97 やりたいことノートの難点
学園祭が終わった次の日。
その日は丸一日学園祭の後片付けに費やされる。
どの模擬店も力を入れ過ぎているから、元の学校に戻すのも一苦労だ。中にはトラックや解体業者に依頼をしなければ片付かない所まである。
僕らの猫カフェはすぐ片付けが済むから、午前中で解散となった。
「それで、二人きりの学園祭は楽しめた?」
ホームルームを終えると、前の席の西木野さんが振り返る。
薄々感づいていたけど…昨日の件は西木野さんの計画だったのだろう。僕と五十鈴さんの予定を空けさせて、二人きりになるよう総務委員の立場を利用したんだ。
…後でお礼を言っておこう。
「すごく楽しかった……」
五十鈴さんは嬉しそうに答える。
楽しい思い出を作れてよかったけど…こそばゆい。
「うーん…フラグの気配はなしか」
何故か残念そうな西木野さん。
「あ、そうだ。総務委員の先輩から学園祭が終わる風景の写真を何枚か撮っとけって言われたから、お昼ごはん食べたら三人で回ろう」
「了解です」
「うん……!」
それが僕ら総務委員の最後の仕事だ、張り切って行こう。
※
僕ら三人は昼食をまんかい亭で済ませてから、日が暮れるまで校内を歩き回った。終わりゆく学園祭の風景はどこか哀愁があって、いい写真が何枚も撮れた。
今は夕暮れの放課後。
西木野さんとは別れ、僕と五十鈴さんは芸術室に足を運んでいた。
「…杉咲先生」
「はい…」
そして今、僕は杉咲先生にお説教をしている。
「どうするんですか、こんなに物を増やして」
芸術室の前には学園祭に使われたであろう道具が山になっていた。僕らが行った美術品展示エリアは杉咲先生が仕切っていたようで、生徒が処分に困っている作品たちを全て引き取ったのだろう。
「捨てるのが勿体なくて…ごめんなさい」
杉咲先生は申し訳なさそうだ。
本当に物を捨てられない人だな…この人の自宅がどうなってるのか見てみたい。
「これ以上物を増やさないでくださいよ。もう芸術室に物は入りませんよ」
「…取りあえず廊下に置いといていいから」
「それって他の先生に怒られないんですか?」
「これから怒られに行ってきます…」
「…」
「すぐ職員室に行かないといけないから、鍵は渡しておくね。それじゃあ後はよろしく」
杉咲先生は鍵を五十鈴さんに預けてこの場を後にした。
「…取りあえず中に入りましょうか」
「うん……」
僕らは道具の山をかき分け、芸術室の扉の鍵を開けた。
中は僕と五十鈴さんが半年近く整理整頓したおかげで、ぎりぎり美術部の部室と呼べるくらいの空間になっている。廊下に置いてある道具を室内に入れたら、また倉庫に戻りそうだけど。
「五十鈴さん、何か飲みます?」
取りあえずコーヒーメーカーで温かい飲み物を用意しよう。
「じゃあ……紅茶」
「了解です」
僕も紅茶にしよう。
紙コップに温かい紅茶を入れ、夕日が差す窓際の席に着く。
「えっと…では改めて、学園祭お疲れさまでした」
「うん……おつかれさま」
僕と五十鈴さんはコップを軽くぶつけて乾杯した。
これで学園祭は本当に終わりだ。
「それで五十鈴さん、学園祭の成果はどうでした?」
五十鈴さんは今回の学園祭をやりたいことノート達成の準備に使うと決めていた。初めての学園祭を体験してみてどうだったかな。
「学園祭の歩き方……少し掴めた気がする。二年生になったら全ての模擬店を回りたい……!」
20 学園祭で全ての模擬店を回る。
それがやりたいことノートに書かれた目標の一つだ。
来年の学園祭ではこれに挑戦するつもりのようだけど…僕は今回の学園祭を体験して、不安な要素を見つけてしまった。
「そのことで思ったのですが、あの学園祭を五日で回りきるのは難しくないですか?」
「う……それは私もちょっと思った……」
五十鈴さんは紅茶の入ったコップを覗く。
この学園祭を体験して思ったこと…それはたった五日間で全ての出し物を堪能するのは無理だということだ。木蔭さんがやってた探偵からの挑戦状に挑むだけでも五日は費やしてしまいそうだ。
「急ぎ足で回っても、それが楽しい学園祭になるとは限りません。少し達成基準を緩和したほうがいいですよ」
この“元気になったらやりたい100のこと”は病室に閉じ込められていた頃の五十鈴さんが書いたものだから、内容が漠然としていたり達成基準が曖昧なものが含まれている。一緒に考えたアメ先輩もかなり大雑把な性格だったんだろうな。
融通を利かせないと、ノートに縛られる窮屈な学校生活になりかねない。
「……ちょっと、考え直してみる」
五十鈴さんはやりたいことノートを取り出し、難しい顔でページを捲っている。
こういう時、西木野さんや星野さんなら上手い解決法を提案してくれるのかな…




