怒濤の攻撃
バハムートと『機械精霊兵・TYPE:Δ』の激突。
それは大地を揺らしてしまいそうなものであった。
両者共に、浮遊して激突したのだが振動は辺りを酷く揺らす。まるで怪獣同士の戦いだ。どちらも取っ組み合いの様になっていたのだが、両手が塞がってしまう。
しかし、バハムートは大きな口を開けてエネルギーを溜めていく。このまま『機械精霊兵・TYPE:Δ』───デルタのがら空きとなった顔面に向けて光線を放とうとしていたのだ。
<塵になるがいいっ!!!>
そして、デルタの顔面は消し飛ぶ。
誰しもがそう思っただろう。
だが───。
<その瞬間を待っていたッ!!!>
デルタの瞳がキラッと光ったかと思うと、バハムートが口に溜める光線よりも凄まじいエネルギーが光った瞳に集まっていく。
そして────。
<目からビィィイーーームッ!!!>
目から光線をバハムートの口に向けて放ったのだ。
バハムートの口は、只でさえ膨大なエネルギーが溜まっていたのだ。それを解き放つ前にデルタの光線を受けてしまった為に、バハムートの口の中はやり場のない破壊的な爆発が起こってしまう。
<───!!!?>
バハムートは思わず、後ろに頭から大地へ墜落してしまいそうになるが……やはり、"神々を喰らいしもの"と言うべきか。体勢を立て直しながら後ろへ後退していく。
一方のデルタも、片膝を大地に着きそうになっていた。身体中から蒸気の様なものが発生している。かなりのエネルギーを消費したらしいが、恐らく原因は長らく放置されていたからだろう。どれくらい眠っていたかは分からないがメンテナンスをしていなければそうなるのは仕方がないだろう。
<グヌヌァァ……!キサマァ……>
<侮ったな、光る蜥蜴よ!!!……あ、ちょっと待って、あ、あれ……ガタが……?>
<この蛮行、許してはおけぬわ!!!>
バハムートは両手に己の身長と同等の巨大な剣を生み出しそれを握り締める。その巨大な剣には紋様が刻まれており、その紋様から聖なる輝きを放っていた。
<我が剣技、受けるがいい!!!>
二刀流で、バハムートはデルタの首と横腹を切断するが如く薙ぎ払われる。それは巨大にも関わらず天下一品なる剣技であった。それに反応が出来るのだが、肝心の身体が上手く動かなければならないと意味がない。まさしくデルタの今の状態だ。
しかし、バハムートはこの時、忘れていた。
相手はデルタだけではない、ということに。
「はァッ!」
「ふっ!」
バハムートの巨大な二つの剣を防いだのは、元の姿に戻ったシキと仮面女であった。シキは左腕を防ぐようにして剣を受け止めている。仮面女も薙刀の刃で火花を散らしながら防いでいた。
バハムートはこの二人諸とも、斬り伏せようするのだがシキの左腕と仮面女の薙刀に、己の刃が一ミリたりとも入る事が出来ない。
そんな状態の中、バハムートの真下の大地は心臓が鼓動したかの様に赤く盛り上がる。同時に真上には不自然な程に真っ黒な雷雲が発生していた。
この二つの自然現象を発生させたのは『大焦熱の番神』、『雷纏う猿獅』だ。『大焦熱の番神』は大地に向けて拳を衝撃と共にめり込ませ、『雷纏う猿獅』は浮遊して紫電が帯びた魔法陣を展開している。
<小癪なァ!!!このまま全て吹き飛ば───ッ!?>
バハムートはこのままシキ達諸とも己の尻尾で吹き飛ばそうとするのだが、身体中に氷の鎖によっていつの間にか拘束されてしまう。しかも壊しても壊しても、その破片から新たな氷の鎖が生まれ無限に増殖しバハムートの動きを封じ込めていく。
《……動くな》
それをやったのは『白き聖霊王』。何度も氷の鎖を生み出すには膨大な魔力とその操作能力が求められる。それを有し、極限まで極めた者だからこそこの芸当が出来るのだ。
<くぬぅぉぉ……!うっとおしィ───!?!?>
更なる攻撃がバハムートに襲い掛かる。
身体の関節部分が、次々に斬られてしまったのだ。
しかも『白き聖霊王』の氷の鎖によって何者かの気配を察知しても動きを封じ込められている為に思うように動けない。そして対処することも出来やしないのだ。
「───今から完全に封じ込めようぞッ!!!」
関節を斬ったのはゼンであった。
今までゼンの姿が見えなかったのはある準備の為である。それをバハムートに勘づかれぬ様に密かに動いていたのだ。
「"五護封印"!!!」
ゼンが両手を会わせると、バハムートを取り囲む様に赤・青・白・緑の四つの光の柱が出現する。その四つの光の柱の中心であるバハムートに向かって光が突き刺さるのだ。その突き刺さった四つの光は合わさり、黄金の光となる。その黄金の光こそ、バハムートの力を根本的に、そして一時的に封印してしまうのだ。
《『白き聖霊王』、そのまま抑えとけェィ!!!!『雷纏う猿獅』のォ、決めるぞぉォオ!!!》
《……任せろ》
《おうサ!!!》
更に『白き聖霊王』はバハムートに取り巻く氷の鎖を更に強固に縛り上げる。
そして地面から『大焦熱の番神』による大噴火、『雷纏う猿獅』による落雷を落とすのだ。
更にはゼンによる"五護封印"は筒状の結界にもなっており、中にはバハムートを閉じ込められている。大噴火する大地から雷雲による落雷は辺りに広がる事はない。"五護封印"による結界で完結するのだ。
<オォォォォォォ───!?!?>
攻撃をすることも許さず、ただ一方的に蹂躙されてしまうバハムート。幾ら"神々を喰らいしもの"であれ、これ程の怒濤の攻撃には耐えきれそうにない。
逸早く、シキは何とかデルタを引き摺り放り投げてバハムートから離脱していた。仮面女はバハムートに最後の攻撃を実行しようとしていた。
<か、かたじけない……>
「いや、助かった。礼を言う、『機械精霊兵・TYPE:Δ』」
<そうか……ところで、先の幼女は?>
「……」
<え、あれ?無視ですか?>
デルタにさっきの幼女は俺だよ☆と言うにはシキの覚悟が足らなかった。とりあえずその件は聞いてなかったことにして、左手に仕留める武器を生み出す。
左手には、同じく黒い色の球体が生み出されていた。
大きさは野球ボール程。
それを握り締め球体を潰したかと思うと、その球体は飛び散る様に広がりながらもその形は剣となっていた。歪な形であるが、まるで悪魔の枯れた片翼の様である。
長さは刀身だけで二メートルあり、握る柄の様な部分からも一メートル程の片翼の刃が伸びていた。
そして、ついにこの戦いに終止符が打たれる───
一瞬だけ、活躍したデルタさん




