大切『だった』彼を、姉妹は目撃する。
( ノ;_ _)ノ
壊れかけていた空間。
しかし、最後の崩壊は起こらない。
何故ならば、その空間は新たな主によって改造・そして修復されてしまったのだから。
先程葵がやった様な同じ手段では通用しない。
「……まさか、この空間を掌握したのかい?」
「オウッ!察しがいーな、そこのねーちゃん。そうだぜ、ちょっくら空間を貰ってやったのさ。やー、いいぜ?流石は神が生み出した力ってか?」
ラマは新たに再構築されたラマの空間を見渡しながら、随分楽しそうな様子だ。
空間の広さは先程よりも広い。
「……学園長」
「わかってるさ葵君。後ろは任せて」
学園長ビティーカは杖をくるりと回転させると、ラマの四方八方に幾つもの魔法陣が現れる。
しかし、それは単なる魔法陣ではない。
魔法陣らしからぬ、六角形や八角形等カクカクした形。
それらは同じ形同士、ラマを挟む様にして展開されていたのだ。
「オゥ?なんだ、これ」
「ちょいと、動き……止めさせてもらうよッ!!!」
ラマを挟んだ幾つもの魔法陣が発動する。
同じ形の魔法陣が線が通ったかの様にラマの身体を貫いていく。しかし、ラマはただ興味深そうに己の身体を貫く光に観察するだけ。どうやらラマ自身害はないらしい。だが、身動きは取れないらしく、クエスチョンマークを浮かべているラマ。
その間に、葵は胸に穴が空いた神の眷属である魔女を透かさず救出する。
「ゴホっ……な、ぜ……?」
「喋るな」
葵は魔女の血だらけの胸の穴に右手を優しく触れ、そのまま左手で右腕の袖をたくしあげる。そこに露となった華奢で細い腕。しかし、そんな色白の肌からうっすらと翡翠色の紋様が浮き出てくる。
「……っ!」
その紋様は腕にしかなかったのだが、まるで雫が落ちる様に腕から手へ移動していく。
そして。
「う゛……っ」
掌から優しく爽やかな翡翠の雫が一滴、魔女の胸に空いた部分に落ちたのだ。
落ちた瞬間、魔女は声にならない声を短く上げてしまう。
空いた血だらけの穴が空いた胸に異変が起こる。
穴が空いた傷口から目に見えない細い糸が規則正しく絡み合い、そして修復されていくのだ。しかも彼女の血までも糸の材料とされじわじわと治癒されていく。
しかし、この治癒は魔女の体力を使ってしまうものらしく無事に胸が綺麗になった後に彼女は気を失ってしまった。
「ヘェ……それがノゾムの力か?」
「……」
ラマは随分面白そうなものを見物しながら葵に問う。
しかしラマからの問いを鋭い眼光を左目で返す葵。
葵は近くにいた、己の真紀と真理へ気を失った魔女を躊躇なく渡した。
「えっ!?」
「あ、あの!」
「それ大事な情報源だ。殺すな」
そう短く早口で真紀と真理の二人に魔女を押し付けると、直ぐに『ジルヴァラ』の銃口をラマに向ける。
葵のその姿を彼女達……真紀と真理は、一瞬、自分の弟……兄の姿に重なったのだ。
何かに立ち向かおうとするその姿。
華奢でありながらも、しかしとても強く逞しいその様は。
かつて、爆発で泥人形と共に死んだとされる葵。その葵が、明らかに危険な存在に立ち向かう姿と葵と姿が重なった。
「あおい、ちゃん……?」
「にい、さん……?」
しかし二人の声は届かない。
二人がその言葉を溢してしまうのと同時に葵は『心象・《死ニ至ル影女王之槍銛》』を『弾丸化』を装填された『ジルヴァラ』をラマに向けて躊躇なく引き金を引いたのだ。
爆音が響き渡り、弾丸はラマの心臓へ狙っていく。
「へぇ!それ、前にやったやつダナ?」
ラマは右手を弾丸迫る目の前に向けて振り払うと暴風がこの空間に広がり、うねっていく。
弾丸は暴風によって真上に起動を逸らさせたのだ。
「だが、ソレは前にも見たから……二度はつーじねぇーゼ?」
「それは、どうかな?」
「あン?」
葵は弾丸が逸らされたことに動揺しておらず、むしろ余裕そうにしているラマに失笑している。ラマはそれはどういうことだ、と思っている最中、ラマの身体がドクンッ!と大きく振動した。
