12 友達とは?
「どうやったら……友達なのかな……」
休み時間。
五十鈴さんが唐突に不思議なことを呟く。
「…どゆこと?」
西木野さんは僕と同じ疑問を口にする。
「あの……私は……西木野さんの友達になれてるのかなって……」
「………あ~なるほどね」
納得したように頷く西木野さん。
僕はよく分からないぞ。
「どういうことです?」
「五十鈴さんは私たちと友達である確証が得たんだよ」
「確証…」
…つまり自分が本当に西木野さんの友達になれているのか、自分が勝手に思い込んでいるだけなんじゃないのか、そのことが不安なのかな?
気持ちは分かる…
僕も似たような不安を抱えてるし。
「いいんだよ、一方的に友達だって思ってれば」
西木野さんがあっさりと答えた。
「そうなの……?」
「五十鈴さんは勝手に私のことを友達だと思えばいいし、私は勝手に五十鈴さんを友達だと思う。そもそも友達なんて契約みたいに口頭で伝えるもんじゃないし」
「なるほど……」
「私たち友達だよね!とか言ってる奴ほど質が悪いから…」
嫌な過去でも思い出したのか、西木野さんは苦笑する。確かに友達であることをいいように利用する輩も珍しくないからな。
「なら……西木野さんは、私の友達……」
「もちろんよ」
「……!」
五十鈴さんは無表情だが、嬉しそうにしているのがわかる。
「お、喜んでる。五十鈴さんを見てると癒されるなぁ…」
もう五十鈴さんを誤解した目で見ていない西木野さんは、五十鈴さんの気持ちがしっかり読み取れているみたいだ。
すると五十鈴さんは鞄から何かを取り出した。
「実は……スマホ、貰った……」
「おお」
五十鈴さんはピカピカのスマホを見せびらかす。
中学生はまだスマホを持つべきではない…世間ではそう囁かれているが、華岡学校はスマホの持ち込みを許可している。しかしスマホゲームはご法度、もし見つかれば罰則が科せられる。
「それで……連絡先……」
どうやら五十鈴さんは連絡先を交換したいようだ。
「いいよ、じゃあ私らで“にゃいん”グループ作ろう」
「にゃいん……?」
西木野さんの言葉に五十鈴さんは首を傾げる。
「誰もが利用するチャットアプリのことだよ」
にゃいん。
それは猫のシルエットが可愛らしく彩られた、大人でも利用する便利な連絡用アプリだ。男子が利用するのはちょっと恥ずかしいデザインだが…
「園田くんもやってんでしょ?」
「一応やってますが…」
「それじゃあ五十鈴さんグループ作ろっか」
西木野さんもスマホを取り出し、グイグイと話を進める。さらっと五十鈴さんと西木野さんの連絡先までゲットすることができた。
やはり西木野さんの協力は頼もしい…
この行動力、見習わないとな。
※
授業終わりの放課後。
僕と五十鈴さんは学校での成果と今後について話し合うため、芸術室で居残りをしていた。
「……」
五十鈴さんはスマホを眺めながら笑顔を浮かべている。
何をしてても五十鈴さんは絵になるな…
「園田くん……」
「は、はい」
五十鈴さんは鞄からノートを取りだす。
それは入院中に五十鈴さんが書いた“元気になったらやりたい100のこと”が記されたノートだ。
「あ、そのノート。持ってきてたんですね」
「うん……見て見て」
五十鈴さんはノートを開いて僕に見せてくる。
――――――――――――――――――――
1 学校に通う。 ×
2 まず友達を作る。 ×
3 輪になって雑談する。 ×
4 友達と一緒に下校する。 ×
5 放課後、友達と寄り道する。 ×
6 お昼ご飯を一緒に食べる。 ×
7 男の子の友達も作る。 ×
8 友達と連絡先を交換する。 ×
9 自分から友達に電話をかける。
10 授業をサボってみたい。
――――――――――――――――――――
おお、こうしてみると順調に達成できてるんだな。
友達と連絡先を交換する。
今日はこれに挑戦してたんだ。まずお互いに友達であることを確認してから、スマホで連絡先を交換する。やりたいこと達成に余念がないな。
「もうすぐ一ページ目がコンプリートできそうですね」
「うん……!」
最初の出だしでどうなるかと思ったが、五十鈴さんの学校生活は良い感じに進んでいる。まだ問題は山積みだけど焦らず少しずつ整えていけばいい。
………
男の子の友達に印がついてる…
もしかして、僕?
いや…西木野さんが初めての友達だから、その後に仲良くなった男子がいたのかも。僕も五十鈴さんの全てを知っているわけではないし…
西木野さんはああ言ってたけど…気になる。
僕は五十鈴さんの友達になれているのだろうか…?
思い切って聞いてみよう。
「男の子の友達って、いつできたんですか?」
「……へ?」
五十鈴さんはきょとんとしていた。
「……園田くん……だよ?」
「…え?」
「……」
「………」
芸術室に気まずい沈黙が流れる。
すると、五十鈴さんがポロポロと涙を零し始めた。
「い、五十鈴さん!?」
「その、ごめん……勝手に……友達だと……」
しまった、質問の仕方が悪かった。
「ち、違うんです!初めての友達が西野木さんだったから、それ以前に会ってた僕はいつ友達になったのかなって…!」
「それは……今まで園田くんと友達なのか、ずっと不安で……西木野さんに言われて、今日……私が勝手に……園田くんを友達だと……」
そういうことか…
失念していた。そもそも五十鈴さんが友達を欲していることは、やりたいことノートの一ページ目を見れば明らかなんだ。
「じゃあお互いに友達ってことですね!僕の勘違いじゃなくて良かったです…!」
「う、うん……」
五十鈴さんは涙をぬぐい、がんばって微笑んでいる。
僕が男を見せて五十鈴さんに友達宣言していれば、五十鈴さんを不安にさせることも悲しませることもなかったのに…僕に自信がないせいで、五十鈴さんを悲しませてしまった。
罪悪感が半端ない…




