第7話 深淵の魔女ドミナの旅(前編)
暗闇の中に円柱が立ち並ぶ広間。
五人の美少女たちが円卓を囲んで座っている。
ルベルが頬杖をつきながらため息をはく。紅の髪がさらりと流れる。
「はあ。ようやく静かになった。これで議題が進められる」
「誰が滅亡させるか、じゃな」
「それだけじゃないんだ。要望や苦情が溜まってる」
「ほほう。どのような?」
「いつ世界を滅ぼすんですか? 休日は避けてほしいんですけど、とか。太陽大陸の人間の数が増えすぎなので全滅させてください、こっちの大陸はいいです、とか」
「のんきな要望じゃの」
「邪竜族からも来ているな。姉妹二人なら人間界だけじゃなく天界までも滅ぼせます。ぜひ、今度の世界滅亡は我ら邪竜族の代表にお任せください、ということらしいが」
金髪を揺らしてケイが悲しそうに眉を寄せる。
「ええ、そんなぁ……」
「それ古い意見書じゃない?」
「あ~、そうだな。数年前の要望のようだ」
ルベルが書類を掲げると、ケイは形の良い胸に手を当てて、ほっと安堵の息を吐く。
隣でノクティがツインテールを揺らしながら肩をすくめた。
「今は邪竜族の意見も変わってるから。それに天界を滅ぼすほどの力を出したら、妹が死んじゃうわよ」
「アレクさんのお嫁さんになるまでは、あたし死にたくないです」
「ほんとに大好きなんだな。あんなやつのことが」
「まあねぇ。邪竜族のメスは、自分を倒せる強いオスにしかなびかないからねぇ」
「特にあたしは触れるだけで相手を蝕んでしまってたから……触れるのってお姉ちゃんしかいなかったです……だから」
「だから?」
「きょ、今日みたいに長時間、男の人に抱きしめられたのって初めてです……まだ心臓どきどきしてますけど、とっても幸せです。お姉ちゃんとは全然違うたくましさって言うか……好きです」
ケイは頬を染めて夢見るように目を閉じる。
ルベルは大きく肩を落として息を吐いた。
「はぁ。じゃあもう、君たち二人はあいつと戦えないじゃないか」
「妹を悲しませるわけにはいかないし」
「はい、アレクさんが死んじゃったら、あたし、自分が押さえられなくなると思います」
ケイはふふっと笑うものの、青い瞳はどこまでも冷静だった。
ルベルが華奢な肩をすくめる。
「軽い脅しだな……もう二人はいいだろう。ただ、あとのみんなはこれ以上、アレクに振り回されたらダメだ。――特にドミナ」
「なにかしら?」
「なに、じゃない。いくら実験だったからといって、やらしくサービスしすぎだ。あんなやつに胸もまれて気持ち悪くないのか? 殴り返すべきなんだ」
「あら? わたくしはアレクが嫌いじゃないですわ。むしろ今まで会った男の中では一番好きよ」
「ええ! そなたまで!? 私たちをハーレムメンバーとしてしか見ていない変態だぞ!?」
「やることやった上でのハーレムですもの」
「あいつが、なにしたっていうんだ?」
「ふふっ。面倒な義務から開放してくれたのよ」
「ぎむ?」
「義務というか、契約ね」
「えっ、まさか。力をもらう代わりに世界を滅ぼすっていう契約か?」
「そうよ」
ドミナは当たり前と言った感じで頷いた。青い髪が波打つように揺れる。
ルベルは赤い瞳でじーっとドミナを眺めた後、首を傾げた。
「あれ? 魔女の力は失ってない気がするんだが……」
「力を残したまま契約した相手が消えたの」
「消えた? 誰だったんだ?」
「旧世界の忘れ去られた異形の魔神よ」
ドミナの答えにルベルが整った顔を引きつらせる。
「げっ。名前すら出してはいけない存在では……。確か、まともに話通じなかったはずだし、契約破棄は無理と思うが」
「そうよ。でも、もう大丈夫なの」
「どういうことなんだ?」
「誰かさんが契約ごと魔神を消し去ってくれたから」
ドミナは、ふっくらとした唇を指で撫でつつ妖しく微笑んだ。
ルベルが驚いて赤い瞳を見開く。紅の髪が跳ねるように揺れた。
「嘘!? 嘘に違いないっ! いくらあいつが強くとも、物事には限度ってものがある!!」
「それはね……」
ドミナは優しく微笑むと、少し遠い目をしつつ語り出した。