服の中身が知りたくて……②
「サキはさ、もうちょっと隙を見せてくれたっていいじゃないか」
康太は朝食のクロワッサンを頬張りながらサキに文句を言う。
「今日はなかなか分かりにくかったですよ。康太君も成長しているんですね」
サキは笑って返す。テーブルの向かいでは母の春恵も笑いながら二人のやり取りを聞いている。
東条家にはもともと5人の使用人がいたが、現在はサキ一人のみだ。サキは7年前、康太がまだ5歳だった時に春恵が連れてきた。どこから連れてきた子なのかは康太は知らされていない。当時の彼にとっては気に
するほどの事でもなかった。それ以来サキは東条家の専属のメイドとして仕えている。母子家庭だった康太にとって、サキは一番の遊び相手となった。康太はサキを独り占めするように遊びまわった。そして気が付けば他のメイドたちは皆、東条家の仕事をやめていた。康太は詳しい理由は知らないが、サキ一人でもなんとかなっていたので特に大きな問題でもないだろうと思っていた。
「康ちゃん、あなたそんなにサキさんに迷惑かけちゃだめよ。まして着替えをのぞき見しようなんてはしたない」
春恵は紅茶を飲みながら康太に注意をする。じっと康太の目を見据えて話す春恵だが、康太にはイマイチ響いていない。
「だって僕、サキのこの制服姿しか見たことないんだよ?夏場だって薄着になろうとしないし。少しくらいは僕のこの純粋な思いに答えてくれたっていいじゃないか」
「あら、パジャマ姿なら見せているじゃないですか」サキの反撃。
「あ、あんなので満足できるか。この際だから隠さず言うけど、僕はその服の下にあるものが見たいわけ。わかる、この気持ち?頭の中そんなことでいっぱいだよ。自分でもおかしくなりそうだよ。だからね、サキはそのかわいい康太君の願いをかなえてあげるべきなんだと思うんだよね。」
さすがの発言に、聞いている者たちは苦笑をせざる負えなかった。
「どこで教育を間違えたのかしら」
「母さん、違う。教育は間違ってないよ。これは成長していく中で自然な現象なんだ。男はいつか女の人にどうしようもなく興味を惹かれる生き物なんだよ。父さんだってそうやって言うはずだよ。多分。」
春恵は額に手を当てながら、ため息をついた。康太がオレンジジュースを飲みほしてしまうと、サキは冷蔵庫まで取りに行った。冷蔵庫まで小走りで向かうサキの背中を康太はじっと見つめる。
サキの裸を見たいという思いが強いのだが、それ以上に康太は先の背中になにかつよい魔力を感じていた。それが何なのかよくわからなかったが、気が付いたころには康太はサキの背中をいつも気にするようになっていた。その思いは思春期などを言い訳にする前から抱いている。
「いくら見つめたって脱いだりしませんよ。」
康太の視線に気づいたサキが笑いながら釘をさす。こちらに背を向けていたはずなのによく気が付いたと相変わらずの勘の良さに康太は驚く。まるで後ろに目が付いているような振る舞い方だ。
「サキは勘がよすぎるんだよ。もうちょっと女っ気を出した方がいいよ、そのためにもさ、その制服を脱いでみようよ。」
「あら、康太君に言われなくても十分間に合ってます。康太君の方こそ、そんなことばっかり言ってたら女の子に嫌われてしまいますよ。そういった発言はほどほどに。」サキはそこまで言って一度口を止める。
「それに…」
「それに?」康太は思わず聞き返す。
サキはオレンジジュースを注ぎながらゆっくりと康太に語りかける。
「それに、一度見てしまったら、今まで通りみたいな関係ではいられなくなっちゃいますよ?」
それだけ言うと、サキは微笑みながらまた冷蔵庫へ戻って行ってしまう。康太の視界の外では、春恵が一瞬顔を曇らせる。
「ほら、康ちゃんもウブだから、サキさんの裸なんて実際見たら恥ずかしくていられなくなっちゃうでしょ。」
春恵は若干声を上ずらせながら、談笑交じりに康太を諭す。康太は納得がいかない様子だ。
「いや、でも」
「ほら、もう学校へ出かける時間ですよ。遅刻なんて許しませんからね」
サキが康太の言葉を遮る。どこか康太に踏み込ませないようにするような圧力があった。康太は仕方なくオレンジジュースを飲み込み、学校へと向かった。春恵は不安な顔で康太を見送った。




