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11 みんなでごはん①




 華岡学校には土曜も授業がある。

 午前中だけで授業が終わるので、みんなはお腹を空かせて帰宅することになる。


「……」



 6  お昼ご飯を一緒に食べる。



 午前の授業が終わると、五十鈴さんはやりたいことノートの一文を指さし園田くんにアピールしてきた。どうやらこれに挑戦したいようだ。


「…でもうちは給食ですし、クラスでまとまって食べるので願いは叶ってますよね?」


 華岡学校の中等部は給食制だ。

 お昼になると食券が配られ、これを食堂で渡すと決められた食事が配られる。食堂は広いが中等部が利用していいスペースは決められていて、クラスごとに別れみんなで食事をとる。


 今まで西木野さんを入れて三人で食事をしたこともあった。


「……」


 それなのに、何故か不服そうな五十鈴さん。


「それじゃダメですか?」


「イメージと……違う……」


「イメージ?」


「教室で友達とお弁当を囲ったり……外の店で食事するの……」


「…なるほど」


 園田くんは察した。


(やりたいことは簡潔に書かれているけど、その一つ一つには五十鈴さんの具体的なイメージが秘められているんだ)


 給食は学校側から指示され集団で食事をとる。

 五十鈴さんのイメージはそうではなく、仲の良い友達だけで席を囲み自由に食事をとることだ。病院生活の長い五十鈴さんが憧れに思う気持ちは園田くんでも共感できる。


 それに食堂では多くの生徒に注目されるので、五十鈴さんにとってあまり好ましい環境ではないのだろう。


「それで……今日……午前授業だから……一緒に……」


 不安げに言葉を繋げる五十鈴さん。

 中等部の五十鈴さんがこの願いを叶える方法は二つ。給食の出ないお弁当の日か、午前授業で終わる土曜の今日だ。


「いいですよ」


「……!」


 園田くんが頷くと、五十鈴さんは無表情のまま安堵の息を吐く。


「西木野さんも誘います?」


「あ……私が……誘う……」


 そう言って五十鈴さんは、震える手で前の席に座る西木野さんの背中を指で突っついた。

 西木野さんはポニーテールを揺らして振り返る。


「ん?五十鈴さんどうしたの?」


「西木野さん……このあとお昼ごはん……いっしょ」


「いいよ」


「!」


 食い気味で即答。


(流石です、西木野さん)


 しかし女子二人に男子一人で心もとなく思う園田くん。


「城井くんも誘っていいですかね?」


「……」


 園田くんの提案に五十鈴さんは頷く。


「…ということだよ城井くん」


「行くしかない」


 話の前置きもなく前の席の城井くんに声をかけたら、すぐ返事が返ってきた。園田くんの予想通り話は盗み聞きしていたようだ。


「なに食べるか決まってる?」


「決まってないよ」


「なら…噂の店に行ってみたい」


「噂?」


「華岡の敷地内にある店。学生なら300円で定食が食べられるらしい」


「やすっ!」


 破格の安さに園田くんは驚く。


「定食屋“まんかい亭”。ここの目玉である学生限定お肉おまかせ定食は、亭主が客を見て作る料理を決めるとか。値段もお手頃でボリューム満点、確実に学生を満足させてくれる」


 城井くんがお店の情報を詳細に教えてくれる。

 噂を集める城井くんは、さながら華岡学校の情報屋だ。


「たまには良い情報も教えてくれるじゃん。それだけ安いなら私も助かるな」


「……!」


 西野木さんと五十鈴さんも異論はないようだ。


「それじゃあ行きますか」


 こうして四人は噂の定食屋“まんかい亭”に向かうことになった。





 まんかい亭。

 外観も内装も特に変哲のない普通の定食屋だ。店内には授業を終えた高等部の華岡学生や、この店の良さを知る一般客が適度に席を埋めている。視線を遮る壁も適度に立てられているので五十鈴さんも安心だ。