「……オイォィ、なんつー力だよ……この弾丸」
ラマは己の油断という甘さに思わず笑いながら口から血を流した。
背後に、起動を逸らした筈の弾丸がラマの背後から襲ったのだ。流石に弾丸が追尾するとは思わなかったのだろう。まだ小型のミサイル等であればまだその可能性があると油断はしなかっただろう。
「ったく……なんダ、これは。メチャいてーじゃねえかヨ」
明らかに心臓は潰した筈だ。
しかし、心臓が潰れてもラマはケロっとしているのだ。
だがラマの発言とその様子から見るにただ久々の痛みに驚いただけ。
急所を射た筈なのに、全く負の状態がラマには起こらない。そんな様子を怪しく警戒しながら己の周りに展開した『光の数珠』を近くに漂わせる。
そんな様子を眺める様にラマは右手をゆっくりと葵に向けながらつまらなさそうに言う。
「おいォーィ……そんな隠しながら戦うなンて……もってーねーじゃンっ!!!」
右手から鎌鼬の様な鋭く、皮膚を容易く斬ってしまう様な幾つもの風の刃が葵に襲い掛かる。
透かさず葵は『光の数珠』の光の珠一つを残して、全てを光の刃と化して風の刃を歯車を止める様に相殺させていくのだ。
しかし……。
「っ!」
「ほぉら、隠すもの……無くなっただロ?」
足元に千切れた白い布が落ちる。
葵の素顔が、露となったのだ。
葵は苦虫を潰したかのようにラマを右目に宿る金色の瞳と共に睨み付けていた。
「お前……」
「オうぉウ!そんな布を隠してたら、オメーの全力……出せねぇーだロ?」
ラマが言う事は正しい。
実際に葵には白い布で隠していた右目『永久之右眼』を使っていなかった。しかしこれはあくまで奥の手の一つなので、何れは使うことになっていただろう。しかし、葵が苛つきを見せるのはそこではない。
義理の姉妹や他のクラスメイトの前で、己の正体が破られてしまったからだ。
「うそ、だろ……?」
「さくらま、くん……」
「い、生きて……いた、のか……」
「……あぁ」
かつてのクラスメイト達は髪と瞳の色が違うとはいえ、直ぐに葵が葵だと理解してしまう。
殆どが喜びや安堵はなく、むしろ逆。
自分達の手によって、死に追いやった彼を……恐れていたのだ。
もしかすると、彼は自分達に復讐してきたのではないか……と。
今の状況からして明らかに自分達を守る立ち位置となっているが、いざとなればかつて自分達がやった様に役立たずとして生贄にされるのではないかと葵のクラスメイト達は恐怖している。
恐怖するクラスメイトよりも、真紀と真理は言葉を詰まらせる様に酷く葵を見て驚いていた。
しかし、同時に安堵していたのだ。
葵は……兄が、弟が、生きていたのだ、と。
無事だったのだ、と。
だが、今の葵は昔とは似つかない。
優しくほんわかとした風貌が、容易く人を殺すことを躊躇わない、冷酷な目をしている。昔の様に優しい彼ではない。
自分達は、彼を見捨てたのだ。
いや、殺したのだ。
正確には違うが、それと同義である。
だからこそ、真紀と真理は葵に声をかけることすら出来なかった。
「さあて、盛り上がってきたゼェ!!!」
「ふっ!」
「おぅ!?」
葵は残していた『光の数珠』の光の珠一つをラマに向けて蹴り飛ばしたのだ。
光の珠は、ラマの顔面にぶつかりそうになるがラマは直ぐに反射して後ろへ下がりそのまま横へ避けてしまおうとする。しかし、その前に光の珠は激しく痛々しく発光し、この空間を眩しく照したのだ。
それは、相手の視力を奪うもの。
短時間でしか効果は無いが、右目の『永久之右眼』であればこの激しくも痛々しい目映い光でも相手の正確な位置を確認するのは造作もない。
毒々しい弾丸の形をした種を充填させてた『ジルヴァラ』の銃口をラマの眼球すれすれに接近し狙いを定めた。
そして、葵は引き金を引いた……
その瞬間、辺りは外部からの爆風によって全員吹き飛ばされるのであった。




