4.流行と不易
私が子どもの頃と比べて小ぎれいになったカフェに、今日は行こうと決めていた。散歩で回ってきて気になっていた。きれいになったといっても、ペンキを塗りなおした、くらいの変化なので、むしろ昔に戻ったかのような気分だ。
カランカラン。ドアを開けて入店すると、あのころと変わらない、いや少し古くなったベルの音が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
店員は二人だった。あの頃のマスターではなくなっていたので、少し残念に思った。
「エスプレッソと…サンドイッチをください」
「かしこまりました」
コーヒーは豆から挽いてサイフォンでつくる、昔と同じ道具のようだ。年季が入っているが、手入れがしっかりされているのか輝いていた。
「若いころに何度か来ていたのですが、前のマスターとは…」
「ああ、父のことだと思います。3年前に私が継ぎまして」
「あら、そうなんですか。どおりで似た雰囲気がすると思いました」
話を聞くと、先代のマスターは5年ほど前に膝を悪くしており、引退を考えていたという。ちょうどそこに息子さんが喫茶店を継ぎたいと伝え、その時にペンキを塗りなおし、内装も改良したんだとか。
「昔は昔でよかったけれど、こっちはこっちで味があって、いいですね」
「そうですか。私も昔のここの雰囲気は好きだったのですが、やはり今のカスタマーに合った内装にしないと、と思いまして。・・・お待たせしました、エスプレッソと、サンドイッチです。コーヒー熱くなっておりますのでお気をつけてお飲みください」
「いただきます」
コーヒーの味も、サンドイッチも、ほとんど変わらない味だった。ごちそうさま、おいしかったです、と店を出た。10年たつとあの頃と同じものなんてなくなってしまっているのかもしれないと思った。
懐かしいもの見たさに、町の反対側にある映画館も見に行った。こちらはあの頃の雰囲気そのままに残っていて、それがなんだかうれしかった。涙が出そうになった。上映する映画は2本で、一日に3回ずつやっている。こんな映画館ももうほとんどないんだろうなぁなんてしんみりしていたもんだからか、観た映画が感動作だったからか、観終わって10分ほど涙が止まらなかった。あのころと比べても泣き上戸になっている。
今日はこの辺にしとこうか、と晩御飯選びにスーパーへ。大型のショッピングセンターもあるが、ここからだとかなり遠いので、家に帰る途中にあるこっちを選んだ。
最近は適当に済ませようとレトルト食品だったりインスタント食品だったり、総菜だったりが多かったので、しばらくぶりにきちんとした夕食を作ろうと、サバと小松菜、そしてパックのお茶を購入。ほうれん草も一緒に入れた。出汁にしばらく漬け込むだけでお浸しができる、こんな楽な調理はない。今日はご飯とみそ汁、焼きサバと小松菜のおひたし、デザートにはリンゴでも切ろうかしら。




