巨兵の始動
新たな形態として真の神として顕現したバハムートとそれを対抗するシキと女神クシャルの眷族が戦っている中、カグヤの王は膝を着いて尋常じゃない程の激痛等が襲い掛かり今にも倒れそうになっていた。
原因は明白だ。
カグヤの国民、そして騎士達が負うべきであった負傷を全て一人で請け負ったのだ。『王者の導き』は破格の能力でありながら、一度使えば範囲によって使用者に多大なるデメリットを負ってしまうものなのはカグヤの王自身理解はしていた。
「ぬぅ……っ!(ここで、倒れる訳には……!)」
ここで倒れ、死ぬか意識を手放せば『王者の導き』は解除してしまう。それだけは、どうしても避けたかった。せめて、この全ての戦いが終わるまでは……。
「……っ、ぐほっ、が……っ」
やはり、万を優に越える者達の身代わりとなるのは身体が既に悲鳴をあげていた。口から吐血をしながらも何とか意識を保っている。
すると、カグヤの王の背後にある人物が現れた。
「……ぬ、翠君か」
「重症ですね、カグヤの王」
シキの分身の一つ、[森人族]姿の翠であった。翠自身、服も少しボロボロではあるが怪我はあまり無さそうだ。しかし、やはり本体に何かしら異変が起こると連動して翠自身疲労感一杯の様子。だが、翠は疲れた表情を表に出さずにそのまま両手をカグヤの王の背中に触れる。
「何を?」
「今からあなたの身体を治療します。私の全ての魔力を使って」
「よいのか?」
「本体からは了承は得ています。……ですが、一つ。カグヤの王にお願いが」
有無を言わさずに翠は己の力を注いで[治療術]を発動する。これは翠の魔力が尽きるまでは無限に心身共に回復していく。しかも翠の魔力は全身全霊の[治療術]を施してもそうそう尽きることはない。
「……なんだ?」
カグヤの王は、翠から一つのお願いについて耳を傾ける。
「『クリュプトン遺跡』、その遺跡に鎮座している"あのゴーレム"をお借りしたいのです」
「何に使うつもり……いや、この状況ならば、1つ。そういうことなのだろう?ならば構わん……頼むぞ」
「ありがとうございます」
翠はカグヤの王からの了解を得て、その件を『クリュプトン遺跡』に待機しているラヴィ達へテレパシーで伝達していくのであった。
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カグヤ』の首都『キョウラク』に存在す大規模な遺跡、『クリュプトン遺跡』。
今のカグヤでは、一つの避難所として多くの住民が避難していた。しかし、遺跡とは言っても国が元々遺跡の中にある数々の物を保管する為でもあったのだ。
カグヤの騎士や遺跡の職員達が、避難した住民達の誘導を終え辺りを警戒する中、真紅のツインテールをした少女───ラヴィはこの、『クリュプトン遺跡』の中心に鎮座される人型のゴーレムを見上げていた。
「事態はここまで深刻になろうとは……余の弟でも荷が重い。だが、丁度良かった。こやつを叩き起こせば、あの風の蜥蜴を抑えられるだろう、なっ!」
ビシッとキメ顔で言うラヴィであったが、直ぐ横には今にも泣きそうなアイリスの姿があった。アイリスはシキがこの場に飛ばされたのだが、その時から腰を抜かしていたのだ。そんなアイリスを介抱するマシロも心配そうな表情である。
「ラヴィねーさま……とーさまが」
「なの……」
「なあに、アイリス・マシロ。余の弟は無事だ。今から助けるから安心するがよいっ!」
ラヴィはアイリスとマシロを安心させようと胸を張って言い放つ。事実シキが無事なのは翠からテレパシーで確認済み。しかし、色々とドジったらしいのだが……。
「(しかし、本当に丁度良い。今日は弟に頼まれてこやつの調査をしている中だったからな……にしても)」
人型のゴーレムを見上げて思う。
正直ラヴィからすれば、何故この世界にあるのかというのが心の第一声である。
この人型のゴーレム─『機械精霊兵・TYPE:Δ
』。
紛れもなく、シキとラヴィの世界のものである。
しかも、このタイプとは異なるものを知っている為に余計に決定付ける決めてとなったのだ。
