激情の風
その時、倭国『カグヤ』の首都『キョウラク』に神風の爆弾が王宮を粉砕させ地獄の業火と化した。
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荒れ乱れる乱気流の中、それは咆哮する。
暴風を纏わせ、嵐を呼び寄せる。
そこは、それの支配権。
あらゆる空を優雅に舞い、泳ぐモンスター達は、まるで翼を失ったかの様に大地へ落ちていく。
それしか、空を舞うことを許されぬ。
他のモンスターが飛べば、悉く失落していく。
『GoaaaaaaaaaaAAAA!!!!』
嵐はまるでそれに付き従う従者の如く、広範囲でどんどん増加していく。
嵐は一つではない。
様々な嵐を別々の生命の様に、生きているかの様に空間ごと巻き込んでいく。
『Gooo……!』
見ツケタ。
それは怒りを露にしながらも、ようやく怒りをぶつけられる神を発見しニヤリと笑みを浮かべていく。
その顔は、まさに悪魔。
だが、それに付き従う嵐はそれの感情を代行するかの様に大爆発が何十にも連鎖するかの様に辺りを文字通り吹き飛ばした。
よくも、我の城を。
よくも、我を殺そうと。
よくも、我の邪魔を。
よくも、我の平穏を。
よくも、この下界へと。
憎悪がますます溢れていく。
それは、その神がいる国の上空に現れると、大きな口を開けてエネルギーを集める。
ふと、懐かしくも忌ま忌ましい気配を二つ感じ取れるが、それにとってはもうどうでもよい。
この一撃で、全てが破壊されるのだから。
狙うは、その国の中で背が高い建造物。
あれが神殿なのか、王宮なのか、はたまたこの国のシンボル的なものなのかはわからない。
しかし、それにとって……その背の高い建造物はこの一撃を投下する目印となる。更に都合の良いことに、その建造物の中に忌々しい神がいるのだ。
どうやらまだこちらを気付いていない様子。
何をしているかはわからないが、何とも間抜けな神だとそれは思う。
だからこそ、天を統べる自分に跡形もなく喰われるのだ。
この下にいる神も直ぐに自分に喰われ、力と糧になるだろう。
そう嘲笑いながら、それは口から放った。
無慈悲とも呼べる、最悪の一撃を。
~~~~~
それは、一瞬だった。
激しい空間の震動が起きたかと思うと、目の前が真っ白になった。
「……ぇ」
辛うじて、学園には被害は免れた。
……いや、免れたのではない。防がれたのだ。
しかし、学園の校舎は表面が消し飛んでおり教室から壁が無くなってしまっている。
全教師・学生達にはその被害に巻き込まれなかった。
だが、壁が無くなった景色が、余りにも悲惨だ。
王宮だけでなく、外から見える建造物が全てが藻屑と化していた。
いや、建造物だけではなく、大地をも抉れており王宮があった場所であろう所から巨大なクレーターが出来ている。
「……とー、さま?」
アイリスは震えた声で言う。
一瞬であったが、その爆撃の如くその破壊が起きた直後、シキの分身が身を呈してアイリスだけでなく、学園を守ったのだ。しかし、分身は衝撃と共に消滅している。
ここからではわからないが、学園長ビティーカも先程の衝撃から学園を守り切っていた。あくまでシキはアイリス達がいた教室のみを守っただけ。後は全てビティーカが守りきった。しかし、ビティーカは血を流して重症でありながらも耐えて膝を着いている。
神の眷属と名乗る襲撃者も衝撃によって気絶しており、他のクラスメイトや教師等は意識があるものないものに分かれている。
姉であるマシロは、狐耳を垂れて莫大な先の音に怯み、怯えていた。
「……とーさまっ!」
「アイリス、待ってなのッ!?」
アイリスは危険な状況にも関わらず、教室から飛び出して父親であるシキの元へ駆けていく。
父親が心配だった。
父親を失う事に恐怖した。
