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異世界条約

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。



 異世界転移、異世界転生。


 創作物であるならば非常に興味深いと思うか、或いはよくある話としてお腹いっぱいとするかは各々次第。


 が、これが現実であれば非常に当事者或いは第三者からしても厄介極まりないの一言に尽きる。これが単なる人同士であれば利権などが絡んでややこしい。


 ──────これが、各々の神同士となると更に面倒な話となる。



 「(…………めんどい)」


 

 女神ヘスティアは地球の代表として渋々この異世界の神々との会談を行っていた。まだ口に出さないだけでも良い方だろう。


 彼女の左には天照大御神(アマテラス)、右にはアテナという主神二柱がヘスティアの付き添い兼護衛として着いてきていたのだ。



 「─────さて、本題に入りましょうか。我々は貴殿方との交流を前向きに検討しています」



 先程までは雑談やら世間話であり、互いに探り合いをしていたのだ。が、相手側の主神はとうやら痺れを切らしたらしい。



 「前向き?」


 「ええ。しかし、あくまで検討です」


 「……条件あるの?」


 「流石にわかりますか。もし、ある条件(・・・・)を飲んで抱くのであればこの条約は即座に、この場で可決致します」


 「条件は?」


 「女神ヘスティア。貴殿の眷属である不知火姫希をこの星に記録させてほしい(・・・・・・・・)



 「……………………………………………おかわり」


 「は、ただいま!」



 ヘスティアはその主神の返答を一旦保留し、近くにいた相手側の従者におかわりを所望する。因みに現在ヘスティアのテーブルの上には空きになった大皿がごまんと積み重なり、新たに運ばれてきたのは大きなステーキ肉であった。



 「よく食べるな、ヘスティア(お前)


 「私は可愛いと思いますよ?よく食べるヘスティアちゃん」


 「むぐむぐ…………異世界の料理なんて中々食べる機会がないから。しかも特上だし。奢りだし」


 「にしても食べすぎだ、バカ」


 「バカ言わないでアテナ。泣くよ?あ、ほっぺにソースがついた………アマテラス、取って」


 「はいな~♪」


 「日本の奴らって、可愛いのに弱いよな。ストレス溜まってんのかよ?」


 「どこの、だれか、とは言いませんが面倒なことを何でもかんでもこちらに持ってくる方々がいるんですよねぇ…………いるんですよ、ね?アテナさま。そういう方が、本当にいるんですよ。外野には細かく指摘して修正を強引に要求してくる癖、自分たち内野はテキトーなことをしっちゃかめっちゃか…………ストレス、溜まるんですよ。わかります?アテナさま。ほんっっっっっとーに、ストレスが溜まって溜まって…………可愛いものを愛でて癒されなきゃ、やってられないんですよ」


 「わ、わるかったって」

 

 「もし私達に癒しを奪うのであれば────────」 


 「アマテラス。そこの飲み物とって」


 「はいっ♪」


 

 改めてアテナは天照大御神に下手な真似をしないようにしようと決め込みつつも、目の前にいる主神達に目を光らせていた。



 「ヘスティア殿。返事は如何様か」


 「却下」


 

 即答するヘスティアに周りからの反論は無い。むしろその返答が当然だろうと双方納得はしていた。



 「────でしょうね。では、こうしましょう」


 「なに?」


 「不知火姫希の一部(・・・)で構いません」


 「……………一部?」


 「わかりませんか?」



 何となく察してきたヘスティア達は嫌な予感を感じつつ、その主神から要求される事柄に警戒をしつつその言葉を待つ。



 「不知火姫希。彼の力は絶大だ。彼の一部、つまり力が欲しい」


 「それは」


 「希少な【箱庭】という世界構築(・・・・)、或いは星の造製(・・・・)レベルの保有者。本来、人という器で扱える代物ではない筈のその能力は我々神々にとっても喉から手が出る程。その事は、貴女方も理解しているでしょう?」


 「………そもそも、眷属とは言っても私の意思じゃ決められない」


 「ほぅ?命令でも、ですか」


 

 ぐらっ、と辺りが静寂に包まれる程の威圧が場を支配するが、条件反射でヘスティアからも威圧で拮抗させる。

 異世界の主神と、女神ヘスティアの衝突。その威圧が拮抗している時点で両者の技量がどのようなものなのかを物語っていた。



 「なに、私唯一の眷属にちょっかい、かける気?」


 「いやいや、そんなまさか!しかし、我々としても不知火姫希の存在か。或いは力が欲してはいます。もし能力がダメであれば…………彼の子種でも構いません。この世界の住人ではなく、我等の世界にいる女神との子をもうければ万々歳なんですが────」


 「「「却下!」」」


 あまりにもバカげた提案にヘスティアだけではなく、天照大御神とアテナまでもが口を出した。が、それを主神はこう返す。



 「なんだい?随分酷いじゃないか。君たち、そして不知火姫希の出身世界の女神達は随分彼の子種をばら蒔いている(・・・・・・・)みたいだが。それは彼の意思で、なのかも怪しい……………さて、その件について。女神ヘスティアはどうお考えで」