更にはこの『機械精霊兵・TYPE:Δ』───『機械精霊兵シリーズ』を生み出した製作者は何を隠そうあのマキナである。
「(あのマキナに色々と、無理矢理聞かされていたからなっ。何をどうすればかは先程確認済みであるっ!)」
既にこの『機械精霊兵・TYPE:Δ』は前にシキがカグヤの王に許可を得て行っている最中だったのだ、この災害が起こる前までは。
「シリル、リラ。二人を頼んだぞっ」
「承知です」
「わかった」
シキの従者である猫の獣人、シリルとリラはラヴィの命に承諾する。しかし、シリルからすればラヴィ達の事も大切だがシキの事も心配である。だが、今この『機械精霊兵・TYPE:Δ』を起動させなければこの災害を止める一手が打てないのだ。それをしない限りシキの助けにもならない。
今はこの『機械精霊兵・TYPE:Δ』を起動させる事が優先すべきことである。それ事態はシリルも理解はしていた。
「さて……」
アイリスとマシロをシリルとリラに下がらせて、ラヴィは『機械精霊兵・TYPE:Δ』の前へ向かう。
やる事は、簡単。
起動する、だけである。
この『機械精霊兵・TYPE:Δ』は電源が元から切れているだけなのだ。その他の箇所の欠損は見られない。恐らく新品ではあるが、電池を抜いてそのままにしている感じである。
そして目前で立ち止まった後、周りから避難住民や騎士達に見られながらも躊躇せずに足元から真紅の魔方陣を展開する。その範囲は『機械精霊兵・TYPE:Δ』が丁度入れるまでだ。
ラヴィは『機械精霊兵・TYPE:Δ』に起動を行う。
『機械精霊兵・TYPE:Δ』は身体を控えめに淡く発光しながら起動音と共にメッセージの如く音声が流れていく。
───第一段階、冷却、開始……完了。
───第一プログラム、接続……異常無し……完了。
───第二から第四段階、『機械精霊兵・TYPE:Δ』、内部結界、接続……結界解除。
───『機械精霊兵・TYPE:Δ』、解放、確認。
───第二プログラムから第五プログラムへ……『機械精霊兵・TYPE:Δ』、自立型プログラム、接続……開始。
───第五段階、『機械精霊兵・TYPE:Δ』、身体機能異常無し。装備、武器"高周波ブレード"、"LLS-6240"共に紛失確認。両翼・コア・ライト・レフト共に異常無し。
───最終段階、移行。
───『機械精霊兵・TYPE:Δ』、起動……開始。
───『機械精霊兵・TYPE:Δ』、自立型プログラム、起動。
───『機械精霊兵・TYPE:Δ』、起動します。
───『機械精霊兵・TYPE:Δ』、人格、覚醒。
───起動者がこの『機械精霊兵・TYPE:Δ』の操縦者となります。名前をご記入ください。
「余はラヴィ!『機械精霊兵・TYPE:Δ』、一刻も早く起動せよ!」
───《ラヴィ》様……記録完了。では、『機械精霊兵・TYPE:Δ』を起動します……御武運を。
「うむっ!」
『機械精霊兵・TYPE:Δ』の身体はゴゴゴゴ……!と『クリュプトン遺跡』全体に振動が響き渡る。しかし『機械精霊兵・TYPE:Δ』の身体から『クリュプトン遺跡』全体に回路の様な線が伸びていた。その回路のお蔭か振動はするものの『クリュプトン遺跡』自体は全く崩れそうにはない。
そして振動がぴたっ、と収まると次は『機械精霊兵・TYPE:Δ』に異変が起こる。
今まで王座の様な椅子に鎮座していたのだが、そこからゆっくりと立ち上がろうとしていたのだ。本来ならば長い年月に積もったりしていた土砂や岩が落ちてきそうだが、ここ『クリュプトン遺跡』の職員達が、毎日遺跡全体の清掃等をしている為にそんなことは起こらなかった。
「おぉ……!」
「まさか、あのゴーレムを動かす者が現れるとは……」
「わあぁ……!」
「なんと、人のようにスムーズに動けるのじゃ……」
周りからは、まさかあのゴーレムが動くとは思いもよらなかっただろう。避難住民だけでなく、騎士達にも動揺が隠せない。
『機械精霊兵・TYPE:Δ』は立ち上がると、静かにラヴィを見下ろす様に銀瞳を光らせる。
「(目覚めたのはいいものだが……問題はここからだな)」




