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☆最悪の兆し

お、おひさしぶり、ですぅ……



 《敗北》。


 その一言に相応しい終わり方だった。


 

 「ごふっ!?」



 手に持っていた『破邪(はじゃ)御太刀(おんたち)』がするりと手から零れ落ち、大地に音を立てた。そしてその『破邪(はじゃ)御太刀(おんたち)』の主である大御門彦乃も遅れて地面に倒れてしまう。


 彼の身体は黒服にも関わらず、そこから幾つもの赤黒い血が滲み出している事がわかるだろう。しかも三対六翼の純白の天使の如き翼も所々血が滲み、そしてその周りには白き羽根が雪の様に地に落ちていく。離れた場所には干将莫耶が地面に突き刺さっており、更には大盾や氷の細剣、光輝く槍までもが無残にも転がっていたのだ。



 「流石だわ彦乃。まさかここまで戦える様になっていたなんて……貴方の主としてとても、とても嬉しいわ」


 

 倒れた彦乃の前に白き軍服の少女が舞い降りる。全く傷一つは無く、ただ悠々と倒れた彼を見下ろすのだ。そして彼女は彦乃に向けて慈愛なる微笑みを向けるのだが、少し表情を曇らせてしまう。



 「でも、なんで?なんで人を守るの?こんな、愚かで、醜い獣達を」



 二人の周りは火の地獄と化していた。


 あらゆる建造物は崩壊し、コンクリートは瓦の様に至る所割れてしまっている。そして救急車の音が響き渡り、人々を救出する〈WAO〉の戦闘員達は見かけるのだ。そして怪我をした者達を次々に救出されており、彦乃と彼女の広範囲にはその二人しかいない。


 彼女―――――リエル・テケタクアの容姿をした何者かの問に彦乃は返す事は出来ない。彼女一人相手するのであればここまでボロボロにはなっていなかったのかもしれない。それにこれほど速く決着が着くことも無かっただろう。


 ただ、彼女が呼び出した相手が問題だったのだ。



 「漸く、大人しくなったか」



 セーラ服の様な制服の上から青と黒であしらった軍服に頭にも金の刺繍で刻まれた軍隊らしい帽子である『黒陽の衣』を纒い、腰に帯刀した日本刀と片手には大型長銃『ディテカル・テ・モルテ』を担いだ一人の女の子。


架空を現実にアエリアルリアリティー』という異能を有する者、高頭(たかとう)夕佳里(ゆかり)である。しかし、その姿はボロボロだ。しかし、彦乃程ではないがそれなりのダメージを受けている事から彼女がメインで戦っていた事が伺えるだろう。



 「まさか彼をここまで追い詰めるなんて、正直驚いた。貴女達と同盟を組んだ事に間違いはなかったと感じるわ」


 「私としてもこの戦いは有意義だったよ。まさか限界まで付与(バフ)を重ね続けれなければならないとはな。本来なら、私一人ではここまでいけなかっただろう。全く、即死技や即死道具をぶつけても全く動じないとは……まさしく彼自体がチート、というべきかな」


 「えぇ、彦乃は強いわ。当たり前よ。この私がサポートしてあげたんだから」


 「……その割には余裕そうだったがな。貴様一人でも十分足りたのでは?」


 「あらそう?けど、貴女の限界はこの戦いで超えた。まさしく[超越者]として覚醒したのだから感謝してほしいのだけど?」


 「[超越者]、か。意味は分からんが確かに前よりも凄まじい力を感じるな。確かにこれ程の戦い、その経験は私にとって素晴らしいものだ。これで他の勢力の頭と戦える自信は着いたかな。しかし、その女(・・・)はどうする。まだ死んではいない様だか」


 「勿論、彼は元々私の一部。だからと言って取り込むつもりはないわ。昔の時の様に、私と共にいるのよ」



 リエルの姿をした何者かは、足元からドロドロと黒い泥が地面に広がっていくのだが、その黒い泥は明らかに倒れた彦乃の元に伸びていく。そして黒い泥は触手の様に手を伸ばした瞬間、彦乃は微かに意識を取り戻したのだ。



 「ぐ……これ、は……!」


 「さあ、愛しい子よ。わたしの元へ、帰りなさい。ずっと、ずっと、一緒にいましょうね、ルシファー(・・・・・)


 「!」



 瞬時に不味いと思った彦乃であったが、時既に遅し。


 まるで強力な粘着力を有する黒い泥の触手が一瞬にして『破邪(はじゃ)御太刀(おんたち)』と干将莫耶を絡め取る様にして全て取り込まれてしまう。蟷螂に捕らえられ、必死に羽を動かし逃げようとする蝶の様に彦乃は白い翼を動かすのだが負傷している事もあり、思う様に動かない。



 「ちか、らが……!」


 「大丈夫。これからわたしの元へ戻るんだから……ね、彦乃」


 

 そして彦乃を包む黒い泥は一瞬にして全てを飲み込んでしまうのだ。飲み込んだ黒い泥は球体となるのだが、その球体はボコボコと中で暴れているのか激しい動きをしいる。



 「あの喋る3つの武器はいいのか?」


 「いらないわ、あんな忌々しい龍の欠片なんて。アレのせいで何度私の野望を阻止された事か……」


 「貴様がいいならいいが」


 「あら貴女達が使う?」


 「いや、そんな癖が強い武器を使いこなせる訳がないさ。それに武器ならば私自身の能力で幾度でも量産できる」


 「まあ!そこまで成長したのね。今の貴女とは戦いたくはないわ」


 「それはこっちのセリフだ」



 そう会話をしている内に彦乃を捕らえた黒い泥の球体はゆっくりとリエル?の元に到着したかと思うとその球体に彼女は両手で触れる。そしてゆっくり、ゆっくりと彼女の身体へ吸収されていくのだ。彼女はまるで我が子を抱き締めるかの如く優しく包み込んでいるのだが、その禍々しい泥の球体が異質さを引き立てている。



 「あぁ、漸く一緒になれる……あとは、彼だけ。それさえ終えれば、この世界に蔓延る獣達を一掃するだけ。あの時の様に――――――」



 リエル?は確実に彦乃を吸収するだろう。そしてその後どうなるかはわからない。だが、ただわかることはリエルの姿をした何者かと突如戦いに乱入した高頭(たかとう)夕佳里(ゆかり)の強さ異質さ。あまりにも危険すぎるのだ。


 そして何より、リエルの姿をした何者かは不味い。


 

 「(勝てない。絶対に勝てない“何か”のせいで、リエル様の姿をした奴に一太刀も入れられる事が出来なかった……何故かはわからない(・・・・・・・・・)ですが、気をつけなさい狐。恐らく彼女の言うとおりならば、貴方でも、勝てない。傷一つ、つける、ことな、ど……で、き……な…………)」


 




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