さんは日本語が不慣れで、最低限の日本語しか使えないだろ?」
「あー………そうね」
本当はそんなことないのだが。
五十鈴さんの事情を知っている西木野さんだが、誤解は自分が解きたいという五十鈴さんの意思を尊重し何も言わない。
「クラスみんなしてコミュニケーションを諦めていたんだが………前の席の池永がノルウェー語入門を読んでいたのが事の発端」
一枝くんが前の席の池永くんを指さす。
「なるほど…抜け駆けか」
西木野さんがそう言うと、池永くんは慌てて振り向く。
「い、いや、せっかくだからノルウェー語を習得して会話してみたいな~と…だから下心とかはなくて!」
池永くんが必死で言い訳をしていた。
「でも授業の片手間で言語習得は無理って話になって…」
「別の方法で五十鈴さんと接することが出来ないか」
「他のグループでもその話題で持ち切りだぞ」
鈴木三人組が語る。
他のグループも同じ話をしているのか?
「相沢さんとこも五十鈴さんについて話し合ってんの?」
西木野さんが近くにいた女子グループに声をかけた。
「そうそう、五十鈴さんとは是非とも仲良くしたいし」
「抱きついてみた~い」
「ちょっかいし合う仲になりたい」
「命に代えても保護したい…!」
女子陣営も盛り上がっている。
「一緒に美味しいものを食べれば仲良くなれるよ!」
「ノルウェー料理ってどんなのあったっけ?」
「曲がり角でごっつんこすれば…」
「ばか!五十鈴さんが怪我したらどうする」
「映画鑑賞会を開いてみないか?翻訳付きで」
「あんまり近づきすぎると親衛隊に目を付けられるかも」
「私、親衛隊に所属してるからセーフラインを教えるぞ」
「やっぱりみんなでノルウェー語勉強しようぜ」
「いやそれよりも…!」
他のグループも話題に参戦し教室中が大盛り上がり。やっぱりみんな、五十鈴さんの魅力にやられてるみたいだ。
「そうだ、園田はどうやって五十鈴さんに近づいたんだ?もしかしてノルウェー語が使えたりするのか?」
「え?それは…」
ノルウェー語なんて習得しても意味ないんだよな…
僕も五十鈴さんがクラスに馴染めることを望んでいる。何か良い方向に話を進められればいいんだけど。
ガラ…
「……」
そんな教室の輪に、五十鈴さんが入ってきた。
スン…
教室中が一斉に静寂する。
「!?」
その様子を見て五十鈴さんが狼狽えている。
…五十鈴さんの感じた疎外感はこれのことか。
五十鈴さんに近づくためクラスが一致団結しているのは良いことだが、そんな輪に五十鈴さん本人が混ざれるわけがない。
「……?」
五十鈴さんが僕を見て目で訴えてくる。
きっと「やっぱり仲間外れにされてる……?」とか思ってるんだろうな。
「そんなことないですよ、五十鈴さん」
一先ず五十鈴さんの誤解を解かないといけないな。
「まさか園田…心を読む技を持ってるのか…!?」
「え?」
「それで五十鈴との意思疎通を…」
この人は…木条くんか。
ちょっと中二病っぽい人だけど、そんな理屈は通らないだろう。
「何それこわ…」
「マジかよ引くわ…」
「距離とろ」
通った!?
「よーし授業を始めるぞー」
先生が登場し、クラスのみんなは席に着いた。
「え、ちょっと!こんなオチで終わり!?」
話し合いの結果、僕は更にクラスメイトとの距離感が遠ざかった。




