16 五十鈴さんの休日①
休みの日。
病院を退院し、日常生活に慣れてきた五十鈴さん。
「……」
彼女は自室で何をすべきか悩んでいた。
「うーん……」
彼女はもう自由の身。
体力は人並み以下だが五体満足、自由に何処へでも行ける。もう白い病棟に隔離されることはない。
「……」
五十鈴さんはやりたいことノートを開いた。
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11 委員会に入る。
12 勉強会を開く。
13 みんなでテストの見直しをしたい。
14 何かの賞をとる。
15 体力測定は平均以上を目指す。
16 身長は目指せ160以上。
17 運動会で一位になる。
18 マラソン大会で完走する。
19 学園祭の実行委員をやる。
20 学園祭で全ての模擬店を回る。
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過去の自分が書いたやりたいことの数々。
本当に達成できるのだろうか?
彼女は不安に駆られていた。
『一緒にがんばりましょう』
園田くんの言葉を思い出す。
「……!」
五十鈴さんは弱気になっている自分を振り払う。
これはもう自分の欲求を満たすためのノートではない。協力してくれる園田くんと、一緒にノートを書いてくれたアメ先輩の想いがこもっている。
二人の想いを胸に、五十鈴さんは意気込む。
しかし二ページ目は学校行事が主。
休日の五十鈴さんでは達成できない。
「……」
五十鈴さんはやりたいことノートの三ページ目を開いた。
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21 喫茶店でお茶する。
22 お弁当を作る。
23 美容院にお任せで髪を切りたい。
24 献血に行く。
25 ボランティアに参加する。
26 泳げるようになる。
27 縄跳びをマスターする。
28 家庭菜園を作る。
29 学校の風景画を描く。
30 自転車に乗れるようになる。
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若き日の青春は学校行事だけではない。
休日ですら青春の大切な一ページなのだ。
「むむむ……」
どこから手を付けようか悩む五十鈴さん。
やりたいことはただ達成できれば良いというものではない。タイミング、シチュエーション、満足度…それらに悔いを残したら、五十鈴さんは達成の印をつけない。今の五十鈴さんが達成できるやりたいこと、それがどれなのか見極めねばならない。
「……喫茶店でお茶する」
五十鈴さんはやりたいこと21に書かれた内容を指でなぞる。
入院中、何かの番組で観た。
行きつけの喫茶店でコーヒーを注文し、本を読みながらゆったりとした一時を堪能する。そんなかっこいい大人に憧れる子供は珍しくない。
まるで都会女子を憧れる田舎女子…病院女子な五十鈴さん。
「……」
しかし、課題は山積みだ。
一人で飲食店に入るのが怖い。注文の仕方が分からない。何度も行かないと行きつけにならない。読みたい本がない。そもそも苦いコーヒーが苦手。お洒落な服を持っていない。
現時点で達成は不可能と判断。
他のページを捲っても、今の自分が出来そうなものは一つも見当たらない。
「うぅ……」
早くも折れそうになる五十鈴さん。
「……準備」
それでもめげない五十鈴さん。
どんな課題も準備をしなければ達成は困難、今の自分がすべきことは準備することだと決める。
「……」
五十鈴さんはやりたいことノートの二ページ目に戻る。
「体力測定……」
もうすぐ学校で体力測定が行われる。
しかし五十鈴さんは退院したて、体力も運動神経も人並み以下。“15 体力測定は平均以上を目指す”を達成するには体力作りが必要不可欠。他にもハードなやりたいことが控えているので、運動能力はあって損しない。
「筋トレ……」
今の五十鈴さんなら体が動く。
早速、五十鈴さんは行動を始める。
※
「腕立て……」
二回が限界。
「腹筋……」
一回が限界。
「スクワッ……と……」
一回も出来ない。
「はぁ……はぁ……」
体力作りは前途多難であった。
「何してるの?蘭子」
ドタドタと物音が聞こえ、五十鈴お母さんが気になって部屋を覗きに来た。
「体力作り……だけど……」
「あ、それなら良い物があるわよ」
そう言ってお母さんは部屋を後にし、大きな箱を持って戻って来た。
「バランスボール、蘭子のリハビリに良いと思って買ったの」
「バランス……?」
「膨らませた玉に座るだけで、良い運動になるんだって」
「……」
半信半疑な五十鈴さん。
取りあえずボールに空気を入れ膨らませた。
「……」
そのボールの上に五十鈴さんは乗っかる。
「……………………………………いい感じ」
ほどよい運動に、五十鈴さんは満足の様子。
「体力作りはすぐに成果が出ないから、焦らず地道に続けるのがコツよ」
「うん……ありがとう……」
こうして五十鈴さんは休日ですら無駄にせず、やりたいことノート達成に向けて努力を重ねるのだった。




