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102 初めての銀世界




 季節はすっかり冬に変わった。

 冬になると華岡学校の周辺では必ず雪が降る。この地域の降雪量はそこまで多くないから、交通機関に影響が出ないかつ雪で遊ぶには十分な量の雪が積もる。


 そして今日が初雪の日となった。

 外はすっかり銀世界に変わっている。


「おはようございます、五十鈴さん」


「おはよう……」


 登校中、五十鈴さんと遭遇した。

 そのまま肩を並べて学校へと向かう。


「雪、降りましたね」


「うん……嬉しい」


 五十鈴さんは踏みしめる雪の感触を楽しんでいる。

 ずっと入院生活だった五十鈴さんにとって初めて外で体験する冬と雪。今にでも雪の中に飛び込んでしまいそうなほど興奮していた。


「……」


「う…」


 その時、冷たい風が吹く。


「でも……寒い」


「そうですね…風邪を引かないように気を付けましょう」


「うん、大丈夫……」


 といっても、五十鈴さんはこれまで風邪を引いたことがない。引いたのは入学初日の緊張感による発熱くらいだ。


 退院してからの五十鈴さんは体力的の遅れがあっても元気そのものだ。それに体育祭を経て体力も人並み以上に成長したし、もう病弱少女とは呼べない。


「五十鈴さんはどんな雪遊びがしたいですか?」


「かまくら、作りたい……!」


 かまくらか…定番だな。

 これだけ降れば雪は十分、場所なら華岡学校の無駄に広い敷地がある。


「じゃあ休みの日にでも、美術部の活動として作りましょうか」


 かまくらだって一つの美術品だ。なんて言ったっけ…雪まつりで作られる雪像だっけ?美術部らしい活動だと思う。


「うん……!」


 五十鈴さん、今日は調子いいみたいだ。

 少し前までは進級に対して暗くなってたけど、今は悔いを残さないよう努力している。これが雪の影響なのか、それとは別で前向きになれるきっかけでもあったのかな?





 僕と五十鈴さんは教室に到着した。

 因みに朝礼まで一時間以上前に登校している。今日はみんなで教室の掃除をしようと約束しているからだ。


「おはよ~」


 教室にはまだ西木野さんしかいなかった。


「おはようございます」


「おはよう……」


 僕と五十鈴さんは挨拶を返し、すぐ温かいストーブの側に寄る。


「ああ…あったかい」


「ほ……」


 真冬の教室に設置された灯油ストーブ…この暖かさには抗えない。新校舎の高等部にはエアコンがついているらしいけど、僕は灯油ストーブ派だ。


「五十鈴さん、寒いのは苦手?」


「ううん……暑いより、好き」


「へぇ、雪国育ちの遺伝かね」


 二人が雑談を始める。

 西木野さんは五十鈴さんがノルウェーのハーフだって知ってたんだ…友達同士ならそれくらい雑談で話してるか。


「そうだ、五十鈴さん。今度みんなで例のノートについて話し合おうよ」


 そう思っていたら、西木野さんから意外な言葉が。


 ノートってまさか…


 いや、でも五十鈴さんはやりたいことノートの存在を秘密にしていたはずだ。もしノートのことを話せば、必然的にノートを書くに到った入院生活についても話さないといけないから。


「ノートって何の話です?」


 僕は知らないふりをして西木野さんに尋ねてみる。


「なんだ、園田は知らないの?いや…そんなはずないよな」


 西木野さんはにやりと笑う。


「病室に閉じ込められていた五十鈴さんの夢が詰まったやりたいことノート、みんなで応援しようじゃない」


「…」


 五十鈴さんは話せたんだ。

 自分の過去を、僕以外の友達にも。

 それはとても勇気のいることだったと思う。


「頼もしい味方ができましたね、五十鈴さん」


「うん……」


 無表情の五十鈴さんから嬉しそうな気持が伝わってくる。

 本当に成長したんだな…


「園田はいつからノートのこと五十鈴さんから聞いたの?もしかして入院中の時?」


 そこで西木野さんは僕と五十鈴さんの出会いについて探ってくる。


「えっとですね…」


「秘密!」


 僕が答えようとしたら、五十鈴さんが速攻で話を切り上げた。こんな勢いのある五十鈴さんも珍しい。


「おっと、少し踏み込みすぎたね。ごめんごめん」


 こうなるとあっさり引き下がってくれるのが、西木野さんのいいところ。


 でも…なんで五十鈴さんは僕と出会った経緯を秘密にしたがるんだろう。聞かれて恥ずかしい話でもないのに。


「……」


 最初の頃の五十鈴さんはすごく純粋で、大体の気持ちを察することが出来た。でもここ最近、何を考えているのか分からない部分が増えた気がする。

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