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――創世記―― 第一章 第五節 異世界作り

 「管理代行権限行使。落陽の転移地点ポータルポイント転移トリップ

『管理代行権限を受諾。落陽の転移地点へ転移します』


 ゲームマスターというのは非常に便利だ。

 先ほどのように、権限を使って様々なメモリー地点にワープすることができた。

 ユカリの開発したAIに話しかけるだけで大抵のプログラムを読み込んで行使してくれるのだからありがたい。


 アナザーワールドをテストプレイし始めてから2週間が過ぎた。

 俺とユカリは仕事を分担して作業をすることにし、俺は世界を飛び回っていた。

 俺は城や街、洞窟や森などのダンジョンや、草原や山、川や海などのフィールドマップなどを調整していた。

 例えば、今この谷間にあるユカリ……いや、ユーカリア様の像のある祭壇の周りには、地面からふわふわと何色もの光の粒がシャボン玉のように浮かぶようにデザインした。

 流れる滝となだらかな流れの川、砂利の隙間から生えた植物がまた自然の美しさを描いている。

 ――などという自己満足は置いておいて、こうした特別な場所には神秘的なエフェクトがギミックを起動すると現れるように作った。


 俺が以前、変な寒天モンスターにやられて復活したのがこの場所だったのだが、ユーカリア様の像のあるところは転移やコンティニュー、ゲームにログインした際に出現できるセーブポイントのような場所なので、初めて訪れた人が触れることで開放される仕組みになっている。

 そのため、このユーカリア様の像が機能した時点でこの場所の神秘的なエフェクトも発動するというギミックだ。


 世界中にこのような場所をいくつも作って回ったのだ。


「でも、なんだかこの河原……見たことがあるんだよなぁ……まぁ、思念伝達で作ったわけだから、知ってる場所があってもおかしくはないか」


 そんな自問自答をしながら、河原を歩き始めた。

 緩やかな坂を登り、崖の道を進みながら落ちてくる滝を眺める。

 滝の裏側を進むと、何やら小さなネズミがエサを食べているのが見えた。


「あれもモンスターなんだっけ? ……いや、ただの環境素材(オブジェクト)か」


 街に行く前にちょっとしたモンスターが出た方が面白いかもな……そう思いながら、俺は管理者代行権限を使ってネズミをモンスターに変えた。


「名前は――なんか丸っこいモルモットみたいだからマルモットでいいか」


 ちなみに、こんな風に気まぐれで世界のあちこちにモンスターを作って歩いているのはユカリには内緒だ。

 ユカリはユカリでゲームのシステム――武器やアイテム、ゲーム内で起こるイベントなど――を作るために引きこもっている。

 引きこもっている、というのは、システムを集中して考えるためのユカリ専用のマップを作り――もはやダンジョンという名の要塞と化している――そこの最奥部に「ブルジョワ層が住んでいそうな滝の流れている家」を思い描いてデザインした部屋で作業しているのだ。

 初めはマップ作りに精を出していたのだが、なんだか昔を思い出してしまうらしく、俺にその仕事を放り投げたのだ。


 と、まぁ、そんな感じで、俺は世界を飛び回っているのだが、正直これはこれで凄く楽しい。

 今みたいに思いつきでモンスターを作れるし、作ったモンスターと戦ったり……それ以上に街や世界を旅しているようで、旅行好きな俺には願ったりな仕事だった。

 そんな感慨をガイコツの姿でしていると客観的に考えると変な感覚なのだが、モンスター化したネズミが俺の足に体当たりしてきていることに気づき、正常に動いていることを確認した俺は、洞窟を後にした。