 流石は主神というべきか。

 あらゆることを見通しているらしく、それは地球の主神達であっても視れない。或いは知っていても敢えて黙っている主神がいるということだろうか。


 冷ややかな目で天照大御神は横目でアテナを睨む。



 「それは…………どういうことでしょうね、アテナ主神サマ?」


 「お、オレは知らねぇからなっ!な、なぁヘスティア?オレが気付いた時には…………ほら、手遅れっていうか」


 「………なる、ほど。けど、その件はこっちの話。貴方達には、関係無い」


 

 心底興味無い、と言いたげに吐き捨てたヘスティアはジュースを飲みながらそう答えた。まるで「それがどうした(・・・・・・・)」と言わんばかりに受け止める気すら無い。


 「ふむ」


 その反応に、特に怒ることもしない異世界の主神は考え込む素振りをしつつ様々な条件を口に出す。その中には。


 「不知火姫希がダメなら、大御門彦乃のでも」


 「はぁ……私の眷属は貴方の世界、その女三人と婚姻を結び、それぞれ(・・・・)子を授かっているのに……まだ不満?」


 「何れ我々の世界から去るのでしょう?再度、世界に来る保証もない。故に……何か一つ(・・・・)、彼との繋がりが欲しい。あ、一つ勘違いしてほしくないことが」


 「?」

 

 「この異世界条約は、我々の世界と地球のものではない(・・・・・・・・・)。あくまで、地球ではなく不知火姫希と大御門彦乃が生まれた世界と、だ」


 その言葉に、まるでその異世界の主神は侮蔑を交えて淡々とそう述べた。

 例え、不知火姫希が過ごしていた星であっても地球は要らない。微塵も興味ないとそう告げてヘスティアや他の面々にそう伝える。

 

 本来ならばここで地球の神でもある(・・・・)ヘスティア・天照大神・アテナは売られた喧嘩を憤るなどをする場面だろう。が、その三方は全くその素振りを見せなかった。


 「そう」


 「おや。交渉決裂するかと覚悟はしていましたが……どうやら噂は誠のよう(・・・・・・)


 「その噂が何だか知らぬが、この条約に地球の事で決裂するには我々にとってメリットはない」


 「本音を言えば、多少心苦しいですが」


 「今の地球は救いようがない(・・・・・・・)。本来なら、神々がその救いの手を差し伸べるべきだけど………その神々に刃を向けた(・・・・・)。しかもそれは神々だけじゃなく、地球自身に(・・・・・)も」


 「そこまで深刻だったとは」


 異世界の主神は、地球住まう生命に憐れみを抱きつつもそれは自業自得であるとも認識していた。


 「ふむむ……では、どういたしましょうか。ヘムンドゥの件が片付くのも、その結末がどうなるかは我でもわからない」

 

 『──────全く、恐ろしい会議ですね』


 ごん、ばき、と空間の一部に亀裂が走る。その亀裂の中心には、白く禍々しい槍の尖端が顔を出していた。

 尖端の刃が引っ込めたかと思うと、次は凪払う様に、その強襲者の姿を空間の欠片から顕現される。



 「おや。これ程賑やかな入室は初めてだよ───────────そして、初めましてだね、不知火姫希殿。随分様変わりした様だ。それはそれで美しい。まるで雪夜に輝く白星の様だ」


 「こちらこそ初めまして。この世界の大主神様。この姿を様変わり、と言うのは…………随分、盗み見をされていたということですか」


 会議の台上に立ち、喧嘩を売るのは議題になっていた不知火姫希その人であった。手に持つ白き槍を、異世界の主神に対して向けることは周りの神々にとって敵対行動ては十分。「貴様!」「無礼者!」との罵声が飛び交うが、姫希は気にする素振りも無く、ただ主神を睨み付けるのみ。後ろでヘスティアは自分の眷属の所業を無視してご飯を食べ、天照大神はアワアワと慌て、アテナに関しては腹を抱えながら爆笑している。


 「うん?何か気に障ることをしたつもりはないが」


 「別に。どうやら私の肉体?を狙っている様ですね。非常に困るんですよ。只でさえ、ヘムンドゥの件で立て込んでいるにも関わらず、新たに貴殿方から狙われると」


 「いやいや!別に敵になるつもりはないさ!確かに君の身体は魅力的ではあるが……それを強引にするつもりは毛頭無いよ」


 「私は(・・)、ですか?」


 「ああ、そうさ!」


 

 槍を納めた姫希は未だに警戒心をあからさまに鋭い目付きのまま。主神も爽やかな笑顔ではあったが、姫希は神の中でも神の王相手にも関わらず「胡散臭い」と吐き捨てる。流石に「ひどいなぁ」と主神は軽く返し、続けて「君とは良い関係でありたい」とも言うのだが─────。


 「で、あればここで宣言しなさい」


 「なにをだい?」


 「私だけではなく私の子達に(・・・・・)手を出さない、と」


 「…………ふむ、わかった。しかし、だ。姫希くん。君の子がもし、母親の故郷に戻りたいと思った時。その時は」


 「いりません」


 「なら────」



 不知火姫希と主神との口論みたいな話し合いはヒートアップする。恐らく姫希は主神の思惑(・・)狙い(・・)を見破っていたのだろう。主神は、不知火姫希()諦めているのだろうがそれ以外(・・・・)を狙っている。どうにかして、それを手に入れようとしているのだが、それを悉く姫希が却下する。それに気付いていたヘスティア達は傍観に徹し、他の神々でさえも二人の中に入る余地はない。


