99 五十鈴さんの一年
学園祭が終わり、数日が経つ。
あれから僕らのクラスの雰囲気はかなり変わった。
「五十鈴さん、おはよ~」
五十鈴さんが教室に入ると、クラスのみんなが挨拶をする。
「……」
五十鈴さんは律儀に一人一人へ頭を下げて挨拶を返している。
クラスのみんなは前まで五十鈴さんに声をかけることを躊躇っていた。五十鈴さんの近づきがたいオーラや、怖いお嬢様という噂がみんなを怖気づかせていたんだ。
その誤解は学校中で広まっているけど、クラス内では解けつつある。
「いい感じで馴染んでるじゃん、五十鈴さん」
自分の席から五十鈴さんを見守っていると、前の席の西木野さんが振り向く。
「はい、五十鈴さんの誤解が解けてよかったですよ」
「誤解か…私も初めて五十鈴さんを見た時、高圧的なお嬢様だと思い込んでたな。園田が弱みを握られてんじゃないかって恥ずかしい勘違いしてた」
「僕と五十鈴さんの組み合わせを傍から見れば、主従関係に思われても仕方ないですよ」
最初は誰だって勘違いしてしまう。
でも五十鈴さんが成長したことで、西木野さんやクラスのみんなの見る目も変わった。
「……」
五十鈴さんはクラスメイトとの挨拶を終えて、ようやく自分の席に着いた。
「おはよう五十鈴さん」
「おはようございます」
僕と西木野さんが挨拶で迎える。
「おはよう……」
五十鈴さんは挨拶を返してくれた。
確かに五十鈴さんは成長したけど、まだ親しい相手にしか声を出せない。だからクラス内でも日本語を話せないという誤解が解けていない。
でも、それでいい。
どんな形であれクラスが一つになったんだから。
※
放課後。
僕らは教室の掃除をしていた。
教室が少し汚れていると、掃除をしたくなるのが五十鈴さんグループの癖になっていた。こうして教室の掃除をしていると、まだ友達がいなかった頃の五十鈴さんを思い出す。
「何はともあれ、進級する前にクラスが一つになれて良かったな」
箒を掃きながら西木野さんが今までの学校生活を振り返る。
「学園祭も大成功だったし、学級委員長として悔いはないよ」
「……!」
それを聞いて五十鈴さんは塵取りを構えながら顔を上げる。
確かやりたいことノートに書いてある“委員会に入る。”はまだチェックを入れていないはずだ。副学級委員として悔いのない働きをして、初めて達成の印を入れることが出来ると五十鈴さんは言っていた。
…今日家に帰ったらチェックを入れるかもな。
「いろいろあったけど、楽しかったよね」
「うん…まさか影の薄い私がこんな楽しい学校生活を送れるなんて…」
「五十鈴さんと同じクラスになれて良かったね~」
一緒に掃除をする星野さん、木蔭さん、朝香さんもしみじみと感想を述べる。
一年生の残る学校生活もあと僅か。五十鈴さんの初めの一年は、かなり良い結果になったんじゃないかな。
「でもこの学校、クラス替えがあるんだよね…」
窓を拭きながら木蔭さんは寂し気に空を見上げる。
「そういえばそうだったね…せっかく居心地のいいクラスになったのに、なんでバラバラにするんだろう」
星野さんは雑巾を振り回しながら、クラス替えのシステムに悪態をつく。
「新しい環境の中でもすぐ適応できるよう、そういう適応力を鍛える行事でもあるからねー」
西木野さんから大人らしい意見を貰う。
そう聞くとクラス替えは必要な行事かもしれないけど……それは一般生徒に限った話だ。
「……」
五十鈴さんは確かに成長したけど、まだ一人で学校生活を送れるほど強くなってない。もし新しいクラスで僕や西木野さんがいなかったら…そう考えると期待よりも不安の方が大きいだろう。
僕にとってもクラス替えは好ましくないイベントだ。
「そんな深刻に考えなくてもいいじゃない。この中の誰かしらと同じクラスになれるかもだし、新しい友達が増えるチャンスだと思えばいいのよ」
不安がるみんなを見て西木野さんは微笑みかける。
「そうそう、なんとかなるよ~」
そう言いながら朝香さんは綺麗になった教室に花の香りを振りまいていた。
「こら、希。学校で香水使ったらダメでしょ」
「香水じゃないよ、消臭だよ」
「屁理屈こねてもダメなものはダメ」
「え~」
西木野さんと朝香さんの微笑ましいやり取りを見て、暗い空気が少し和んだ。
「……」
五十鈴さんはまだ不安げだ。
二年生になったら、こうして五十鈴さんグループで集まることも難しくなる。進級する前に五十鈴さんは心の準備が出来るだろうか。
11 委員会に入る。×




