☆もう一度、あなたに……
すみませんっ!
次回から主人公側へ戻ります!!!
( ノ;_ _)ノ
「……ぇ」
その言葉に、私は間抜けな声を出していました。
「高嶺美花さん、落ち着いて聞いてください。先日、『深淵』さんが……殉職、しました」
『風刄』さんの部下の一人が言いにくそうにそう私に伝える。
『深淵』が……死んだ……?
その言葉が頭の中でぐるぐると回っていく。
意味はわかっているのだが、それを私自身がその意味を受け入れようとはしない。何処かで拒絶していたのです。
『深淵』が死ぬなんて、あり得ない……と。
ですが、私はその言葉の意味を理解してしまう程に身体中の体温が冷めていくのがわかります。血の気も引いていて、気づけば手先が震え、下半身も機能が失われたかの様にふらふらとその場で座り込んでしまいました。
「『深淵』が……死んだ……?うそ、ですよね……?」
そんなのは嘘だとすがる様に震えた声で言いました。
ですが、それは呆気なく砕け散りました。
彼女は黙って顔を左右に振ったのです。
「そん、な……」
本当に……。
本当に……『深淵』は、死んだの?
正直、私は信じられなかった。
あんなに強い『深淵』が死ぬなんて……。
『深淵』が死んだという事実をやっとのことで心身ともに現実だと受け止めようとした瞬間に脳裏に『深淵』との過ごした日々が蘇ってきたのです。
私が少し疲れてしまった時に美味しい料理を作ってくれた事がありました。
『美花、ご飯だ。前に食べたいって言ってたチーズホンデュにしたから……ちゃんと野菜も食べるんだぞ?』
泣きそうな時、失敗した時に私の話を話を聞いてくれました。
『どうした美花。……いや、今聴くのはよそう。ほら、胸貸すから……思いっきり泣きな』
『スッキリしたか?……ん、なるほど。それは災難だったな。けど、あまりマイナスに考えるのは余計辛いよな。ならこう考えたらどうだ?例えば……』
不安で眠れなかった時、私が眠れるまで手を握りながら彼は付き添ってくれました。
『……うん?眠れないのか。……そっか。なら手を握るから……そうだな、昔母がしてくれた子守唄を歌おうか。……ぇ、い、いゃ、一緒に寝るのは、ちょっと……不味いというか……あ、いや、美花と一緒に寝るのが嫌とかじゃなくて!え、えっとぉ……わ、わかった。じ、じゃぁ、……よこ、失礼します……』
今になって、『深淵』との記憶が次々に溢れていく。
なんで、死んじゃうの?
あの時……私が、『深淵』を引き留めれば……。
私が、馬鹿な事を……『深淵』を裏切らなければ……。
そうすれば、もっと『深淵』と……。
……あぁ、なんで。
『深淵』。
嫌だよ、『深淵』。
どんなに、危険なことでも何もなかったかの様に帰ってくれる『深淵』がいると無意識に思ってしまう。
「……お願いします。せめて……せめて、『深淵』の顔を」
「申し訳ございません、高嶺美花さん。『深淵』さんの御遺体は例え同じ組織の一員である私達でも見ることも触れることも出来ないんです。それは『風刄』さんでも同じなんです」
『深淵』の顔も見ることも触れることも出来ない。
そんなの、そんなの……。
これは、『深淵』を裏切った罰なのですか。
裏切った私に、『深淵』を一目でも見ることも触ることも、権利がないのですか。
「わたしの、せいで……?」
「そんな事は有り得ません。私達は……何時なんどき死んでしまうかわからないんです。……ほんとうは、『深淵』さんは、そういうのは縁遠い存在だと思っていました。……でも」
『風刄』さんの部下である彼女は悔しそうにしていた。
私よりも、とても悲しそうに。
彼女や『風刄』さんは、私よりも『深淵』を知っているんだ。
私が知らない『深淵』……。
もし、私が……あの時、『深淵』に問い質して……そして、勘違いを解消して、そのまま恋人から、夫婦になっていたら……。
そして、『深淵』との子供を授かったら……。
どれほど、嬉しいだろう。
どれほど、幸せだっただろう。
……。
…………。
……………………。
…………………………………………。
……………………………………………………………………………………あ、だめだ。
幸せになんか、なれない。
『深淵』は、死んでしまった。
未だに信じられないけど、『深淵』は死んだ。
いや、殺されたんだ。
『深淵』と幸せになれないんだ。
私が、弱いから。
……私が、強かったら。
強かったら、『深淵』を守れたんだ。
強いから、あの時、『深淵』を無理矢理にでも問いただせていたんだ。
全ては……。
すべては、私が、弱かったからなんだ。
強かったら、『深淵』の力を恐れることもなかったんだ。
あぁ、なんで分からなかったんでしょう。
『深淵』が死んだのは、私が、弱いから。
欲しい……。
力が……。
でも、もう遅いんだ。
そう願っても。
『深淵』は、死んだ。
もういない。
この世にいない。
会いたくても……会えない。
ねぇ、『深淵』……?
あの時、話しましたよね。
もし、私達が夫婦になる時。
『深淵』の本当の名前を教えてくれるって。
もう、聞くことは叶わなくなってしまいましたけど……。
ごめんなさい。
こんな馬鹿な私でごめんなさい。
弱い私でごめんなさい……。
さて、高嶺美花さんですが……読者の皆様は少し疑問が生まれませんか?
具体的には……え、それって『深淵』じゃなくていいんじゃない?、と。
その点は後々わかってきますので、お楽しみ下さい。