 そんな店内に園田くん一行が入店した。


 五十鈴さんの入店に店内が少しザワつく。

 庶民が利用する定食屋に似つかわしくない、絵に描いたようなお嬢様の五十鈴さん。周囲から注目と好奇の視線が注がれるのは当然だった。


「いらっしゃいませ~」


 四人が席に着くと、すぐさま店員が水とおしぼりを持って注文を窺いに来る。


「ご注文はお決まりですか?」


「学生限定お肉おまかせ定食を四つで」


 西木野さんが代表して料理を注文した。

 この学生限定の定食を注文するには、店員に生徒手帳を見せなければならない。四人は鞄から生徒手帳を取り出し、店員に見せる。


「少々お待ちください!」


 店員は笑顔で注文を承ると、キッチンに引っ込み亭主に注文を伝える。


(ふん…また華岡の学生か)


 どんな学生でも満足させることができる亭主。

 客を見て作る料理を決める、その亭主の目利きに狂いなし。しかし相手が初めての客であるのなら、まず分析から始まる。


(新顔だが…学生の腹と舌を満足させるなんてどうってことはない)


 亭主はまず城井くんを分析する。


(うんちくが好きそうな小男だな。ボリュームより隠し味を利かせた料理を求めているだろう。この特性スパイスを効かせた唐揚げをくわせてやる)


 次に西木野さん。


(人の世話が好きそうな少女……しかし栄養バランスが疎かになっているな。活発な女子には健康バランスを整え疲労を回復させる豚肉の生姜焼きでいくか)


 そして園田くん。


(平凡な男だな、王道のステーキ定食なら満足するだろ)


 亭主は一目で客に適合する肉料理をチョイスする。

 その正確さは100%。どんな学生だろうとも、その腹を満たし健やかな学生生活が送れるように栄養バランスを整えてくれる。




 最後に金髪碧眼の美少女、五十鈴さんを見た。




「………」


(……)


「………」


(……)




(…わかんねえ)




 亭主は未知の学生を目の当たりにし、初めて食材選びの手を止めた。


(何食ったらあんなに綺麗な顔立ちになるんだ……高級料理?病院栄養食?どっちにしても、どんな肉を食わせてもダメな気がしてくる…!)


 亭主は初めて苦悩した。

 それだけ五十鈴さんは異質、普通とはかけ離れた存在だったからだ。


(いや、肉は万人に通じる。あるはずだ…あの可憐な少女に適合する肉料理が…!)


 ………


 ……


 …


「お待たせしました。学生限定お肉おまかせ定食になります」


 園田くん一行の席に料理が並ばれた。

 300円とは思えないボリュームに、四人は思わずため息を漏らす。


「僕がステーキ定食、城井くんが唐揚げ定食、西木野さんが生姜焼き定食、………五十鈴さんのそれは、ビーフシチュー定食?」


 五十鈴さんの前には熱々のビーフシチューが運ばれた。


「お肉……柔らかそう……」


 牛肉は即席とは思えないほど煮込まれており、スプーンで簡単に切れる柔らかさだ。色とりどりの野菜がシチューから顔を覗かせ、見栄えも栄養バランスもバッチリに見える。


「さて、これらが僕らに適合しているのか……お手並み拝見だね」


 城井くんの合図でみんなは箸(五十鈴さんはスプーン)を取り、手を合わせた。


「いただきます」





「ありがとうございましたー」


 店員さんに見送られ、園田くん一行は店を出る。


「いや~……良かったね」

「味も美味しいし、量も丁度良かったね~」

「噂以上…これで300円は破格」


 園田くん、西木野さん、城井くんは大満足の様子だ。


「…五十鈴さんどうでした?」


 無表情で感情を読み取れない五十鈴さんに、園田くんが感想を聞く。


「……すごく……美味しかった」


 五十鈴さんはしみじみと感想を述べる。

 今まで病院食が主食だった五十鈴さんにとって、初めての外食、初めての料理だ。好き嫌いもない五十鈴さんなので、大概のものは美味しく頂ける。


 言ってしまえば五十鈴さんは、亭主にとってどんな料理でも満足する難易度の低い相手だったのだ。





「………」


「どうしたんです?亭主」


「………俺もまだまだ未熟者だったようだ」


「え?」


「見たかよ……料理を食い終わったお嬢ちゃんの冷めた表情…」


「…誰の話です?」


「次だ………次こそはあのお嬢を満足させてやる…!」

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