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悪夢は蝕む、深層心理の底までも。



 「シキ、昼だぞ」



 既に朝を過ぎ、昼頃。

 リゼットは寝室に死んだように眠る夫に声をかける。


 しかし、その妻の声に反応は無く、ただただ衰弱していく姿を眺めるしかない。その姿を眺めながら、この状態になってしまった出来事を思い出す。



 「ラファエルの因子……か」



 ラファエルの因子。

 それが正式な名称化はわからないが、女神達がそう称していたのでリゼットもそう呼んでいる。それこそが、シキの身体を一時的に乗っ取った存在。女神ヘスティアから彼はラファエルという大天使の遺伝が表に出てきたとのこと。しかもシキは、ラファエルの子孫の中でも最も強く受け継いでいる。更には、ラファエルの力を最も受け継いだだけではなく、【サタンの生まれ変わり】というシキ本人や周りも知らぬ、神のみぞ知る真実があったのだ。



 「ラファエルがサタンを守る為に……か」



 それがヘスティアの見解。


 かつて、ヘスティア自身もサタンという大悪魔と面識はあったとのこと。その時は勢力が違う(・・・・・)ことで面識は無かったがある出来事(・・・・・)の後に知った内容だ。


 

 「なぁ、そろそろ起きろよ。何時まで寝てんだよバカ」



 その呼び掛けにも反応が無い。

 もう一週間だ。

 

 あの時に倒れてから一度も目覚めていない。ただ、悪夢に魘されて呻いている事はよくあった。ヘスティアからは、原因が不明な為に下手にシキに近付かない様に警告を受けている。

 ヘスティア自身も今シキに起きている事がわからない。眷属として気には掛けてはいるものの、既にシキが眠るこの部屋だけ結界を施されてしまっている。   



 「……起きない、か。とりあえず、身体拭くぞ」



 シキの介護はリゼットの役目だ。

 一週間だが、意外にも直に慣れて手際よくシキの服を脱がし身体を拭く。ただ、心配なのは倒れてから一度も食事を取っていない。点滴などもない故に、これ以上の対応は出来ないのだ。



 「(まったく……ほんと、細いよな。こんな身体で……)」



 寝たきりのシキの身体をタオルで吹きながら、今までその身体で幾度と無く助けられてきたのだろうか。どれ程守られてきたのだろうか。


 確かにリゼットも強くはなった。


 だが、シキを守れる程の力はない。


 助けられてきた、守られてきた事が当たり前になりつつあったかもしれないと感じるリゼットは、己の力の無さを心の中で嘆く。それはリゼット達だけではなくアルトレアやスミリア達も同じ。



 「(結局、与えられてばっかりだよなオレは。十分幸せだ。昔のオレが驚きそうな位に……女としての幸せな暮らし。でもそれは……シキは幸せなのか?ただ、オレが満足してるだけで、シキは――――――)」


 「――――――っ」


 「っ!?シキ!」


 

 身体を吹いている最中、シキの瞼は開かれる。

 少し窶れてはいるが、上半身を起し、そのまま右手で顔を抑えていた。



 「頭、痛むのか?」


 「……」



 身体を起こしたまま、反応が無いシキに単に気分が悪いのかと思ったリゼットは用意した水を用意しようとする。



 「……」



 背を向けたリゼットに、シキは虚ろな目で水を用意する彼女に右手を伸ばす。


 その刹那、シキの姿に異変が起こる。


 まるで枯れた漆黒の翼を生やし、髪も目も闇に染まってしまうのだ。それはあまりにも不吉な気配を放ち、普通の大悪魔というにも禍々しい。



 「―――――――し、き?」


 

