表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女が現実逃避しすぎて異世界の神になった  作者: 青我
Another World――第三章――
42/54

――異世界書紀―― 第三章 第七節 表舞台の魔女と悪霊②


 流石、レベル150は伊達じゃない……。

 壁を切り裂き、飛び込みながら処刑人を足蹴にして吹っ飛ばすとは。

 カリンもあまりの規格外の動きに目を点にして口を開けたまま固まっていた。


 処刑人が蹴り飛ばされ、炎の魔女はその巨体をもろに食らうこととなった――。


「でかしたぞシロナ! カリンを連れて脱出しよう!」

「はい! ……トウカ様はどちらに?」

「世話になった子を連れていく!」


 自我を殺されたアイシャの体をそのままにしておくわけにはいかない……。

 俺のせいで巻き込んでしまった上の罪悪感からの行動だった。

 アイシャの元まで駆け寄り、アイシャを背負いながらシロナの元まで走った。

 その時――処刑人が起き上がり、掴んだ鎖を俺めがけて叩きつけてきた――。

 アイシャを背負っていた俺は、その攻撃に反応が遅れてしまっていた。


「しまっ――」


 金属が叩きつけられる音――。

 俺に痛みはない……。それはつまり――。


 目の前には、体で鎖を受けているカリンの姿があった――。


「カリン!?」

「こ……これで借りは返した……からね……ゴフッ……」


 内臓を痛めたのか、口から血を噴き出している。

 遅れてシロナが駆け付け、カリンを背負った。


「し……シロちゃん……何してるのよ……あなたの仇が……死にそうなのよ……ここに捨てていったら……どうなの?」


 カリンの言葉に表情を硬くさせながら、シロナは答えることなく走り出した。

 俺もアイシャを背負ってシロナの後をついていった。

 道中、シロナの表情は少し曇っていた。複雑な心境なのだろうか、それとも、違う感情だろうか――表情を伺っていると、すぐにその答えが知れた。


「バカ――。友達を見捨てるなんて……できるわけないでしょ」



 *。now load...in..g...。*



 街の外の目立たないところに出したブリックハウスに戻り、俺たちは夜になるのを待った。


「シロナ……すまない。助かったよ」

「いえ。トウカ様たちがどこにいるのかとぼんやり考えていたら、何故かトウカ様が監獄にいることがわかりまして。何か調査をしていらっしゃるとは思ったのですが居ても立ってもいられず」

「そ、そうか……同行者(パーティ)だから、どこにいるかは思念で伝わるんだったな。見張りに止められなかったのか?」

「これでも落陽の巫女姫ですので、素通りでした」


 なるほど……そういえばあそこの姫様だったんだっけ……これは人選をミスったな。初めからシロナを連れて行けば堂々と入れたわけか……。


 カリンは致命傷だったが、生成した薬が効いてすぐに回復したものの、精神的な疲労までは癒せずベッドで横になっている。自我を失ったアイシャの肉体も空いているベッドに寝かせたままだ……。


「トウカ様……今回の件は、いったいどうなっているのですか?」

「あぁ、なんとなくだがわかったよ。やっぱり、俺の仮説が正しいかもしれない。とりあえず、それは夜にもう一度城に行ってから確かめよう。それに、あの魔女は放っておけない――」


 ベッドで横たわっていたカリンの目がすっと開き、その視線がこちらへと向けられていた。


「あら……じゃあ、あたしもただでは済まないかしら?」


 俺とシロナは静かにカリンを見た。


「お前は……一体何者なんだ?」

「……あたし? あたしはね……この世界の闇よ」

「……そんな哲学的な答えを聞きたいわけじゃないんだけどな」

「哲学? あなたにはそうかもしれないけど、あたしにとっては全てよ」

「なるほど……まぁ、お前のその闇とやらも、あと数時間で原因がわかるんだろ?」

「さぁねー。ま、あたしはもう目的を達したから、あとはあなたたちでがんばって」

「え!? 幽霊、成仏させたのですか?」

「まさか、監獄にいたあの青年がお前の本当の狙いか?」

「正解ー。まさか本人が生きているとは思わなかったけど……結果オーライってやつよね。じゃあ、あたしはもうひと眠りするから」


 カリンは俺たちに背を向けるように寝返りをうった。

 俺とシロナはお互いに視線を合わせ、静かにブリックハウスを出た。



 @;o*..loa+%....



