服の中身が知りたくて……③
その日の夕方、康太は家の裏庭を歩いていた。度重なる失敗から、これまでの方法ではだめだと考えた彼は、何かいいアイデアはないかと裏庭にまで考えを巡らせていた。
どれだけやってもサキには作戦を見破られてしまうなかで、彼も諦めかけていた。なにをしてもサキはいつも康太よりも一枚上手だった。今回ばかりは出し抜いてやりたいと思っていても、サキの人間離れした鋭さには歯が立たなかった。
裏庭を家の壁に沿って歩く。家の周りには康太が小さい頃からよく木登りをしている桜の木が生えている。登ってみたらどうだろうかと、何本か登ってみるが、サキの部屋を覗くには角度が悪かった。これもダメかと思いつつ、こういうところで悪知恵が働くこの少年は、今度はサキの部屋の反対側、ちょうど康太の部屋側に位置する浴場の方へ行ってみる。
やっぱり、康太は木の上からガッツポーズをする。東条家の浴場には大きな窓が設置されている。木に登った康太の位置からは、双眼鏡を使えば浴槽や流し場まではっきり見ることができる。いくらサキが気が付いたとしても、浴場に入ってしまえばもう裸だ、逃げることはできない。これが康太の考えた最後の作戦だ。
だが、康太の中で本当にやり遂げていいものかという疑問もわいてきていた。サキは一枚上手だといっても、いつも康太と遊ぶときには最終的にはサキがわざと負けてくれていた。しかし、今回は一切隙を見せてくれようとしていない。何か事情があるのかもしれないと康太の中で疑問が渦巻く。それに朝のサキの発言がどこか胸の奥に引っかかっていた。
「もうこれでダメだったら諦めよう。」
欲望と罪悪感を天秤にかけた康太は、結局彼はサキの中の魔力に惹かれてしまった。今回だけ、と何度も自分に言い聞かせながら夜まで待つことにした。
その晩、康太は先ほどの桜の木の上からサキの姿をじっと待っていた。時刻は23時。いつもならもう寝ている時間だ。康太はあくびを噛み殺しながらじっと待つ。いつも通り21時30分にサキにお休みを告げた康太は、トイレのふりしてそっと抜け出してこの木までやって来た。すでに一時間以上浴場を見つめながら待ち続けている。サキがいつも自分が眠った後に風呂に入っていることはあらかじめ知っていたが、ここまで遅いとは予想していなかった。夜の深さだけがいたずらに深まっていく。
やっぱりこの作戦もばれているのかもしれない。康太は一日の中で不自然な言動をしなかったか思い返してみる。夕食の時、宿題を見てもらった時、寝る前、どの記憶をさかのぼってみても風呂の事は聞いていなかった。抜け目はなかったと自分を励ます声と、やっぱり彼女にはかなわないんだという諦めの声が康太の心の中で言い争う。
あと30分、それでサキが姿を見せなかったらおとなしく寝よう。康太はもう一度気を取り直して浴場に目を向ける。しかし、いくら待っても、やはりサキは姿を見せることはない。腕時計の針はもう23時25分だった。あと5分でタイムリミットがやって来る。さすがの康太ももうあくびを止められなかった。あくびと共にため息も零れ落ちる。
「僕の負けだ」
時計の針が目標の時刻を指したのを確認して、康太はここで戦いを降りることにした。誰もいない浴場を見つめ、この10日間を思い出している。サキの部屋に入り込もうとしたこと、知恵を絞って部屋をのぞき込もうとしたこと、いつも抜け目のないサキとの攻防戦はどこか康太の心を震わせていた。それで十分だと彼は感じた。
さわやかな春風が康太をすり抜けていく。康太にもさわやかな笑みが浮かぶ。もう寝ようと足元の枝に手を伸ばす。
しかし、そんなタイミングを見計らったかのように、浴場に人影が現れた。




