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新たな左腕

皆さん御気づきかと思われますが……



最初に仕掛けたのは、バハムートであった。


巨大な両翼を広げると顔面からシキ達へ突っ込んできたのだ。


大地を踏みつけるその巨大な足の下には軽い地割れが起こっている。そして二歩目でシキ達のいる場所目前となる。これは巨大なジャンボジェット機が突っ込んでくるのだ。



「ハッ!まるで猪みたいね、あの蜥蜴」


「……協力」



前に出たのは仮面女と『白き聖霊王(レタルキュゥトス)』である。両者ともに氷を操る能力を有しているのだ。


仮面女は迫るバハムートの身体の先頭、頭部に向かって薙刀を真後ろに構える。『白き聖霊王(レタルキュゥトス)』は周りにシャーベットの様に細か過ぎる氷の結晶を螺旋を描くように放出されていた。



「せぇ……のォ!!!」



仮面女は構えた姿勢で保ちながらもそのまま自ら迎え撃つ様にバハムートに向けて駆けていく。後ろに構えていた薙刀の刃はペキペキと音を響かせながらあっという間にバハムートの巨大な太い首を切りおとせれる程の大きな氷の刃が生えていた。


そして、仮面女はあと一秒でバハムートの顔面が衝突するギリギリで、氷の刃が生えた薙刀を、下から掬い上げる様に振り上げたのだ。



「GyooaaA!?!?」



バハムートの左側面顔に、仮面女が持つ氷刃の薙刀の傷を受けてしまう。下顎から左目まで、巨大な傷である。しかも突撃してきたバハムートの身体も掬い上げる様に上に反り返りそうになってしまう。



「……閉ざせ」



白き聖霊王(レタルキュゥトス)』はバハムートが身体を真上に反らした瞬間を見計らって、フローズン状の氷の結晶達をバハムートに向けて、津波の様に襲いかかったのだ。案の定、その氷の津波はバハムート全身を覆ってしまい、巨大な氷の彫刻へ変わってしまった。



いや、違う。



それは、『白き聖霊王(レタルキュゥトス)』が凍て尽くしたバハムートは、風の残像であり、本体は……。



「ッ!?」



女神クシャルの背後に突風と共に唐突に現れる。


バハムートは大口を開けて女神クシャルを人のみしようとするのだが、当の女神クシャルはあまりの行動速度の速さに目や気配が追い付いていなかったのだ。ギリギリで背後に現れ、気付いたのは奇跡的であり紛れであった。しかし気付いただけであり、身体は指一本全く対応が無理があったのだ。




「その巨体で、この速度。いやはや、化け物か」



だが、バハムートの背後に新たな強い気配が現れた。


バハムートは直ぐに気付き、女神クシャルを喰らうのを一旦諦めてその背後の気配を潰そうと身体を拈り、吹き飛ばそうとする。



「主は女神の背後を取ったつもりだろうが……私も貴殿の背後を取らせてもらったぞ……ッ!」



バハムートの背後を取った者、ゼンは杖の仕込み刀を抜刀するとバハムートに向けて一直線に剣技のみで吹き飛ばしたのだ。バハムートの身体はパチンコ玉が弾き飛ばされたかの様に面白い位に吹き飛んだ。



「畳み掛けるぞぉ、『雷纏う猿獅(いかづち)』のォ!!!」


「あいよっ、『大焦熱の番神(おやっさん)』っ」



大焦熱の番神(イフベロート)』、『雷纏う猿獅(ポンカ・モンラ)』は吹き飛ばされたバハムートに向かって怒濤の追い込みをしていく。


大焦熱の番神(イフベロート)』は己の丈以上もある巨大な大鎚だ。その大鎚自体が溶岩で出来ており、てっぺんかは溶岩がドロドロと垂れている。中心がマントルの如く灼熱の鼓動を放っていた。


一方の『雷纏う猿獅(ポンカ・モンラ)』は如意棒の様に長さを自在に操る雷の棒を両手で別々に生み出すと、その棒の両尖端から雷の刃が現れる。それを手で回しながら、己の構えの姿勢で引き締める。