 夜――。

 きっと、この街の全容が明らかになるに違いない。


 俺とシロナは、再び街へと入った。いや、正確には忍び込んだ、という方が合っているだろう。街を囲む門は閉ざされ、市場街は静寂に包まれていた。

 いや――静寂とはかけ離れすぎていた。

 昼間見ていたビギナポストの街並みからは想像がつかないほど荒れ果てていた。


 外壁の上から眺めるビギナポストは、まるで――。


「まるで、墓場みたいです……」

「あぁ、そうだな。これが俺が考えていた答えで間違いないが――想像以上だ」


 アナザーワールドというゲームで作り出した「ビギナポスト」という街。しかし、何かの歪によっておそらくパラレルワールド――としか説明できない――の「ビギナポスト」に上書きされるように、ゲームの街並みが覆いかぶさっている状態なのだろう。

 昼間はゲームでの街並みが、夜には本来のビギナポストの入り口が現れる。


 あの幽霊の現象は、ビギナポストのクエストに違いない。

 このユカリが作った世界では、NPCの自我にトリガーが埋め込まれている。旅人やプレイヤーが接触することによって自動的にそのトリガーが起動される。NPCたちは、自分たちに与えられた役割を使命と受け取って生活しているため、なにも違和感なくそれぞれの役割を果たしている。


 今回の騒動では、悲劇の対象となったヴァジアとチャダルヌーク家。その人間たちは、ゲームサイドのNPCたちに違いない。監獄でヴァジアが息絶えたのは、ゲームのクエストに従ってその運命を迎えたからだろう。


 幽霊騒動になったのは、クエストに時間制限があったからだ。トリガーが発動し、ある一定の時刻を過ぎたところでタイムリミットを迎える。それが、昨日の夕方見たあの三番街を引きずられていく姿だ。ところが、この街は夜になると世界が切り替わる。ゲームサイドが夜の演出に変わるのと同時に、パラレルワールドサイドの世界へと切り替わるため、クエストは強制中断となっていたということになる。


「でも、私たちが過ごしていた夜の街は……?」

「あれは、そのままパネルをひっくり返した世界にいたからだ。昼間のビギナポストごと、俺たちは夜へとひっくり返る。昼間から過ごしていた俺達には影響はない。だが、夜だけ本来のビギナポストが入口を開ける。つまり、今この街に来た俺たちは……」

「本当のビギナポストを見ている、ということですね」

「そういうことだな……」


 幽霊騒動が起こっても、何も不思議ではない。

 この街は既に死んでいたのだから――。


 街を歩けば、そこは死体だらけだった。

 一体なぜ彼らが死んでしまったのかは検討がつかないが、飢えるくらいなら外界へと繰り出していたはず。しかし、それをしないままということは、この場所が外界から隔絶してしまっているということだ。

 ゲームサイドの理が彼らにも適用されてしまったならば、自由意思で外に出ることが叶わないまま、彼らはきっと市場を続けていたのかもしれない……。

 時折、暗黒の瘴気に充てられて、死体が動き出しているのを見た。

 ここにいる人々は、死して生きるアンデッドへと姿を変えていた。

 亡者は正者を憎むとはよく言うが、ゲーム性に従って生きている者を襲うようになった元人間のモンスターである。幸い足が遅いので、俺とシロナは表情を強張らせながら素通りしていった。


 いや、うん。やっぱりゾンビとかスケルトンって怖い。


 暗い気持ちになった。俺たちが作った世界が、元々あった世界を殺したようなものだ。腐敗した彼らはもう蘇ることはない。蘇らせることさえできないだろう。

 神様とは、かくも無能な存在なのだろうか――。


 俺は頭を振った。とにかく、この世界に起きてしまったことは確認が取れた。これがバグを引き起こしているのであれば、引っ掛かりである何かを取り除くしかない。そうして、元の歯車に戻していく。俺にできるのは、そんなことくらいだ。


 城を前にして、俺とシロナはあまりの不気味さに息をのんだ。

 明かりも何もない、ただの石で積まれただけの巨大な建物を前にして、そこに蠢く妙な存在の気配を感じたからだ。


「トウカ様……」

「ま、まぁ、こっちにはレベル150の剣士がいるんだからな。大丈夫だろう」


 俺とシロナは、その不気味な城へと足を踏み入れた。

 もう一度、地下監獄を目指して――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