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10.落ちる

タイピングがだんだんつらくなって、編集者とのやり取りもほとんどなくなっていった。

そんな時だ。両親が死んだ、という話を聞いたのは。



その日はたまたま調子がよく、つらつらと文章を書き進めていた。コーヒーが切れたので入れなおそうとイスを立った。


ジリリリリリ!ジリリリリリ!


嫌な予感がした。現状より悪いことなどないと思っていた。

「もしもし、お姉ちゃん?」

しかし、妹の声色は、想定しうる最悪など超えてくるものを、伝えようとしている風に思えた。


父も母も、死体は見られなかった。夫婦でドライブに出ているときに、対向車とぶつかった。そして・・・・。

事故現場は崖で、その下は海。岸壁に打ち付けるうちに車が爆発を起こし、おそらく父は…母は…。


私のせいだと思った。私が父の反対を押し切って出てこなければ。


何もできなくなった。何もかもなくなった。しばらくは食事もとれなかった。

どん底なんてないと知った。



動くしかなくなった。やるしかなくなった。

乾ききったのどを癒し、無理やり食物を押し込んだ。むせながらも飲みこむ。

そして血反吐を吐くように文字を綴る。一字一字命を削って、書く、書く、書く。


出来上がったものは、もはやこれまでの私の生み出す小説とは、違っていた。


出版社に持っていくのもはばかられた。しかし、新作を出さねばならない。

ストレスで変になりそうだった、いや、すでにおかしくなっていたのだ。




小説は、私だけの小説は、もはやどこにもなくなった。


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