そして両者は全速力で吹き飛ばされたバハムートの元へ移動し、そのまま己の武器を投擲したのだ。投擲される様な武器ではないものの、『大焦熱の番神(イフベロート)』は衝撃を、『雷纏う猿獅(ポンカ・モンラ)』は身体を傷付け、動きを制限させてしまうのだ。


武器を投擲し、失っても己の力で次々にバハムートへ過剰だと思われてもいい程の攻撃を連続していく。


周りに被害を与えぬ様にバハムートを氷の分厚い壁を生み出す、『白き聖霊王(レタルキュゥトス)』。そしてバハムートはそれから逃れようと羽ばたき、抜け出そうとしても上空からゼンの斬撃とカグヤの王の身体から放出し顕現した『神聖帝獣ナテアクナラ』もバハムートの喉笛を噛みついて逃がさぬ様に押し込む様にしているのだ。



「それだけでは……!」



明らかにバハムートが劣勢に見えるのだが、それをシキは自分達が優勢だとは思っていない。むしろどちらも優勢か劣勢か等という経過はまだ経っていない。


シキはふと己の左腕を食らい、黒い粘液となった《変刑武器(トランス・ウェポン)》を目を落とした。



「お前は……」



黒い粘液となった《変刑武器(トランス・ウェポン)》。


その姿は、まさしく得たいの知れないもの。


しかし、シキは今の《変刑武器(トランス・ウェポン)》に何かを感じ取っていた。


粘液をぐにゃり、ぐにゃりとまるでシキの失った右腕部分に向かって手を伸ばす様な。しかし、《変刑武器(トランス・ウェポン)》は何かを躊躇している様子でもあった。まるでシキに何かを伝えているのだが……。



「……っ」



左肩から血が流れる。


だが、少しずつ自らの身体で治療を行っているので徐々に治癒されていく。しかし、左腕は失ったままだが。


あの千切れた左腕であれば、この状況ではくっつけるのは無理だ。《変刑武器(トランス・ウェポン)》が取り込んでいなくても諦めていた。



ズズズッと《変刑武器(トランス・ウェポン)》は黒い粘液の姿で、シキの左肩へちょんっと触れる。


しかし、それ以外は何も起こらない。



「……頼む」



シキは《変刑武器(トランス・ウェポン)》に向けて言う。


一体何を意味するのか。


それは直ぐにわかるだろう。


黒い粘液はシキの左肩にくっついたのだ。


しかもグシャッ、ゴキュッと不快な音を立てている。



「ぐ……っ、はぁ……っ!」



シキの表情が苦痛に変わる。


左肩から伸びる様に細長くなるのだが、それはまさしく触手。太くシキの左腕程の太さはあるだろう。まるで人形に不要な物を粘土でくっつけたかの様なものだ。明らかに異物である筈のものを、シキは何故か受け入れてしまう。


しかし、不快な音が無くなると次は本体の方が変化を遂げる。ぐにゃりと形が歪むと徐々に形が鮮明となっていく。粘土で少しずつ形を整え、調節していくかの様な……。



「GooooooOAAAAAAA!!!!!」


「ッ!?」



どうやらバハムートはゼン達を吹き飛ばして強引に上空へ躍り出た様だ。傷は仮面女に斬られた顔のものだけである。それ以外は傷にはならなかったらしい。しかしダメージは多少は受けているだろう。


バハムートは女神クシャルよりも先に邪魔者であるゼン達を排除しようと咆哮を上げる。


その咆哮に誰もが怯んでしまう中、シキは立ち上がってバハムートの元へ歩んでいく。



「……ふぅ」



気持ちを整える様に深呼吸をするシキ。


そして、左肩にくっついた《変刑武器(黒い粘液)》は漆黒の腕となり爪は暗黒銀(ダークシルバー)が獲物であるバハムートに向けて牙を見せる様に静かに輝いていた。



ノクターン、挑戦しちゃったっ( ̄∇ ̄)

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