――異世界書紀―― 第三章 第一節 テイミング
[*Topicks*]〈シロナ・ソーサレス・ユーカリア〉
落陽の巫女姫。この都で魔法を使えるものがおらず、巫女となった姫は思い悩んでいた。いつか魔法を使える日が来ることを夢見て祈りを捧げ続けてきたが、遂に叶うことはなかった。
魔法が使えず、神殿に助けを求める怪我人や病人に励ます言葉しかかけられない自身にコンプレックスがあったが、トウカの言葉に救われた。
[職業]駆け出し剣士→剣聖
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落日の都 落陽 城門広場
「神の像の祭壇で幻覚を見た?」
歩きながら、不思議な体験をしたと言うシロナの話を聞いたのだが、その内容に俺は驚いていた。
なぜなら、俺がこの世界に来る前に見ていた夢の内容と一緒だったのだから。
「(シロナが見た幻覚って……まさかユカリの記憶のカケラ、とかじゃないよな……ゲームやアニメじゃあるまいし……って、ここゲームの世界だった)」
まさか、ユカリが昏睡に陥った原因って……?
意識がこの世界にバラバラになったからなのか?
今の状況だと情報が少なすぎるし、確実なことがわかるまでは考えるのをやめよう。まずは、ここから何をするか、だな。
そんなことを考えながらぼんやり歩いていた――。
ふと、俺の足に何かプルプルした物にぶつかった感触がした。
「あ、痛っ――」
途端、俺の意識は途絶えた――。
「トウカ様ーーー!?」
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それから3日後――。
「トウカ様ぁぁぁ!! いきなりお亡くなりになるなんて酷いですよ! まだ街の外にすら出られてないんですよ!!」
どうやら俺は、何者かにやられてしまったらしい……。
まぁ、一応管理代行兼プレイヤーでもあるので、一定時間が過ぎれば自動的に復活するのだが、まさか3日もかかるとは。
神の像の祭壇で復活したので、俺たちは感傷的に出発した落陽の街を再び歩く羽目になった。
それにしても、俺を一瞬で倒せるやつって一体……?
「トウカ様が倒されたと言うより……トウカ様からぶつかってお亡くなりに……」
「……い、いや、ほら! それこそ脅威じゃないか! 歩いて足をぶつけただけで絶命するなんて話聞いたことある?」
「あー……でも、家の中を裸足で歩いていて、柱に足の小指を打ったときは……絶命しそうになりましたよ」
「(それって、この世界でもあるあるなのか……?)」
「あ、トウカ様! あの子です!」
「あの子?」
シロナが指を指す方向にいる、あの子とは……。
「あ! あいつ!!」
「あの子にぶつかったんですよ! 確か……ジューンがテンテンって言っていましたが、剣も槍も通じなかったみたいなのです。ご存知なんですか?」
「そりゃそうだよ……あいつはユカリが作った極悪モンスターだからな」
俺はその体をプルプルさせながらずーっと城壁に向かって体当たりを続けている寒天に向かって走って近づいた。
「(ユカリ……?)」
シロナも後を追うように走って来ると、そのプルンと壁にぶつかり続けている寒天に失笑しながら、「もう何年もこうやっているんですよ」と言った。
「俺はこいつに一回やられたことがあるんだが……あの時違うところに飛ばすって言ってたけど――ここに来ていたのか……」
おそらく、この寒天は自分が元いたマップに自力で戻ろうと、一直線に最短距離を目指している結果壁があることさえ気づかずにずーっとこうしていたのだろう。
哀れなり……テンテン。
しかし、恐ろしく頭の悪いAIだな……。
「シロナ、ちょっと出発前に寄り道だけどいいかな? 俺どうしてもこいつを倒したいんだよ」
「ま、まぁ……もう3日も経っていますし私は構いませんけど……」
「うっ……意外とチクチク刺さることを言うね、シロナさん」
「た、倒せるのですか?」
「うーん……確かに。以前はかなりステータスが高い姿で最高威力の武器を全力で叩きつけても無理だったからなぁ。その時も一撃でやられたし」
「だとしたら、それほどの力と体力を持っているのだと思いますけど、なぜこの城壁は壊されないのでしょうか?」
「あー、それは一部の固定出現モンスターが障害物を破壊できないように設定されて――」
ん……?