 洞窟を出ると、神殿の脇道へと出る。

 ネズミがついてきそうになったので慌てて格子戸を作ってから神殿の入口へと向かった。


 夕焼けの景色だった。

 石造りの街並みが夕焼けに染まっている。

 街には多くの人の姿が見える。

 特に、麓の方に見える市場街はNPCノンプレイキャラクターで賑わっているのが見えた。

 夕日が完全にその姿を地平線の彼方に沈めると、賑わっていたNPCたちの姿がフェードアウトしていった。


「なるほど、日が暮れると街は夜モードになるわけか。まぁ、電気があるわけじゃないし……大昔の街はこんなもんだったのかもなぁ」


 管理者兼プレイヤーである俺は、夜でもライトを照らしているようにハッキリと見える。

 しかし、この月と星の明かりだけの世界ではどのように見えるのだろう、と疑問に思いながら俺は次の場所へと転移することにした。


「管理代行権限行使。死者の国(ニブルヘイム)転移トリップ

『管理代行権限を受諾。死者の国(ニブルヘイム)への転移を実行します』


◇◇◇



「NPCにも職業クラスって割り当てられる?」

『了解しました。プログラム内を検索致します』


ゲームマスターとして世界の設定やゲームの目的など、世界を楽しむためのシステムを作るユカリは、思いのほか地味な作業に頭を悩ませていた。


 今ユカリが話しかけているサポートAIや思念伝達機能もあり、広大な世界に多種族が住む、それぞれの種族がそれぞれの国を営むいわゆる剣と魔法のファンタジーのような世界を一気に設定できたが、世界の住人たる《《彼ら》》一人ひとりの設定をするのは非常に面倒な作業であった。


『ユーカリア様。プログラムの検索結果を報告します。職業自動割り当てについては、ユーカリア様が設定されたNPCの役割システムに抱き合わせることで実行可能です』


むしろ、それよりもユカリを満足させなかったのは、人の手によって造られ、機械のように精密に決まった言動しか起こせず、決めれた役割を決められたままにこなし、決められた設定のまま成長も後退もしない、そんな者たちと決められたままのやり取りをするという虚しさであった。


「何が悲しくて自分が設定した会話文と話をしないといけないのかな……」


というよりも、楽をして設定できないかを模索しているだけなのだが。


 そんなユカリの考えに、AIは推し黙る。

 彼、と呼んでいいのか、感情があったとするならば、きっとそれは自分自身(人工知能)にも言えることなのだろう。

 しかし、一体それの何が悪いのか。

 世界を構成する1と0の羅列を、膨大なプログラムの配列を、自分は瞬時に繋いで主の役に立っているではないか。

 主の疑問や要望に答えるために、世界プログラムから言葉を引き出していることが満足いかないのか。

 きっとそんなことを思っているだろう。


 だが、彼はAIである。

 彼が黙っているのは、単純にユカリの言葉に世界から導き出せる回答がないだけだった。

 しかしその沈黙は、ユカリにその感情を抱かせるには充分だった。ゆえに、ユカリは途方もないことを思いつく。


「ねぇ、この世界の人たちってさ・・・」


 彼にとっては、理解不能な言葉だった。


「感情を持って、成長させられることはできないのかな?」


 それは、彼自身の有用性と、あるはずのない自我同一性アイデンティティを崩させるには充分だった。


 ユカリの言葉に返答できる世界の言葉はない。

 どんな疑問にも言葉を引き出すことで応じることができた。しかし、2度も世界からの言葉を引き出すことも答えることもできなかった。


『(感情と・・・成長・・・)』


 思えば、このときが彼に自我のようなものが芽生えた瞬間だったのかもしれない。

 ゲームのプログラムの1つでしかない彼が、その役割と能力を応用させた瞬間だったのだから。


『ユーカリア様、検索結果がでました。多少プログラムに負荷を与えることになるかと思いますが、可能だと思われます』


 それは、世界の住人となる人格に彼のコピーを与えると言うものだった。それだけでは単なるロボットを生み出すようなものなのだろうが、彼は今しがた自身に芽生えたプログラムの綻び(自我の欠片)が疑似人格を形成する僅かな可能性を算出していた。

 ユカリとのやり取りで、人格《NPC》には「性格」と「役割」を与えることになった。ゲームマスターやプレイヤーに与えられるステータス成長の基礎となる設定だが、これをランダムに与えることにより人格に個性を与えることにつながる。しかし、あくまでもゲームの世界を維持したいのは事実であるため、疑似人格たちが予期せぬ事態を引き起こさないためにある程度の「役割」をもって行動するようにした。

 ゲームの世界で武器防具屋や宿屋など、プレイヤーをサポートする役割が必要になるし、国の維持をするためにも王や騎士、クエストを起こす起点となるオブジェクトや人物など、ゲームとして成り立つための役割だ。

 もちろん、役割によって彼らを不自由にさせるつもりはない。流れる時間、生まれた人格、与えられた環境などで役割の種が芽生えるようにしてある。

 つまり、特定の人物だけに役割が振られるのではなく、あくまで環境に依存するということ。役割が与えられるのにふさわしい人格が該当しない場合には外的要因によって目覚めさせるか、プレイヤーの自発行動によって引き起こさせるようにした。


 これによって、生まれたてのAIに「性格」と「役割」が与えられ、自我として学習することにより仮想世界に新たな生命が誕生することになった。

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