 そして折れたのは─────。



 「要するに。貴方は(オレ)が欲しい。そういうことですね?」


 「───────ぶっこむね。そうだ、その通りだよ不知火姫希。君自身、理解しているつもりだろうが………君が思っている以上希少なんだ。君は勿論、あの大御門彦乃も」


 「……癪ではありますけど、仕方がありません」 



 姫希は目を閉じ、身体から炎を纏ったかと思うとその炎を両手に閉じ込めて徐々に圧縮していく。それを打ち放てば主神とは言えど、無傷では済まされない。それを察知した主神の従者達が盾になろうとするが、それも途方に終わってしまう。


 「よいしょっと」


 まるでおにぎりを握るような仕草をしたかと思えば、それを無造作に下へ落としたのだ。その落としたエネルギーの塊は炎を纏っているにも関わらず、氷を形成する様に形が作られていく。

 それは──────。


 「なら、私の分身(・・・・)を大主神様にお渡しします。満足ですか?」


 「お………おぉ!い、いいのかい!?」


 エネルギーから作り出されたのは、不知火姫希を5つ程若返らせた童であった。分身故に同じ白い髪を結い、着物を着用していながらもとととっ、と主神の元へ駆け寄る姿は愛らしい。


 「よろしくおねがいします、あるじさま」


 「は、破壊力バツグンだね」


 「変なことしないでくださいね。分身ではありますが、私と異なる自我があるので」


 「そんなことをするつもりはないさ。で、この子の扱いについてだが───」


 「使用人扱いでいいですよ。名前は勝手につけてください」


 「そうかそうか。名前は何にしようか─────そうだ。君の名は【アルク】だ」



 姫希の分身は【アルク】と名付けられ、天照大神は驚きはしたものの、少し不服そうにしつつその名付けを認めることになる。だが、それに仕方がなく納得したものの待ったをかける神が一柱。



 「姫希。眷属の貴方が勝手に決めないで。まあいいけど」


 「ヘスティア様」


 「けど、そのミニ姫希を何もせずに手放す気はない。おいで」


 

 とてとてーっ、と目をキラキラさせてやってくるミニ姫希もといアルクは犬のように尻尾を振りながらやっていく。


 

 「……分身なのに眷属にならないんだ。じゃ、眷属二人目ってことで」


 「!へすてぃあさまのけんぞくになれるの!?やたーっ!」


 「はい、首輪。つけて」


 「うんっ!」


 「────あと、これ(・・)もつけて」


 「?これなーにー?」


 「おい、ヘスティア様」


  

 ヘスティア様らしく(・・・)、【あるもの】を渡されたアルクはその【あるもの】に対しての知識は無いらしい。だが、即座に【あるもの】が何なのか理解した姫希とその他のメンバーはツッコミに入る。無論、アルクから【あるもの】を取り上げるのだが不服そうにヘスティアからの抗議があった。



 「なんで。付けるのは私が─────」


 「やめてください」


 「でも、アルクの貞そ「やめてください」……うん」



 異世界の主神に聞こえない程度の短期口論終了後、アルクは正式にヘスティアの第二の眷属兼異世界の主神の従者となることとなった。


 「それじゃ、正式に交流────条約を結ぼうじゃないか」


 主神からのその言葉にその条約内容を互いに確認し合い、問題なくこの話は穏便に終了していく。


 「姫希くんにはここまでしてもらったんだ。ヘムンドゥの件、私達が出来る限り尽力しよう───────とは言っても、直接干渉すると星からの反撃があるからね。でもまあ、借りを返さないのは主神としても名折れだ。ここは一つ、未来予知みたいなものを」


 

 主神は言う。

 未来予知だとしても、未来というのはその風一つで簡単に枝分かれしていく。その未来を確定するには、その当事者達の選択一つなのだと。



 「私が未来予知するのは、君達とヘムンドゥの決戦地(・・・)だ」


 「!」

  

 その言葉の意味に姫希は反応する。

 ヘムンドゥの居場所は判明しているものの、それがバカ正直にそこから現れるのは到底考えられない。予想外の場所から奇襲される可能性が高いと姫希は考えていた。が、その奇襲される可能性も候補はあるものの、肝心のソレが多過ぎる。カグヤ王国だけではなく、他国からの応援でも人数が足りない。

 しかし、ここでヘムンドゥらが何処に出現する箇所を搾れるのであればそれは有難いこと。



 「─────決戦地は、海上。異界からの(・・・・・)遺跡、その片割れが鎮座する海底。憎悪に塗りたくられたその祭壇から現れるは……禍津ノ神。その神名こそ、復讐ノ白刃神(ヘムンドゥ)。さあ私が出来るのはここまでだ。楽しみにしているよ。この世界の覇権を勝ち取るその時を」


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