13 電話
休みの日。
僕は自分の部屋で項垂れていた。
「はぁ…」
どんな理由であれ、僕は五十鈴さんを泣かせた。
周囲からペットだの下僕だの言われていたのが、けっこう堪えてたのかな…?僕は五十鈴さんの友達でいたいという気持ちが思ったより強かったらしい。
僕みたいな一般人が高嶺の花である五十鈴さんと友達になろうなんて、おこがましく思えてしまう。
でも、その自信の無さが五十鈴さんを悲しませた。
五十鈴さんは成長している。
西木野さんの協力で少しずつだけど前向きになっている。高等部に上がる頃には、友達に囲まれ幸せな学校生活を送れるようになってるだろう。
その時、僕は五十鈴さんの隣に居られるだろうか?
「……ないな」
やっぱり平凡な僕じゃ見合わない。
華岡学校には個性的な生徒が山ほどいるし、僕なんかすぐ一般生徒Cくらいに見られるだろう。今は友達として全力でサポートするけど、五十鈴さんに忘れられる覚悟はしといた方がいいな。
………
自分で考えてて悲しくなってきた。
ピピピ
「…」
スマホが鳴ってる。
僕に電話をかけてくるような奴は、幼馴染の葵くらいしかいない。
「はい、もしもし」
『……もしもし』
「…五十鈴さん?」
『はい……』
「………」
『……』
「五十鈴さん!?」
『!?』
五十鈴さんから電話!?
どうして僕に…!
「ど、どうしたんですか!?」
『その……九番目の……やりたいこと……』
「やりたいこと…?」
そうか…確か五十鈴さんのやりたいことノート、九番目に『自分から友達に電話をかける』って書いてあったっけ。スマホで連絡先を交換したから、挑戦可能になっていたんだ。
でもなんで僕?
この前、僕のせいで気まずい感じになったばかりなのに。西木野さんの方が気安く電話できるだろうに。
昨日の件、改めて謝っておこう。
「…その、この前はすみません」
『え……?』
「あの、友達なのかどうかで五十鈴さんを迷わせたことです」
『あ……大丈夫だよ……私と園田くんは友達だから……』
五十鈴さんはもう前のことは気にしていない風だ。なら僕もいつまでもウジウジしないで気分を変えないと。
「えっと、五十鈴さんって休みの日は何をしてるんですか?」
『……まだ家の模様替えに迷ってる』
「退院後の生活は大変ですか?」
『うん……でも自分の部屋があって、快適……』
「それは良かった」
その後も電話での雑談は続いた。
こんなに長く電話で人と話すの、初めてだな。
※
「そういえば五十鈴さん。やりたいことノートの一ページ目って、残るはあと一つですよね」
『うん……学校をサボるの……』
「いつ実施するんです?」
『う……悩ましい』
五十鈴さんは一ページ目、最後のやりたいことで悩んでいる。今までのやりたいことには五十鈴さんの具体的イメージがあったのに、この願いにはイメージがないようだ。
「どうしてサボりたいなんて書いたんですか?」
そもそも根が真面目かつ、学校生活の一日一日を大事にしたい五十鈴さんにしては意外な目標だ。
『その……サボるのも青春の醍醐味だって……一緒に書いてくれた人が……』
「一緒に書いてくれた人?」
『うん……病院の、先輩に……』
あのノート、五十鈴さん一人で書いたわけじゃないんだ。
しかし……サボることの青春って何だろう?
「お兄ちゃーん、漫画貸して~」
突如、僕の部屋の扉が開く。
事故で片足を痛めた妹が、残る片足でぴょんぴょん跳びながら侵入してきた。
「…電話中だぞ、それとノックしろ」
「けが人なんだから許して」
「けが人なんだから松葉杖使って来いよ」
「めんどいんだもん」
そう言って妹は本棚の漫画を物色している。
…そういや妹は少女漫画とかいろいろ持ってたな。青春に関してなら僕よりも詳しいかも。
「なぁ妹」
「なんだい兄ちゃん」
「学校をサボるって青春なのか?」
「どうしたの?藪からスティックに…」
妹は本棚に寄り掛かって考え込む。
「うーん……相手がいればかな」
「相手?」
「友達と学校をサボってお出掛け。二人で悪いことをしている罪悪感と非日常感、そのドキドキを楽しむんだよ」
「ほう…」
友達と一緒に少し悪いことをする、それもまた青春だ。
「相手が異性なら、その恋は進展すること間違いなしだよ」
「え?」
「二人だけの愛の逃避行。親や補導員の目を掻い潜って二人だけの空間を探し求める。そして辿り着いたホテルで…!」
「もういいもういい!」
通話中になってんだから変なこと言うな!
小学生の分際でませたことを…
「ところで誰と電話してんの?葵ちゃん?隼人くん?」
「いいから漫画持って立ち去れ」
「ちぇー相談に乗ってあげたのに」
「気を付けて歩けよ」
「はーい」
妹は漫画を抱え、片足歩きで部屋を後にする。
危なっかしいな…
「すみません、妹が乱入してきて」
今の会話、五十鈴さんに全部聞かれてたかな。
通話切っておけば良かった…
『ううん……それでサボることだけど……』
「はい」
『その……えっと……』
「…?」
『園田くん……次の日……一緒に、学校サボれない……?』




