悪意は消えぬ、その時まで。
あ、ああ明けまして、おめでとうございます!!!
「ぐ……クソが。あの糞勇者、あんな力を隠し持っていたとはな……!」
ヘムンドゥは生きていた。
自爆したのだが、そのゴキブリの様な生命力により自力で再生したのだ。しかし、それでも身体は再生したものの身体の中は修復不可能に近いボロボロの状態。力はあるとは言え活動に限界があった。
「ったく……まあ、褒めてやるよ。オレ様の下僕共」
ヘムンドゥは、何処かの祭壇の上に胡座をかきながらも彼女の元へ下った2名の『七天魔皇』だ。
そして――――――その祭壇の奥の壁に飾られているのは、生きているのか、死んでいるのかはわからない。
男だ。
偉業の数々を乗り越えた巨人の如き神の様な人が、四肢を切断・抉られて壁に張り付けられていたのだ。そして切断・抉られた箇所からは夥しい鮮血が。
その鮮血が壁から伝い、滴り落ちる地面にはぶよぶよと黒いスライムなのか、或いはヘドロが吸収しているのだ。吸収しているもの、『マリス』は下品な笑い声と共にその大男の脚の先を啄む様に喰らっていくのだ。
その光景を、二人の『七天魔皇』は信じられないものを目の当たりにしていた。
「おいおいーどーしたよぉ?あ?この壁のヤツか?知ってたんだぜ?お前二人が、コソコソこの“カミサマ”と繋がっているのおな?で、弱ったオレ様を討ち取って、“波動の撥”を奪い、更には全能を司る神『ハヴァピア』、無を司る神『デシィート』を我が手に……ってかぁ?」
「それ、は……」
「は、ははは、そこまで、知ってるんだ……」
二人の『七天魔皇』は乾いた声を出すしかなかった。
目の前には自分達の主神でもある神が無残にも惨殺され、挙げ句の果てには拷問よりも酷い、生きた黒い液体によって喰われている。偉大なる神が、成すすべも無く、だ。
「で、お前ら二人は―――――――」
「我らが神を、この様な―――――!!!」
「アンタが言う通り、勇者は糞さ。間違いなく―――――――――――でも、アンタの方が、もっと糞さッ!!!」
二人の『七天魔皇』は反逆する。
仕えるべき神を討った、ヘムンドゥを本当の敵の判断したのだ。そして、彼ら二人がすべきこと。
それは、主神によって与えられたまだ新しい命令。
「ここで、討つぞ!!!」
「目にもの、見せてやるしっ!!!」
「はっ!くそったれがよく吠えるじゃねーか!!!―――――――――――だが、残念だ。お前らの考える事なんざ、すぐわかる。そもそも、だ。お前ら二人、オレ様が手を下すわけねーだろーが」
その瞬間二人の『七天魔皇』の胸に槍と剣が、血の花弁と共に生えたのだ。
ヘムンドゥは動いていない。
勿論、神を捕食する生きた黒い液体もだ。
「な、ぜ……」
「あんた、ら……?」
背後から突き刺したのは、二人の後ろに控えていた部下だ。しかし、部下達は声も出さずただ黙って止めを刺すように剣と槍に力を加える。
そんな無様な様子をヘムンドゥは笑いながら話すのだ。
そこにいる―――――いや、二人がそれぞれ組織した部下達についてをだ。
「ガハハゥ!!!残念だったなぁ……既にお前らの組織はもうオレ様が掌握したさ。あぁ、勿論反対する奴等が殆どだったから……全員殺した。そしてその死体を、『マリス』が被ってるのさ」
「きさ、まぁ゛ぁあ!!!」
「みんな、もう、しんで……」
既に組織は、ヘムンドゥに手に落ちていた。
そして、彼・彼女を慕う部下達は既に殺されており、酷い事にその死体を生きた黒い液体が被り今まで過ごしていた。その死体の持ち主に成り代わり、騙していた。
何時からかはわからない。
「あー、安心しろよ。お前ら部下らの死体は余すことなく使ってるからよ。無論、お前ら二人は特別だ。オレ様直々に吸収してやる」
「この、外道が……!」
「ぜったい、ゆる゛、ざなぃ゛……!」
血に伏した二人の元へ、一歩一歩とヘムンドゥが口元に弧を描き近づいていく。
二人の死は決定した。
そして憎くも、ヘムンドゥの血肉となってしまう。
肉体だけではなく、これまで培ってきた能力を。主神から承った異能をも。
どれだけ足掻こうと、全て、ヘムンドゥのものとなってしまう。
これにより『七天魔皇』の二席はヘムンドゥの手により殺害され、空席となったことは誰も知らぬこと。
そしてヘムンドゥ自身が、新たに殺した『七天魔皇』の2名だけではなく、その主神をも力や肉体を吸収し我がものとした。
そして、いよいよ本格的にヘムンドゥは動き出す。
「まだ、まだ足りねぇ。力だ。どんな奴でも圧倒する力だ!次に取り込むのは――――――あの2体のモンスターだよなぁ?」




