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本当の戦いを知らぬ者達へ



授業が終わり、放課後。


第二グランド場の使用許可を学園長から得て、シキはそのグランドの中心で準備を行っていた。


シキは何時もの白衣ではなく黒のタンクトップに、膝下まである白のスポーツ風のズボン。その下に黒のピッチリした黒レギンスを穿いている。両腕を己の背中に回し、何処からともなく魔力でできた包帯が両腕の自由を奪う様にグルグル巻きにされていくのだ。しかしそれは、シキ本人が意図的にやっていること。


そしてシキの近くにいるのは、二人の問題児。


朝比奈梨央とリトである。


二人とも武装した姿であった。


朝比奈梨央は、中世の暗殺者が着ていそうな服装であり手には杖が握られている。表面的には魔法を使用するだろうと思えるが、シキはその杖が仕込み刀だとは見抜いていた。更には靴・袖・懐に短刀や短剣を仕込んでいるのもである。


一方のリトは、朝比奈とは真逆な正統派な騎士の姿。全身鎧でではなく、手や腕・胸・足のみに鎧を付けられていた。華奢でスピード重視だからこそ、重量ある防具は全く向いていない。鎧を全身付ければ、そもそも華奢なリトでは身動きも取れないだろう。


そして獲物は古風なレイピアである。腰に鞘があるが、これが和に満ちた絵柄と作りなのだ。レイピア自身も刃自身に細く龍の紋様が描かれており、それがどれ程の価値を持っているかもの渡っていた。



「さて、これからお前達二人に試験を受けてもらう」



そう両腕不自由なシキは二人に言う。


シキの首から胸に掛けられる一つのネックレスが突如として現れた。そのネックレスは虹色に輝く真珠が掛かっていたのだ。



「俺がしているネックレスの真珠(これ)を取れば、合格だ。勿論ルールはある。俺は魔法等の異能は使わない。加えて両手もこうして封じている。使えるのは単なる体術のみ。そしてお前達二人は、何をしてでも構わない。さぁ、どうする?」



喧嘩を売る様な、挑発的な発言に二人はムッとしてしまう。何せ、明らかにハンデの差が有りすぎるからだ。


確かにシキはかなりの実力者だとは二人もわかっている。だが、ここまで手を抜かれる様な事をすれば二人のプライドも傷付くものだ。しかも今のシキの格好は、明らかに軽い運動をしようとするものである。



「先生……」


「いくらなんでも……」



不満が漏れる朝比奈とリト。


そんな二人の言葉に、的外れな発言をしてしまう。



「む?なら……そうだな。目も隠そう。これなら、どうだ?」



自ら両腕を拘束する為の包帯を、次は己の両目を塞いでしまったのだ。


目隠しに、両腕を後ろに拘束。


しかも麗人なシキだからこそ、男女問わず如何わしい絵図らとなってしまっている。思わずリトはゴクリと眉唾を飲んでしまうが、直ぐ様邪念を振り払う様に頭を左右に振って自我を保つ。


誰がどうみても、馬鹿にしているしか見えないだろう。


そんな武器も防具も無い、シキは普通ならば自殺行為でしかない。


しかし、そんな馬鹿すぎるハンデにリトを焚き付けたのだ。



「いーデスよ。泣いてもしりません、からネ!!!」



レイピアを構えたリトは、シキの真珠のネックレスに向けて疾走し、刃の尖端を突き出したのだ。脚をバネの様にして勢い良く飛び出したリトは確実に真珠諸とも、シキの胸を貫こうとする。


