☆全能者
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突如、ゴウキとミラがいた場所の付近でコンクリートが爆せた。コンクリートはクレーターを作り、近くにある車や木々を衝撃と共に吹き飛ばされてしまう。あの大惨事があったというのに、人々はこんな真夜中の時間でも出歩いていた。それは日本という国の悪いところで、モンスターや災害が起こっても出勤させられる社会人ばかりである。
そして、その者達は幸運にも巻き込まれずに済んだが混乱は起きてしまう。
再びモンスターか災害が起こったと人々は混乱し、その場から離れていく。
「一体何が……」
「大将ッ!!!」
「っ!」
爆せた場所はモクモクとコンクリートの砂の様に細かな塵が晴れていくと、その場所に膝を着いた大御門彦乃が『破邪の御太刀』を防ぐように構えて、何かを耐えていた。
その彼の姿にゴウキは叫んでしまう。
「───くっ」
彦乃は額から血を流していた。しかも所々軽傷ではあるが傷だらけ。更には彦乃自身、何者かによって何度も攻撃を受けていたのか疲労が見えていた。
「ふふっ、嬉しいわぁ彦乃。私が授けた『破邪の御太刀』を使ってくれてるのね。でもね彦乃?貴方の『破邪の御太刀』、その太刀筋は全て見切ってるのよ?伊達に貴方達の主じゃないわ」
「───っ」
彦乃は後から舞い降りる様に現れたリエル?に睨み付ける。リエル?の身体には一切傷はない。まるで彦乃はリエル?に一方的にやられた様である。
「テメェ!!!よくもうちの大将を!!!」
「何者ですか、あの御方は」
初めて目撃したリエル?にゴウキとミラは戦闘体勢に入る。ここまで一方的にやられている彦乃は見たことがなかった。あったとしてもライバルである姫希との戦闘以来である。ここで三体一ならば勝機があるかもしれないが、彦乃は二人を制した。
「ゴウキ、ミラ。貴方達は<WAO>の者達と人々の避難を優先させなさいっ!!!」
「「!」」
彦乃は二人の協力を拒否し、避難へ回したのだ。ゴウキも一目でリエル?が危険な存在だと理解していた。だが、この判断を下した彦乃に拒否しようと動こうとするが、その前に彦乃自身が動いた。
「『破邪の御太刀』・『神剣・エア』。この二つはリエル様が私とあの狐に授けた二振り。ですが、私達が得物をそれだけしか持っていないと思っているのですか?」
彦乃は『破邪の御太刀』を己の身体に戻してしまう。
「来なさい!」
そして代わりに己の身体から抜き出したのは、彦乃の両手に握られた双剣『干将莫耶』。陽剣・干将、陰剣・莫耶を握った両手から風が発生する。風を発生させているのは彦乃の力だけではなく、『干将莫耶』の力だ。
『干将莫耶』は、どちらも"天剣"。
風を操る双剣であり、彦乃にとって『破邪の御太刀』では再現できない"速さ"を有する事が可能である。
「『干将莫耶』……陰と陽を司る双剣。中々面白い武器を手に入れたじゃない、彦乃」
「その余裕、何時まで続くのでしょうか」
「あら、言うように───!!!」
リエル?は銃口を彦乃に向けて引き金を引こうと人差し指に力を入れた瞬間、銃声と共に彦乃は一気に懐へ攻め込む。そして『干将莫耶』を両手に握り締め、干将・莫耶の双剣による二擊を下から上へ、翼を広げるように斬り上げたのだ。
リエル?は銃剣の刃で、干将莫耶の二擊を間一髪で防いだのだ。だが、その余波というべきか、その威力はリエル?の身体を吹き飛ばしてしまう。
豪速球の如く、吹き飛ばした彦乃はゆっくりと吹き飛ばしたリエル?の方へ一歩、一歩歩いていく。
「ゴウキ、ミラ。私は問題ありません。それに、これは……私の問題ですから」
「……けどよ、」
「ゴウキ……お願いします」
「…………わーかったよ、この頑固大将。いくぜ、ミラ」
「は、はい」