今すぐに父親の安否を知りたかった。
只でさえ、危険な場所に居たのであろう父だ。
駆けて、駆けて、駆けていく。
途中瓦礫に躓いて転んでしまうが、そんなのは関係ない。
走る道中、奇跡的に無傷の人々に止められようとするが、制止を振り切って王宮跡へ向かう。
しかし……。
「GooooOOO!!!」
「ひッ!?」
目の前に、漆黒の超巨大なドラゴンがアイリスを捉えていた。
いきなり現れたのだ。
上空から。
まるで重力に従って落ちてきたかと思えば、風圧を周りに吹き上げて着地前に停止したのだ。
ジャンボジェット機よりも一回り大きい。
ドラゴンの瞳に、アイリスの姿が映る。
「GyoaaaAA!!!」
ドラゴンは咆哮する。
目の前にいる、存在は。
かつて、自分と海の派遣争いに蹴散らされてしまった相手……忌々しい海の支配者の力を、その人の少女から強く感じるのだ。
それと同時に、自分の邪魔をした憎き"翡翠の巨鳥"の力も近くに感じる。しかし、その"翡翠の巨鳥"は怒りに任せて斬殺し、それを喰らったのでまだ海の支配者に対する怒りよりかは大分マシだ。
憎き、海の支配者。
しかし、海の支配者にしては薄い。
まるで、半分になったかの様な……。
片割れということは海の支配者の子か、とそれは怒りを込めた唸り声で、目の前の人の子に狙いを定める。
例え、海の支配者の子だとしても関係ない。
その子を食い殺し、己の力の糧とするのみ。
子が食い殺されたと知れば、自ずと海の支配者も激情に刈られて殺しにくるだろう。
それこそ、今一度、どちらが真の海の支配者かを決める時だ。
そして、海の支配者だけでなく陸の支配者をも食らい空・陸・海の支配者となる。
最終的には……この下界に落とした神々を虐殺するのみ。
「ぁ……ぃや」
それ……空の支配者は、アイリスがいる場所ごと丸のみしようと大顎を限界まで開いて襲い掛かる。
まずは、今の怒りを込めて先程放った一撃を至近距離で放ち、仕留める。
このままでは、アイリスは空の支配者に殺され、喰われえしまう。
だが、ここから逃げ出そうにもアイリスは空の支配者というあまりにも強大すぎる相手に腰を抜かしてしまった。
もう、助からない。
アイリスは迫り来る巨大な空の支配者の口に思わず目を瞑ってしまう。
そして。
空の支配者の一撃は大地もろとも吹き飛ばした。
大小様々なサイズの瓦礫も砂のように細切となっていた。
しかし空の支配者は違和感を感じ取る。
目の前に殺した筈の海の支配者の子の気配が全くないのだ。
直ぐに海の支配者の気配がする方に向くと、瓦礫の山に一人の人物が背を向けてしゃがんでいる。空の支配者はその者が只者ではないと瞬時に理解すると大きな両翼を広げ、同格相手に対してのみに行う特別な威嚇をしたのだ。
背を向けた者は右手でアイリスを抱えて瞳だけ空の支配者へと鋭い眼力で睨み付けていた。
「と、とーさま……?」
「アイリス、怪我はないか?」
「ぅ……うんっ。……う、ぅぇぇぇ……」
恐怖だったのか、アイリスは父であるシキの胸に顔を埋めて泣いてしまう。
無理もないだろう。
巨大な生物が、己を殺そうとされてしまえば子供だけではなく大人でも恐怖し、泣いてしまうのは仕方がない。
シキは狐の獣人族となっており、十の尾を今の感情を現しているのかメラメラと揺れている。
しかし。
今のシキは非常に危険な状態でもあった。
空の支配者の最大出力を粉砕したのだ。アイリスだけでなく、他に周りにいる者達に対して更なる被害を出さないために。
最大の一撃を、防いだ。
しかし、その代償が。
「(しくじったか)」
今のシキは己の尾で、左腕を隠していた。
いや、本来ならば隠す必要もない。
シキの左腕は空の支配者の近くにボロボロになって落ちているのだから。