しかし───。



「よっ」


「っ!?」



まるで枝から舞い落ちる葉の様に、リトの突き出した刃をふわりと真横に避けたのだ。シキの横を通過し、リトは刃の軌道を修正する様に次は真横へ斬り振るう。


だが、シキの身体に掠りもしない。


ピョンっと体操選手の様に宙に跳んだのだ。


着地すれば、リトの目の前。レイピアを振り切っていた為にがら空きである。


シキは視覚が無い状況でも、リトの顔面に向けて片脚を上げ、まるで発射される槍の様に構えたのだ。


足の指も一点に収まっており、そこから弾丸の如く垂直な突き蹴りが放たれる。



「ぅっ!?」



顔を反らしてかわしたのだが、リトの頬に掠り傷を負ってしまう。それはシキの足の爪によるものではない。そもそも当たってはいないのだ。


確かに、シキの垂直突き蹴りは避けた。


だが、あまりにも速すぎる突き蹴りだった為に周りの風が一瞬にして極小規模な風の刃とやって掠った結果である。しかしそれほど大した怪我ではない為に、むしろリト本人は頬に風が強く当たった感覚しか無いため、掠り傷が付いている等とは気付かない。



「いい反射神経だ。が、下が留守だぞ」



気付けば、リトはふわりと宙へ浮かんでいた。


立っていた筈のその脚が、地面から離れていたのだ。


原因は勿論、シキ。


レイピアで突き、そして反撃を受けて回避したのはいい。


だが、問題がその後の体勢だったのだ。


アンバランスな状態では、両足に意識が拡散しており、そこをシキがしゃがんで刈り切る様に払った。その結果、リトは脚を滑らせたの様にお尻から落ちてしまう。



「ぃ゛っ!?」



レイピアも脚を払ったのと同時に手を離してしまった。くるくると宙に舞うレイピアをシキは右足の親指と人差し指で上手く柄を摘まむようにして持つ。まるで猿の様な芸ではあるが、シキの足指は手の指同様一般よりも長いのだ。すらりと細く綺麗な足指でレイピアを持っているが、流石に邪魔らしくそのまま地面に突き刺してしまう。



「うぅ~っ。お尻に痣が出来たらどうするんですカ……」




ぶーっ!と不貞腐れ立ち上がってお尻を触りながらぶつぶつと不満を言うリトであったが、瞬時に青ざめてしまう程の殺気を目の前に感じ取ってしまう。


そう。


立ち上がったのと同時に、シキの片足はリトの側頭部にあったのだ。眼球だけ、辛うじて見えていたリトであったがこんなの直ぐに対応出来るわけがない。



「(───あ、死んだ)」



無意識にリトは戦慄し、殺気という海に沈められたかの様な身動きの取れない状況となってたのだ。無情にも、残酷な事実を突き付けられたリトはもう、既に心が折れ掛けていた。


たった、一度の蹴りを目の当たりにして。



「……今の、死んでたぞ」



静かに告げられた瞬間、リトはまだ己が生きている事に理解する。そして横にはスレスレのシキの片足が静止していたのだ。無論、こんなところで殺しがある筈もない。だが、シキの殺気がどれだけ理解していても絶望的な死に直面していた様なものなのだ。



「ふ……ぇ……」



先程までの生意気な様子も無く、リトは初めて腰を抜かしてその場で座り込んでしまう。



「ぁ……ぁぁ……」



加えて、朝比奈もその光景を目の当たりにし、シキの殺気をリト同様に受けていたのだ。思わず、目の前で人が死んでしまう光景を過ってしまう程の残酷な現実をふいに脳裏に過ってしまった。


リトと朝比奈。


シキとのたった数分での戦闘で二人は戦意消失してしまったのだ。


本気の、殺気だけで。



だからこそ、こうなるのは仕方がない事なのだろう。



余りの恐怖で、リトと朝比奈の服の股から少し濃くなっているのだ。リトも朝比奈も漸く己のお股の状況がどうなっているか気付いてしまうとそれぞれが反応してしまう。



「ぅ……ぅぇぇ……」


「そん、な……」



既にシキによる殺気よりも、失禁した事に赤面し恥ずかしさで一杯になってしまう。リトと朝比奈がもじもじさせながら股を押さえるのを見て、シキも察したのだ。



「……やり過ぎたか?」



とりあえず、特訓は中断することおなったのであった。






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