彦乃の命令によって人々の避難を優先する為にゴウキとミラを離れさせた。本当ならばゴウキは彦乃を無理矢理加勢するつもりだったが、今までにない彦乃の表情に察したのだ。
それは、悲しみと後悔の念。
そして、怒りだ。
あんなほんわかな口調だが、沸々と火山が噴火してしまいそうな程彦乃の怒りは頂点に達してしまいそう。だが、何かが原因で達する事が出来ないのだ。
「(……また、なのですか)」
彦乃は苦しむ。
吹き飛ばしたリエル?はビルの壁にぶつかっていたらしく、そこから煙を上げて姿を現したのだ。そのリエル?には傷一つついていない。服も汚れず、銃剣の刃も一片も欠けてはいない。
そんなリエル?はニタニタと、彦乃の心を抉る発言をするのだ。
「凄いわぁ、彦乃。そんな力があったなら───私を救えていた筈なのに」
「っ」
「彦乃がここまで強くなってるなら……姫希も強くなってるわね?うふふふ……私より、強くなっているのかしら?」
「貴女は……!」
「そんな力が、あの時二人にあればなぁ……」
「───!!!」
明確な殺意を持って、彦乃はリエル?に向けて干将莫耶を振るう。まるで激情に刈られた彦乃は、確実にリエル?の息の根を止めようと彼女の急所を狙っていた。
脳や首、そして心臓を。
「あはははは♪」
リエル?は笑いながら彦乃の攻撃を防ぎ、避けていく。しかし、彦乃の攻撃は防ぎ、避けられる程容易いものではない。防ごうと、避けようとしてと風の刃がリエル?の身体に傷を着けていくのだ。
だが、かつての彦乃と姫希の主たるリエル?はただ受け身になっているだけな筈がない。
「彦乃、言いましたよね?感情に流されていると、注意すべき点を見逃してしまう、と」
「っ!?しま───」
いつの間にかリエル?と彦乃が立つ地面に幾つもの魔方陣が浮かび上がる。
しかも、それは彦乃がよく知る紋様の魔方陣。
かつて自分達の主が最も得意であった魔法───『爆滅魔法』であった。
彦乃は気付いても遅い。
爆音が辺りを支配する。
コンクリートや木々を爆熱によって焼却されてしまう。ビルは爆風によって吹き飛ばし、横のビルを破壊してしまったのだ。爆発に巻き込まれなかったビルでも、近くならば衝撃波によって沈むように崩れてしまう。
そんな魔法を放ったリエル?は背中から龍の翼をはためかせ、彦乃がいたであろう場所へ見下ろしていた。
「過去の癖は……中々変わらないものね、彦乃───って、死んでしまったのかしら?少しは加減したのだけど」
「これで死ぬ訳無いでしょう?」
「───へぇ」
唯一爆発の被害を受けぬ場所があった。
それは、彦乃が立つ地面のみ。
そしてその爆発を防いだのであろうエンブレムの様な形をした土色の大盾が彦乃の前に聳え立っていた。『干将莫耶』を収納し、彦乃はその大盾を片手で持ちつつ、空いたもう片手にレイピアの様な細く突くために特化した白銀の細剣をリエル?に向けて突き出したのだ。
その細剣の刀身から丸太の様な氷柱が無数に弾丸の如くリエル?に襲い掛かる。リエル?は龍の翼を広げ、巨大な氷柱を飛んで回避していく。
「"エンブレムの盾"に"氷の細剣"……?そんな天なる武器は───」
「いきますよ、『サラアス』!!!」
『ほぅ、面白い。構わん、我の力、キサマに預けよう!彦乃!!!』
大盾を地面に突き刺し、彦乃は氷の細剣大剣の如く大きくそして太陽の様に明るい槍は今の夜空を明るく照らす。日の出の様に太陽の如く光輝く槍『金光龍サラアス』は彦乃と同調するかの様に彦乃自身の身体も明るく照らすのだ。
「『サラアス』……?まさかっ、彦乃───あの文献に記された『偉大なる龍帝』の『七天龍』!?」
「貴女をここで、殺す。リエル様の姿を被った蛮者がッ!!!」
「ふっ♪ヤれるならヤってみせなさい、彦乃?一度しか私に勝てなかった貴方達なのに」