待てよ――。
ということは、こいつは配置された創造物を通過できないわけだから……。
「ナイスだ、シロナ」
「え?」
「もしかしたら、こいつを倒せるかもしれない」
物は試しだ……!
俺は管理代行権限を開いた。
「――“地表に干渉する配置物、針付き床”」
テンテンの足元に無数の針が飛び出ている床を設置した。
念のため、テンテンの周りには光の壁を配置してあるため、こちらに狙いが向いても平気だろう。
さてと、効果は……?
「トウカ様! なんだか苦しそうな顔をしていますよ! 効いているんじゃないですか!」
「よっしゃあ!! ダメージ床ならどれだけ防御力があっても必ずダメージを受ける仕掛けだからな! まさかこんなアナログな戦法が有効とは! あ、シロナも忘れずにあの寒天を叩くの忘れずにな!」
「叩く……? あ、ちょっと……トウカ様!? なんで叩く必要があるんですか?」
俺は光の壁の隙間から寒天をペシペシと叩いた。
ダメージが入らないにせよ、このモンスターと戦闘行為を行った事実を作ることが大事だから。
つまり、大事なのは経験値!
これだけぶっ飛んだモンスターなのだから、ユカリが膨大な経験値を設定していることは間違いなし。
俺が戦闘行為を行っていることでパーティを組んでいるシロナにも自動的に経験値は分配されるが、共闘をすることでボーナスを得られる仕組みなので一緒に叩くことにした。
それにしても、城壁に体当たりしている寒天を幼女と少女が叩いているこの光景は、側から見たら意味不明な光景だろうな。
数分が経過したところで、とうとう寒天のテンテンはHPが尽き、その身が砕け散るように果てた。
それと同時に、俺が狙っていた通り膨大な経験値が舞い込んで――来なかった……。
「あ……あれ? 全然経験値入ってこないんだけど……」
「な、なんですか!? これ……なんだか自然と力がみなぎって行く気がします」
「え? なんでシロナだけ?」
レベルはどんどん上がっていった。
レベル10――15――20――30――……。
「……えーっと……なんか、最後いい感じに攻撃が入ったような感覚でした」
「んー……ということは、シロナのクリティカルダメージが決め手だったということか。だとしても、まだ上がっていくみたいだな……俺のツールじゃ攻撃判定にならないってことだよな……」
レベル50――60――70――80――……。
「これって、流石にチートすぎやしないか……どんだけの経験値詰め込んでたんだこの寒天……」
レベル100――110――120――……。
「まさか……」
レベル130――140――。
レベル150――最高レベル到達だと……!?
「あ、あはは……」
「トウカ様! 見てください! ちょっと軽くジャンプしただけで、こーんなに跳べましたよ! 岩もバターみたいに切れます! すごいすごーい!!」
「そりゃ元々が2〜30レベルだったんだからな……一気に5倍以上レベルが上がったら世界が変わるよ、うん……」
いや、そんなつもりはなかったのだが……。
俺が使っていたガイコツ姿のあいつでもレベルは100くらいだったのに、150だと……。
「多分、今のシロナだと、ユカリの秘密の聖域の守護者すら倒せそうだよ……」
俺はレベル5のままなんだけど……今のままシロナとレベルが離れすぎて経験値が分配されないし……このままだと魔法もスキルも使えないけど、いざとなったら戦闘プログラムを発動して戦うしかないか。管理代行権限で戦ってもいいけど経験値が入らないし……。
などと、ブツブツ言いながら考えていたところ、シロナが何かを見つけたようだ。
「トウカ様! これ見てください!」
「なんだそれ? タマゴ?」
「はい。テンテンが残していったのでしょうか?」
「……シロナさん……これってね――」
間違いない、俺の管理代行権限でアイテム鑑定した結果……。
「テンテンの卵だ。これを一定期間所持しておくとだな……」
そう、テンテンが生まれ、俺たちのペットとなるということだ。
これが意味していること、それは――。
「シロナ、レベルカンストしたけどさ、もう戦わなくていいのかも」
「え……?」
「とにかく、どうにかして温めよう! 話はそれからだ!」
旅が始まって3日と数分。
なんやかんやで、未だに街を出られず――。