 流石にその気配に気付いたリゼットは振り向いたのと同時に腰に携えていた刀を反射的に柄を握り締め何時でも抜刀出来る様にしていた。


 目の前にいるシキは、シキなのか。


 そう思わざる負えない程の気配と威圧がリゼットが警戒する理由。しかもラファエルらしき存在とはまた違う、恐ろしい気配だ。



 「……」


 「――――――ッ」



 リゼットに迫りくるシキの右手。


 その手に触れればどうなるかはわからない。


 ただ身の危険を感じていたリゼットだが、このままシキを斬ろうとしていた。が、それを躊躇してしまう。何せ、今まで守ってくれた、助けてくれた夫をこの手で殺すことになるのだから。


 同時に、それが甘い考えだと。彼女は理解していた。この世に及んでも、その様な事を考えていた己を酷く嫌悪もしていたのだ。


 しかし、決断しなければならない。


 ここで、シキを斬らねばならないことを。


 唐突の出来事に、歯を食い縛るリゼットは覚悟を決めて柄を持つ手に力を入れ抜刀する瞬間、そのシキの伸びた右手が、不意に止まったのだ。



 「……り、ぜ?」



 髪や目は元に戻り、翼までも幻の様に消え去っていた。どこからどう見ても何時ものシキの姿だ。今まで緊張感に満ちた空間が不意に消え去り、思わずに肩を抜かすリゼットは握っていた刀の柄から手を離し、だらんと脱力してしまう。


 すると、部屋の扉が開かれるとそこには布団に包まって顔だけ出すヘスティアと女神エイレイテュイアが出てきたのだ。



 「めざめた、みたい……だね」


 「ヘスティア、様……」


 「アタシを忘れんなよぉ、シキく〜ん?あ、リゼットじゃん!旦那さんも起きた事だし酒呑もうぜ♪」


 「エイレイテュイア?ちょっ、オレはシキを―――――」


 「一週間ずっと介護しっぱなしだろぉ?たまには酒呑んでストレス発散ストレス発散♪」


 「ちょ、まっ―――――」



 強引に女神ヘスティアを置いて女神エイレイテュイアはリゼットを部屋から強引に連れ出して行ってしまう。ポカンと呆けるシキは何が何だかわからない、状況が飲み込めない様子ではあったが、ヘスティアはリゼットが座っていた椅子に座りジェスチャーで寝るように伝えた。


 ぎこちなく横になったシキは、少し記憶が混濁している事に気付く。そして、この部屋だけ強固な結界が展開されていることも、だ。



 「ヘスティア様、これは―――――」


 「危なかった(・・・・・)



 先程の眠そうな表情から一変、険しい表情でヘスティアはそうシキに告げる。今までに見ない表情に、寝起きのシキは戸惑いを隠す事は出来なかった。



 「危なかった、とは」


 「あと少し遅かったら、リゼが危なかったかもしれない」


 「――――一体、どういうことですかヘスティア様」



 シキの問に、包み隠さず話すヘスティア。

 

 何故、ベッドに寝かされているのか。身体を乗っ取ったラファエルという大天使。その大天使から、地球に戻ってはならないこと。

 その後に倒れ、一週間程寝込んでいたこと。


 加えて――――――――。



 「間違いな……貴方はサタンの生まれ変わり。そして、一瞬だけど……貴方は、貴方じゃない誰か……多分、ラファエルかサタンが表に出てきた、んだと思う。それが、リゼに何かしようとしていた」


 「何か……」


 「もしかすると、リゼに害をなそうと、していたのかも……しれ、ない」


 

 その言葉に、シキは黙って天を仰ぐ。


 正直な話、何だそれは!と言うしかない。


 まさか自分がサタンの生まれ変わりなど突然言われても困るしかない。ラファエルに関しては、確かに先祖の一人であるラファエルの力をより強く受け継いでいることを指摘されたことはあった。

 だが、己がサタンの生まれ変わりなど初耳だ。



 「だから、この部屋に結界が」


 「万が一、のため、だよ?」


 「そう、ですか……」

  


 両腕を顔を隠すようにし、暫く考え込むシキであったが、彼は何か意志を決したかの様にヘスティアにある事を頼むのだ。



 「ヘスティア様、お願いがあります」


 「なに、かな?」


 「それは――――――――――」


 

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