止まらぬ戦い
暫く投稿が出来ず、ごめんなさい。
『ここに宣言するぜぇ!!!このオレ。『悲劇の英雄』ディーレ・オンラートが妹ヘムンドゥ・オンラートは、この世界に蔓延る『勇者』共を蹴散らし、そして!!!この世界の覇王、『金剛』を倒すぜェ!!!』
突然、世界中の各国が有する通信用魔具、『通信玉』が突然ジャミングされ通信不能になったかと思えば、白き狼の獣人であるヘムンドゥの姿が映し出される。
突如、そんな事が起これば『通信玉』を有する各国の国王やギルドマスター。しかもグランドマスターの『通信玉』にまでそれは映し出されていた。他国と連絡をしている会議中であってもそれは問答無用に起こっている。
『さァ、『勇者』共を匿っている愚かな国々よ!テメェ等には今ここで宣戦布告を行う。そして『勇者』共に苦しめられてきた者共!今ここで復讐してやろうじゃねぇか!!!』
『勇者』を匿う国々。
匿う、とは違うが『勇者』や異世界からの『勇者』達を抱えている国は4ヶ国存在していた。そして、『勇者』達に苦しめられた者達にとっては『勇者』に叛逆するヘムンドゥは一種の希望の光に見えただろう。表では『勇者』らしく振る舞い、裏では『勇者』とは掛け離れた、むしろ悪魔の様な非人道的な事を快楽に感じて人の尊厳を奪う『勇者』はいる。それが権力を振り回し、かつての祖国を滅ぼされた者達もいるのだ。
『手始めにィイ、『勇者』を匿う国の一つ。そして『勇者』が王になった馬鹿なこのサウザラート国を潰してやるぜ!!!』
映し出された映像では、ヘムンドゥはギュルルルルっと今にも爆発してしまいそうな撥を振り下ろしたかと思えば、画面は激しくノイズが走っていく。しかもサウザラート国の近隣国だけではなくより広範囲にそのノイズが起きた数秒後、巨大な大地震が引き起こったのだ。
その大地震は一分以上続き、何とか収まったかと思えば『通信玉』に映し出されたのは、あらゆる建物が全て瓦礫と化して崩壊していた。更には巨大な爪痕が幾つもの地割れとなって残されている。その地割れは、地球にある高層マンションビルを飲み込む程の大きさと深さ。よく見てみれば、その地割れに人や建造物が落ちていく一部始終も生々しく映し出されていたのだ。
『おーうっ、いい眺めだなぁ?おい』
この光景を目の当たりにした各国の王や重鎮達は恐れただろう。もし、勇者を匿っていたのなら完全に崩壊したサウザラートの様になっていたのだから。そして実際に勇者を匿う、或いは抱える国々は戦慄していた。次の標的は、我が国だ……と。
『さーてさてェ……横槍入れたクソガキ二人もろとも吹き飛ばしたけど……まァ、いっか』
お気楽に辺りを絶景の如く清々しい表情で見渡すヘムンドゥ。けれどもやはり、その景色は絶景ではなく、むしろ真逆。絶景を天国と例えるなら今のサウザラートは地獄そのもの。
それは、あまりにもデカすぎる絶望を与えるには十分だった。
この場に、勇気ある戦士達の心をヘムンドゥとたったと一撃で砕け散ってしまっていた。
そして、ヘムンドゥは己の身体に変化が起こった事に気付いた。その変化は、彼女にとって些細な事だろうが……強者共からすれば新たな絶望を与えるものである。
『大勢殺したからか……?それとも、このオレの憎悪と憤怒が……新たな段階か。これは、兄上が至ったという[超越者]か。あの胡散臭ぇ神の言う通りになったワケかァ』
ぶつぶつ呟きつつも、ヘムンドゥは己の身体から桁外れに溢れ出る力を確認するかの様に片手を握り締めたり開いたりしていた。
だが、その時だったのだ。
『通信玉』が映し出されていた映像が消えてしまったのは。
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「あ〜……何してくれるんだよォ。貴重だったんだぜェ?」
己を映し出させていた『通信玉』は、突然何処かから投擲された剣によって粉砕してしまった事を溜息を着きながら愚痴るヘムンドゥ。
しかし、既に『通信玉』の役目は終えていた。
数百年前に偶然見つけた『通信玉』をジャミングして強制的に映し出す『通信玉』は、ヘムンドゥが己の力を世界に知ら占めること。そして反『勇者』的な組織や、元々苦しめられていた者達に教え、仲間を集めようと考えていたのだ。
十分だったが、もう一度何処か実際に『勇者』を匿う、抱える国を滅ぼす様を中継でもしてやろうとも考えていた。が、既に修復不可能になった『通信玉』にその役目は無理だ。
「けど……まァさか、アンタが出て来るとはなァ?」
その言葉の途中に、斬撃が通り過ぎる。
ヘムンドゥはその斬撃を、身体の向きを少し変えて交わしてしまうのだ。
「会えて嬉しいぜェ、『第三騎士』様ァ!」
「ヘムンドゥ!!!この……、裏切り者がっ!!!」
「おうおゥ、お前等の城をブッ潰したのがそんなにお怒りかァ?」
「……テメェのせいで、母上はッ!!!」
『七天魔皇』の一人、『シルヴァクス騎士団』の王である『女夜叉』ミュランの唯一の娘であり『第三騎士』でもあるエマは鞘に収められていた聖剣を引き抜き、宿敵であるヘムンドゥへ刃を向ける。
一方のヘムンドゥは、予想外の相手に愉快に笑うのだ。
前々からエマとヘムンドゥは衝突していた時期は多々あった。しかし、その度に周りに抑えられて殺し合いに発展する事等なかったのだ。
けれども、ヘムンドゥは王であるミュランを裏切っただけではなく、『シルヴァクス騎士団』の本拠地であった城を破壊してしまったのだ。
その結果、『シルヴァクス騎士団』の騎士達は全員無傷。その代わりに母親であるミュランが全騎士達を庇うようにして瀕死の重体を負ってしまった。
エマが帰ってきた時には、もう後の祭りだ。
全身包帯を巻かれ、必死に治癒を施す仲間達。無力さ故に、何も出来ずにいた部下達。母親の右腕の騎士は幅の名を叫んで、必死に死なせない様にしていた。
こんな状況を作り出したのは、直ぐにわかった。
エマは、己の部下だったヘムンドゥを自らの手で殺す事を決めてここまでやってきたのだ。
「腐っても元部下だ。この手で殺してやる」
「いいねェ!前々からお前は消そうと思ってたんだゼ!」
そうしてエマとヘムンドゥの戦いは始まった。
けれども、この戦いは既に始まる前から決まっていたのであった……。




