98 猫耳メイド五十鈴さん
僕と五十鈴さんは芸術室で紅茶を飲みながら、しばらくやりたいことノートについて話し合った。
そこで僕はあることを思い出す。
「…そういえば、メイド服は着なかったんですね」
この芸術室に隠されていたメイド服。五十鈴さんはこの学園祭でそれを着ようか悩んでいたけど、結局着なかった。
「あ、うん……自分だけメイドになるの、やっぱり恥ずかしくて……」
「ですよね…」
いくらお祭りでも、自分一人だけ違う格好になるのはかなり勇気がいる。あの猫耳だってみんなで付けていたからこそ恥ずかしさが紛れたんだ。
でも猫耳メイドの五十鈴さん…見てみたかったな。
「今……着てみていい?」
五十鈴さんはそう言ってメイド服の入った箱を机の上に置いた。
「…はい?」
「園田くんに……似合うかどうか見てもらいたい」
「………」
似合わないわけがない。
そう言いそうになったけど、ぐっとこらえた。このチャンスを逃す手はない。
「い、いいですよ。じゃあ五十鈴さんが着替え終わるまで僕は廊下に出てますね」
「うん……」
※
僕は五十鈴さんが着替えるのを待ちながら、廊下で山になっている学園祭の道具を軽く整理している。
…緊張する。
まさか五十鈴さんのメイド姿が見られるとは。まだ学園祭は終わっていない、むしろ僕にとって今が学園祭の本番だ。
「着たよー……」
芸術室の中から僕を呼ぶ五十鈴さんの声。
僕は深呼吸をして、芸術室に踏み込んだ。
「…」
そこには、猫耳メイドの五十鈴さんが降臨していた。
お嬢様な風貌の五十鈴さんに仕事着であるメイド服…対照的な二つの要素が合わさった結果、生まれたのはまったく新しい魅力のメイドさんだった。
可愛い?美しい?
そんな言葉では足りない。でも僕はこの魅力を形容する言葉を持っていない。
「すごく似合ってますよ」
この言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。
「……」
五十鈴さんはホッとしている。
それにしてもすごいな、メイド五十鈴さん。学園祭で多くの人に披露できないのが勿体ないと思うくらい…
あ、そうだ。
「五十鈴さん、写真一枚いいですか?」
僕は総務委員から預かっているカメラを取り出す。
カメラは明日総務委員に返却してから、中のUSBデータを現像して写真にする予定だ。だから最後にとっておきの一枚を残しておきたい。
「……うん、いいよ」
五十鈴さんは少し迷ったけど、ぎこちないポーズで目線をくれた。
笑顔で…は無理か。
「じゃあ撮りますよー」
※
後日、僕らが撮影した写真は多目的室に展示された。他の撮影係が撮った写真を合わせると、全部で300枚くらいになる。
「…え、何この写真!?」
「五十鈴さんってメイド服なんて着てたっけ?」
「マジかよ…直接見たかったぜ」
中でも多くの生徒の注目を集めた写真は当然、五十鈴さんの猫耳メイド姿だった。この写真の存在は瞬く間に全校生徒に広まり、展示期間は写真を見に行くことが全校生徒の日課となっていた。




